アルトメルンにて
ちょっとだけ作者名弄ったかも?
時間指定投稿、凄い楽だけど大体設定し忘れて寝てる。
日がな仕事して小説書いてX見てるだけだけど。
「ここが風の都アルトメルンか」
風車が無数に立ち上る街の入り口に俺は立っている。
あの後は特に何も無かった。
アビリティを使って平原を駆け抜け、街へ入る橋を塞ぐように昼寝をしていたフォレストスネークに一発蹴りをいれて逃走。全力ダッシュを図り、くしくも花火職人さんと同じ手法で街入りを果たした。
いや、だって俺まだレベル1だもん。プレイヤーならともかくデカい蛇と戦うなんてとてもとても…。
《一時間掛からなかったね【月見大福】》
《ボスがフォレストスネークに飛び蹴りを入れた時は驚いたな【凱歌】》
《それより俺は酔った【HaYaSE】》
《鍛錬不足だな『200000マニー』【刃狼】》
《やーい、修行不足ー!【八千代】》
《お前らと一緒にするなぁ【HaYaSE】》
仲間達もここにいるようだが、どこにいるかは教えてくれなかった。
視線を街に移し、見渡す。
アルトメルンの街はルディエよりも少しだけ広いようだ。止まることなく風が吹き、それによって風車が忙しく動いている。
街門を通り抜けると、プレイヤーの波。
流石今の所最前線の街だ、露店もルディエの倍は出てる。
「なんかおすすめの食べ物とかある?」
《海が近いから海産物は豊富だけど、正直魔魚には劣るかな【月見大福】》
《ランドワームの串焼きは割かし美味かったな【凱歌】》
《うえぇ虫やだぁ【八千代】》
《お嬢は見た瞬間逃げやしたもんね【蛮刀斎】》
《ウチもあれ嫌いだな~【flowerdrop】》
ワーム系は俺も苦手だ。足と目がない虫って生理的嫌悪感が凄い。
白玉は、どうだろ何も言わずに差し出せば食べるかな。怒られるか。
通りを歩くプレイヤーの群れを見ながら進む。
一様にレベルが高そうだ。俺は装備は整ってるが、レベル1だしな。
「…あのデカい屋敷はなに?」
《領主館だね【月見大福】》
街の奥に聳える大きな屋敷。
月見大福の情報では、このアルトメルンの領主バナディスが住んでいるらしい。らしい、というのはNPC達の情報で存在が確定されたが未だ本人見た者はいないとか。
ルディエにも領主って居たのかね、デカい屋敷は無かったような気がするけど。
大通りを歩きながら散策していると見知った顔に遭遇した。
「あれ、HaYaSEじゃん」
「よっす、首領」
「さっきまでコメント欄いなかった?」
そこに居たのは濃い茶色の髪で目を隠している顔色の悪い男。我がクランのツッコミ担当であるHaYaSEだ。
「首領が大通り歩いてたから、顔でも出そうと思ってよぉ」
《HaYaSEずるい!【八千代】》
《お嬢は目立ちますし…【蛮刀斎】》
間延びした独特な喋り方で話すHaYaSE。
今もまだ配信を見ているようで小さいウインドウを横目にして口を隠し笑っている。
八千代や刃狼は掲示板の常連らしく、結構プレイヤーに知られているらしい。
「そんじゃ首領の案内は俺が貰ったぜ八千代ぉ」
《あとで闘技場ね【八千代】》
「ソイツは勘弁だなぁ」
「闘技場?」
知らないワードが出て来たので聞いてみる。
「おう、領主の屋敷の近くに変な建物あるだろぉ?」
「ああ、あれか」
指差す先を見ると、確かにある。
領主館よりも少し小さめのドーム状の建造物。
さっきは領主館にばかり目が行っていたが、あれもそこそこ大きい。
「あれで他のプレイヤーとPvPが出来るんだよ」
「へえ、PKなしで?」
「おう、PKなしで」
説明を続けるHaYaSEと耳を傾ける俺。
聞けば異邦人同士の修練場という名目らしい。闘技場では独自のランキングがあって、プレイヤー達が競い合ってるとか。
「『拳鬼』の爺さんもあそこで籠ってるぜぇ」
「あの全裸縛りの爺さん?」
「そうそう」
あの爺さんも相変わらずだな。
装備を着ずにインナー姿でモンスターを狩る爺さんがクロノスでいた。
レッドネームを気にしてPvPはやってなかったらしいが、あの爺さんには随分お誂え向きな場所だ。
《リクに会ったら、絶対挑戦状叩きつけるだろうね【月見大福】》
《リッくんと戦いたがってたもんね【八千代】》
そういえば、面と向かってあった事はなかったっけ。
道化狩りとかいうお遊戯会にも参加してなかったし、正直面倒だから会いたくないな。
闘技場を見ながら考えていると、HaYaSEが話しかけてくる。
「首領、ちょっと食い物買ってくらぁ」
「ん、ああいってらっしゃい」
足早に露店に走るHaYaSE。
取り敢えず手ごろな所にあるベンチに腰を下ろす。
止む事のない風が頬を撫でる。気持ちいいな、日差しもあってか眠くなってくる。
「良い場所だね、ここ」
《人は多いけど、広いからのんびりできるしね【月見大福】》
《風が気持ち良いの!【八千代】》
うん、良いね。
目を閉じながら風を感じる。心穏やかになるってこう言う事なんだろうな。
「おーい首領、買ってきたぜぇ」
「ありがとうHaYaSE」
見ればHaYaSEの手元には二本の串焼き。
まるまるとした肉が焼けており、タレの匂いがこちらにも伝わってくる。
「美味しそうだね、これモンスターの肉?」
「おう、そうだぜぇ。食ってみろよ」
《あれ、それって【月見大福】》
《あ【凱歌】》
促されるまま、口に含むと意外と肉が柔らかい。
味はなんだろう、少しまろやか。
不思議な感覚だけど意外と悪くない。
「それランドワームの串焼きなぁ」
「ブフッ…!」
《リッくん、食べちゃったね…【八千代】》
さっき言ってた虫じゃねえかよ!
でも、不思議と不味いとは思わないから悔しい。
苦い顔をしながら串焼きを食べる俺を見てHaYaSEが笑っている。
畜生…悔しいけど美味い。
憎々し気にHaYaSEを見て、俺は口を開く。
「もう一本!」
こうして、俺の一度目のアルトメルン観光は終わった。
HaYaSEは割とお気に入り。
職業は付与術師。
基本的には杖を持たずアクセサリーだけでパーティを支援するタイプ。
サブヒーラーの役割を熟す事もある。
実は独占欲が強い。