宴の始まり
明日は遂にアイギスの10周年放送ですね皆さま。
なので大盤振る舞いします。
五話連続投稿!
…長い旅の様に思える。
焼き上がったパイを見ながら遠い目をする俺。そして、ずっとキラキラしたお目目をしている白玉。
うん、予想以上に多かったねパイ。焼くのに時間が掛ったけど、切り分けるのにも時間が掛った。
時間は、もう10分しないうちに約束の時間になるようだ。
パイをアイテムボックスに仕舞い俺は外に出ると、皆一様に俺達を待っているようだった。
「…キャンプファイヤー?」
「流石に外でやるのに真っ暗はダメでしょ?」
見れば街の真ん中にはドでかい炎の塊。
燃える物がないこの場所だから出来るが、暗くなってきたので皆で準備をしたらしい。
キャンプファイヤーの前には長テーブルが並べられ、22人全員が集まっているようだ。
月見大福が俺をキャンプファイヤーの前へと促す。
「待ってたよリッくん!」
「どうだ、結構片付いたもんだろぉ?」
HaYaSEの言葉に周りを見渡すと、確かにさっきまで倒れていた石柱や瓦礫などが一カ所に集められている。
凄いな、少し前まで荒れていた街が小綺麗になっている。
「元々、ルディエやアルトメルンよりは小さな街だったから分担すれば早かったよ」
「MPは底をついているがな」
「セイちゃん頑張ってましたものね」
胸を張るセイちゃんの頭を撫でる女王。まるで姉妹のように接するその姿に少しジェラシー。
なんて事は特になく、皆頑張ってくれて本当に嬉しい。
「大丈夫だセイちゃん、枯渇したMPは直ぐに戻る」
「どういう事だ兄上…?」
「皆、鑑定はまだ使うなよ」
俺の掛け声に各自返事を返したので、一つ一つのテーブルに俺は果実パイが乗った大皿と取り皿、フォークを置いて行く。
アイテムボックスに入れたアイテムは基本的に入れる前の状態で保存される。
熱々のパイを見て、皆目を輝かせている。
よし、全部のテーブルに置き終わったな。キャンプファイヤーの前に歩き、俺は全員を見る。
「さて、皆が集まってくれて嬉しく思う。
クロノスがアルテマに変わって初めて全員が揃った場だ。新しいメンバーも加わってまた一つ賑やかになった」
BBや桜吹雪鱈がメルティを小突いて、当人は顔を赤くしている。まあ、大勢の前だしね。
「俺達が掲げる物はただ一つ。それは…俺達がこの世界を楽しみ、全力で遊び尽くす事だ!」
「おおー!」
「楽しんでるぜぇ!」
野次を飛ばしてくる仲間達。全く付き合いが良い。
「俺は今日まで皆に世話になってばかりだ。だから、今日はその礼も兼ねてこれを用意した」
テーブルに乗る果実パイ。それを指差し続ける。
「今日は盛大に食って騒ごう、以上!」
『うっしゃぁぁぁぁぁ』
俺の言葉を最後に全員がパイに手を伸ばす。
女王を始めとした女性陣の集まるテーブルは華やかで品があるが、男どもお前ら熱いのに手で取るな手で。ピザじゃねえんだぞ。
「なんだこりゃ、滅茶苦茶うめぇ!」
「これ何の果実使ってるのリッくん!?」
「上品な味わいですわね、食べた事のない…」
「美味」
「お兄、なんかMP全快しちゃったんだけど!?」
「HPも回復しちまってる…」
各々良い反応を見せてくれて首領凄く嬉しい。
俺の言葉を忠実に守って鑑定を使用しないメンバー達に向け一言。
「鑑定、解禁!」
「やっと見れや…は?」
「はぁ!?」
「これ発覚したら暴動おきません?」
「リク、これはやっちゃったんだね…」
「流石は俺達の首領だ」
「どうだHaYaSE。あの日の串焼きのお返しだ!」
「いや首領…お返しって、ええ」
「HaYaSEがツッコミを失ってやがるぞ!?」
そうだよ、お前達が今食ってるのとんでもない物なんだよ。なんだろうな聖樹って、なんだろうな天上の者って。
ハハハハッ、俺があの日味わった苦痛を…味わえ味わえ。
驚愕する者や難しい顔をして考察し出す者、一度見た果実が更に暗黒進化を遂げてると思う者。
三者三様、十人十色の反応をするクラメンを俺は高笑いを浮かべ見る。
「そらお前ら、今日は無礼講だ。
全力で楽しめ!」
『無茶言うな!』
全員の声が揃い周囲に木霊する。
ああ、楽しい。
皆で揃って、皆で騒いでまるであの日のようにそこら中で声が響いて。
思えば俺は、新しい世界で楽しんでた半面少し寂しかったんだろうな。
コイツ等がいるからこそ、このゲームは俺の中で輝いている。コイツ等のお陰で俺の今は確かにある。
PKをやっていた時とは別の賑わいだが、それでも価値のある。
本当に、この世界に来て良かった。