準備中
キリ番って言う前にキリ番が終わってた…
「八千代達はそっちの瓦礫撤去お願い」
「はーい!」
「源氏小僧達はそっちの倒れてる石柱ね」
「うっしゃぁ任せとけ!」
「十六夜達はリクの家の掃除だね」
「了解っスよ、参謀」
どうしてこうなったんだろう。
現在時刻17時。ログインをした俺は白玉を引き連れて軽く宴会場の準備をしようと外に出た。
そこに奴らはいた。半数以上のCCのクランメンバーが街の瓦礫や石柱の撤去を行っている。
なんで?
何故か指揮を執っている月見大福の元に歩いていく。
「これ、どういう状況?」
「あ、リクお疲れ。ちょっと今街の整備中だから待ってね」
一度俺を見た月見大福だが、すぐに手元の帳面と睨めっこを始める。
「待て待て待て待て」
「ああ、ごめん。少し忙しくて」
「いや、なんでお前ら街の整備なんてやってるの?」
至極真っ当な疑問だと思わない?
ログインしたら自分の街を自分の仲間が整備してるってどういう状況なのよ。
俺の疑問に対して少し思案した月見大福だが、すぐに言葉を紡ぐ。
「物資を運んでくる度に思ってたんだけど、ここはボクらの首領が住む場所だよね」
「うん」
「前に配信の時にボソッと言ってたじゃん。この街も少しずつ開拓していきたいって」
「うんうん」
「ボクらとしてもリクにはもっと良い環境でスローライフを送って欲しい」
「うんうん、うん?」
「だから、折角皆が集まる訳だし瓦礫や石柱を片付けようと思ってね。リクだけだと力仕事をやるのも苦労するだろうし」
成程、成程?
いやそれでなんでこんな人数集まってるんだよ。まだ集まる時間2時間位先だよな?
「皆今日はオフにしようと思ったみたいで、ボクが来た時には殆どここに集まってたよ」
「マジかよ」
いやでもほら、一応俺家主な訳だし一言リアルでメッセージをくれても良かったのではなかろうかと思う訳。皆に仕事させて俺だけ重役出勤とかアレじゃん。
「気にしなくてもいいと思うけど?
皆も前々から開拓を手伝おうって考えてたみたいだし」
「いや、でもさぁ」
「それにリク、自分で決めたルール忘れたの?」
ルール?そんなものあったっけ?
「このクランで面白そうな事を始める時は?」
「…多数決」
俺じゃん。そうだよ、そんなルール決めたの俺だよ。
ダメだ、全ての言論を塞がれている。
もう何も言い返すことが出来ないので、俺も月見大福から指示を貰おう。
「俺は何かやる事とかある?」
「んー、もう班決めも終わって作業だけだしリクはご褒美作りでお願い。皆楽しみにしてるからね」
戦力外通告である。
確かに見れば、三組に分けられたクラメンが各々作業をしている。なんでそんな迅速なんだお前ら。
負担をかけてしまったのは悔やまれるが、そうだな果実パイ焼きに行くか。
「キュキュ…」
「ああ、俺が出来る事を頑張ろう…」
白玉に頭を撫でられながら、俺は石窯のある場所へと向かった。
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「さて、焼くか」
「キュキュ!」
魔石に火を付け三つ程石窯の中に放り、俺はアイテムボックスの中から果実パイのタネを取り出す。
一つ一つ網の上に均等に乗せて火の中へ。
「石窯でパイ焼きなんて初めてやるし、最初は慎重に行こう」
「キュウ」
一人と一匹。真剣な面持ちで窯の中を見る事数分。徐々に良い焼き目が付いていき、パイの香ばしい香りが内から外へ流れていく。
『凄い良い匂いしてきたー!』
『首領が準備を始めたみたいでさぁ』
『パイかな?』
『よっしゃぁ、こっちもあと少しだ。気張ってくぞ!』
『源くんが一人で石柱抱えてる!?』
『負けん』
『刃の兄貴早まるなぁ…』
一部抜粋だが外から様々な反応が返ってくる。
外も頑張ってるな、と思っていると第一陣がどうやら焼き上がったらしい。
窯から取り出し、鑑定。
『聖樹の果実パイ』
聖樹の果実を贅沢に使用し、焼き上がった創作料理。その味は天上の者すら唸らせ喜ばれるだろう。
:HP、MPを完全回復
:毒、麻痺などの状態異常、上位の呪いの無効化
:一定時間全ステータス上昇
やべえの出来ちまったぞ、おい。
聖樹の果実はまだリジェネ効果だけだった。だが、これはもうなんか別ゲーのエリクサーと同じでは?
てか何だ天上の者を唸らせるって、やっぱり神様いるのかこの世界。
ウインドウを消して、白玉を見るととてもキラキラした瞳で俺を見ている。
「まだ、ダメだからな」
「…キュキュ」
苦渋の決断でも迫っているかのような悲痛な表情。
果実パイ一つでそこまでの顔する?
何も見なかった事にしてアイテムボックスに仕舞い次を焼き始める。
俺達の戦いはまだこれからだ。
ちょっと補足。
蘇生アイテムはクロノスの頃はありませんでした。
例外として白魔術のリレイズが事前に掛ける事で、全損時少量のHPと共に復活するだけ。
それと調理アイテムは基本的に嗜好品扱いでHP回復はあっても、ステータスの上昇効果などはない。
そして、掟とか作っといて基本的に忘れている男こそ首領。