【間話】星に恋した少女
勤労感謝の日なのに絶賛労働中でイラッと来たので休み時間に書き殴った。挟む場所が中途半端なのは後で変えるから許して。
都市部・地下街の居酒屋の一室にて
「飲んでるかねフジ君!」
「ええ、まあ」
「なんだなんだ、随分気が落ちてるじゃないか!
折角の飲みの席なんだからパーっと行こう!」
「あ?」
「ヒィ!フジ君が睨んだぁ」
仕事を終わらせて、早々に帰ろうとした俺を薄らハゲの上司が呼び止めあれよあれよと居酒屋へ。
何が悲しくて勤労を労う日に上司と酒を飲みに行かねばならぬのか。横を見れば顔を引き攣らせた後輩二人が俺を見ている。
…お前らも巻き込まれたか。
「大体なんだって今日なんですか
別に明日休みでもないでしょ」
「今日の君、随分気を抜いてたからね。
これならいけると思った」
「その毛根死滅させるぞタコハゲ…」
「僕一応君の上司だからね!?」
こんな事なら定時ダッシュを決めれば良かった。
変な親切心を出してコイツの仕事を手伝うと碌な事がない。
どこかに息の根…もとい毛の根を止める薬はないだろうか。月見大福作ってくれ。
「フジさん、課長に凄い事言うっすね」
「あんまり駄弁ってる所見ないから新鮮です」
「そうだっけ?」
「フジ君は昔からこんな感じだったよ。
僕がこっちに来たのも、彼が前任を締めたのが原因だし」
「「締めた!?」」
「昔気質というか…典型的なパワハラ上司だったからな。酒瓶10本で盛大に吐いた」
「彼、その後一週間位顔が真っ青だったよ」
ああ言う自分に自信のある人間は鼻っ柱を折るのが一番楽だ。可愛い部下を鬱一歩手前まで追い詰めたんだし、酒が飲めなくなる位安い対価だろうさ。
煙草を咥え火を付けようとすると、後輩の一人がライターを差し出してくる。
「フジさん、いつもそれ吸ってますよね」
「体壊すからやめなって言ってるんだけどねぇ」
「悪い習慣を戻すのって苦労するんだよ」
「お酒もいつの間にか高いの頼んじゃってるし…」
「課長の奢りって聞いたからな」
煙草は酸素で酒は水。
セイちゃんに嫌われるのが嫌だから、外かこう言う場でしか吸わないがやはり良い物だ。
肺に煙を流し、ゆっくりと紫煙を吐く。
最近は紙も廃れて水蒸気が主流になってしまったが、こう言う骨董品を楽しむのは楽しい。
「あーあ、そんなに勢いよく飲んで」
「これ、来年値段が三倍位跳ねるらしいですよ」
「嘘!?すみません僕も彼と同じ物!
君達はどうする?」
「あ、頂きます!」
「俺もお願いします!」
なんだかんだと始まった男達の飲み会は、賑やかな笑い声と次節聞こえる怒鳴り声の中で楽しげに終わった。
「おかえり兄上…お酒臭い」
「ごめんセイちゃん。風呂空いてる?」
「そろそろ帰ると思った故、温めたぞ」
あの後上司の財布を空にする勢いで飲みまくっていたが途中で全員から必死に止められ財布の安寧は死守された。
二軒目はクラブに行くと言っていたが、あまりそういう場所は好きではない。と言うかもし仮に行ったら直ぐにセイちゃんが気付いてクラン内で晒し上げを食らう。
結局、後輩達を先に帰し上司一推しのバーで酒を飲み交わしお開きとなった。
熱いシャワーを体に掛け、酔いを覚ましてリビングに行くとセイちゃんがソファに座り俺の方を見ている。
「兄上、兄上」
やめてくれ、そんなに期待した顔で俺を見ないでくれ。膝をポンポンと叩きながら名前を呼ばれるが、流石にこの歳で膝枕は恥ずかしさが勝つ。
想像して欲しい。妹とは言え中学生に膝枕される男の姿を。
地獄絵図だ。
「お兄!」
頑なに自分の元へ来ない俺に業を煮やしたセイちゃんが立ち上がって手を引いてくる。
強制イベントなのか、分かった行くよ。
南無三と言いながら覚悟を決めて膝に頭を乗せた。同じ柔軟剤の匂いがする。
「お兄、いつもお疲れさま」
「やりたい事をしてるだけだし苦じゃないよ」
「それでも、ご飯とか作ってくれるしお小遣いもくれるし…それに」
「それに?」
「クロノスに誘ってくれて、友達も出来た」
「良かったな」
「だから…ありがとう」
頭を撫で付けながら俺に感謝を伝えてくれるセイちゃんだが、それはこちらの台詞だろう。
この子が…そして仲間達が居たから俺は今文字通り生きている。
「俺からも、ありがとうセイちゃん」
「何故兄上が言うのだ」
「なんでだろうな」
聞き心地の良い鈴の音のような笑い声を聞いていると途端に眠気が襲ってくる。どうやら俺も随分飲んだらしい。
睡魔に身を委ね、遠のく声が耳を撫でる。
「おやすみ…兄上」
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静かな寝息を立て、私の膝の上で眠る兄を見る。
皆に愛される兄。クロノスの仲間からも仕事の人達からも弟の様に、兄の様に慕われる私のお兄。
「可愛いなぁ…お兄」
いつも無意識に周りを警戒している兄が、今ではまるで子供みたいに寝ている。
私のお兄︎…私だけのお兄。
クロノスの皆は大好きだけどこの場所だけは譲れない。チヨちゃんや羅刹丸は狡い狡いと言うだろう、BBや十六夜は無言で圧力を掛けてくるかな。
初めて会った時、私とは別の存在で私が持ってない物を何でも持っているお兄が疎ましく妬ましかった。
でも、触れ合って接していく内に理解した。
お兄は皆にとっての星だ。
手を伸ばせば届きそうなのに決して触れる事を許さない輝星。
誰もが触れる事を諦め、そして諦めずに触れられたのが今のキラークラウンの皆なのだ。
まあ、殆どお兄が拾ってきたような物だけど。
…別に嫉妬なんてしていない。
どれだけ仲間が増えようと私の位置は変わらない。私は今この人を独占している。
それは、なんて強くて甘い毒なのか。
「お兄…大好きだよ」
口に出すが、これは聞いてもらう為に放った言葉ではない。
これは自分の…言うなればノルマのような物。
今も尽きぬ事なく星の光に焦がれているかを確認する為の儀式のような物。
顔を近づけ頬を撫で耳を食むが反応はない。
あ、顔を顰めた。
少しばかりのイタズラはするが、それ以上を求めるつもりはない。
だって私はいつまでも
「お兄の妹だから」
ついでに幹部連中は全員これ位の重量級。
普通のメンバーも重い子多数…書いててあれだけどなんだこのクラン?