いざマイルーム
光の玉さんの謎の発言について考えていたら、いつの間にか街の中で棒立ちしていたでござる。
転移は既に終わっているようで俺は今アルテマ・オンラインの始まりの街ルディエのスポーン地点にいた。
グラフィックはあの頃から変わらず…なんて事はなくめちゃくちゃクオリティが上がっている。
え、何この噴水。グラフィックめちゃくちゃ凝ってるね、どんだけポリゴン使ってるの?
思わぬ進化にウキウキしていると、今度は普通の電子音声が聞こえる。
《コンバート特典:リク様のマイルーム券を取得しました》
「来た来た来たァァァァ」
人目を憚らずに大声をあげてしまったのはご愛敬である。それ位今テンションの上りがおかしいのだ。
手に入れたマイルーム券をアイテム化し、手元に引き出す。
「さて、私の戦闘力は軽く500億あったけども一体どれほどの島を与えて下さるのだろうか」
正直たかがマイルームの為に530億(端数切捨て)も資金を持ち出したプレイヤーなんて俺位な物だと思う。
いやまあPKってお金になるんだよね、落ちた装備は店売り出来るし所持金も全部落ちるし。
そもそもうちのクランってあんまりお金使うヤツいなかったからなぁ。
さて、そんな過去回想は放り投げて今はマイルームですよマイルーム。
どう使えば良いのか分からないので取り敢えず券をタッチしてみる。
《マイルーム券を使用しますか?》
合ってたらしい。勿論YESだ。
ウインドウのYESを押すこと数秒。
《システム欄にマイルームの項目を追加しました》
《5秒後マイルームに移動します》
あ、直通なんですね。
視界が暗転する。セイちゃんが使ってた転移魔法のエフェクトがこんな感じだったなぁと懐かしく思っていると、目の前に緑が広がった。
広い。
そう感じるのは仕方のない事だろう。今俺がいる場所を中心に四方八方囲まれた木の群れ。いや、東の方は木が少ないな何アレ石柱?西は樹海というより森に近い。
パッと見渡した感じ島の全体像すらつかめない広さを誇る姿は壮大の一言である。
目を引くのは時節所々に積まれた石のアーチ。目の前の大自然とは少し違和感を感じる人工物が辺りに散らばっている。昔人でも住んでいたのだろうか、今は捨て置かれたそれらに哀愁すら感じる。
そして、
「雲、近くない?」
そう、めっちゃ雲が近い。
手が届きそうな距離に雲がある、どういう事?
マイルームは普通のフィールドマップからは隔離された別の空間に生成される。つまり、530億の対価はこの高所に置かれた広大な島という事だろうか。
マップ機能を使い全体を見ていると、ある事に気が付く。
今俺がいるスポーン地点は島の南端に位置するらしい。ちょっと走れば南の最果てにたどり着けるだろう。
「よし、走るか」
言うが早いか全力で駆けだす。周りは木々で覆われているが、パルクールもどきなら奥羽の山で経験済みだ。
風を切る様に走る。レベルはまだ1だが、それでも現実で走るよりも速度が段違い。それでもあの頃はこれの倍以上早く移動していたし慣れた物だ。
そんな事を考えながら走っていたらもう目と鼻の先は最南端。
「境界線拝んでやるぜぇぇぇぇ」
最後の木の枝を掴みながら体を前に押し出す。
一面の青だ。澄み切った空の青さと所々にある白い雲。
ああ、成程。
だから雲があんなに近かったんだね。
うん、なら納得だ…。
「ここ、空の上じゃねえかぁぁぁぁぁぁ」
カッコつけて行った最後のパルクールもどきで体は宙を飛び、俺は澄み渡る青に全力ダイブをかますのだった。
拝啓我が愛するクランの仲間達、そして愛しのマイシスター。
どうやらお兄ちゃんの島は空の上にあるようです。
「落ちるるるるるる」
紐なしバンジーってこんな気分なんだな。言葉とは裏腹に全てを悟ったような気分になりながら俺は空の海に溶けて行った。
《称号『翼無き天使』を獲得しました》
煽ってんのかクソ運営。