天才少女
釣り場解禁の翌日。
うん、いつもより倍以上の支援物資が送られてきていたよ。中身は半分くらい魚だったけど。
誰が言い出したのか俺に魚を送ると手料理が食えるという話が伝わり男連中、女連中問わず大量に魚が届いた。
まあね、やっとアイツらに少しでも還元できると思って作り続けたよ。
《『調理』スキルのレベルが上昇しました》
《派生スキル『調理【魚】』が解放されました》
《『調理【魚】』のレベルが上昇しました》
一日で調理スキルのレベルが6まで上昇したよね。派生スキルの方に至ってはLv7。
『月の祝福』の経験値うんたらが効果出てるのかな。
簡易調理なんて言うアビリティも取れたんだ。え、使ったかって?アイツらに食わせる料理に手なんか抜けるか。
あらん限りの時間を下ごしらえと料理に費やしたから、お陰様で魚料理アイテムがゴロゴロとボックスにストックされていく。
アイツらが笑顔なら、俺はそれでいいんだ。
「づがれだ…」
「キュキュ…」
死ぬ。本当に疲れた。
朝にログインしたはずなのにいつの間にか、日が落ちてる。集中し出すと時間感覚を忘れてしまう。
ベッドに横たわる俺の頭を白玉がよしよしと撫でてくれるが、お前もちゃっかり魚持って来たの見逃してないぞ。
『白玉さんから贈り物があります』ってログ見た時思わず二度見したからな。
何お前、アイテム贈れるの?ペットから贈り物届く体験とか初めてだわ。
「まあいいんだけどさ」
よし、釣りしに行こう。
魚は十分ボックスに入ってるけど、何も考えず竿を垂らすのでもまた一興。
皆の話だと五匹位釣ったら『釣り』スキルを取れたらしい。
暗いし焚火でもしながらやろうかな。
立ち上がった俺のフードに潜り込んでくる白玉を連れ、釣り場へと向かう。
数分掛けて歩き、到着するとどうやら先客がいるらしい。
「ん、誰かいるな」
「お、ボスじゃないっスか」
小さい紫紺の髪を無造作に伸ばした少女。
十六夜だ。珍しいヤツに遭遇したな、カンテラのような物を傍に置いて釣り竿を垂らしてる。
「なんだ、来てたのか」
「学校が終わって今ログインした所っス」
ニハハッ、と笑う十六夜に少し安堵する。
コイツは一時期不登校になっていた事があった。学校に馴染めないし、家でも勉強出来るからと登校拒否していたそうだ。
普通の学生だったら適当に学校に行った方が良いよとか言えるんだけど、コイツ才能の塊だからな。
文学、運動問わず初めてやった事でも数回熟せば熟練者顔負けの技量を見せる。
何の因果か偶然PKしてる時に遭遇して、何度か叩きのめしてやったら懐かれてクランに入った。
いや本当に大変だったわ。女王が会社に勧誘し出すし、八千代が自分の護衛番にならないかって勧誘するし。護衛番ってなに?
「それで、天才少女は釣りもマスターしたか?」
「ダラダラ時間潰せて結構楽しいっスね」
「キュキュ!」
「お、白玉ちゃん初めまして。十六夜っスよ」
十六夜と白玉の初邂逅。そういえば、BB達の時は他のプレイヤーがいたから見れなかったしな。
十六夜の隣に腰を下ろし、俺も竿を準備する。
「そういやお前、何か西側に放浪の旅に出たんだって?」
「そっスよ。南は銀竜、北は大多数のプレイヤー。
それじゃあオープンワールドなのにつまらないっス」
「そんなもんかねぇ」
天才の考える事は分からねえなぁ。ああ、そういや朱雀も開始初日に海泳いでたわ。
あれもまた天才…いや天災か。
「最近行きかうNPCと話すことがあるっスけど。
なんでも私が向かってる場所に『聖国』ってのがあるらしいんで、そこまで行こうかなぁって」
「へえ、新しい国ねぇ。今のレベルは?」
「45っスね」
「結構高いな」
風の都までの平均は25とセイちゃんが教えてくれた。
八千代とか刃狼と同じ位か。
雑談を交えながら水面を見ていると、ピクリと反応あり。
合わせて合わせてっと…。
「よし」
「おめでとうっス、ボス」
鑑定は、魔魚。
捌いてる最中にも見たけど、形違ってても名前は固定なんだね。本当に手抜きじゃないんだよな?
「ここで釣れる『魔魚』っスけど、普通の釣り場には出現しないらしいっスよ」
「魔力の濃い場所で起こった特殊変異らしいからな」
「うちのマイルームは普通に無人島だったっス。
何なんですかね、この島って」
「知らねえ」
白玉に聞いても教えてくれないしな。
相変わらず水面を凝視している白玉を二人で見るが、一向に此方に見向きもしない。水の中になんかいるの?
あ、そういえば魚はいるけど野生生物と遭遇しないな。
「なあ十六夜。ここで釣りしてて動物ってみたか?」
「一度も見てないっスけど、時々視線は感じますよ」
「じゃあなんかいる?」
「敵意じゃないんで無視してましたけどね」
これは後で彷徨いの森探検隊を結成するか。まあここまで広い森だ、なんかいてもおかしくはないか。
「あ、そうだボス。弁当ご馳走様でした」
「弁当って…魔魚の塩焼きか?」
「そっス、凄い美味しかった」
そりゃ良かった。
このゲームちゃんとアレンジとか細部まで再現出来るからちょっと不安だった。基本俺味は濃い目が好きだから。
「喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「なんかボス、すっかり隠居したお爺ちゃんみたいっスね」
「爺さんはやめろ」
まだ若いわ。
クスクス笑う十六夜にツッコミを入れていると、急に十六夜が立ち上がる。
「それじゃあ、私はここら辺でお暇するっス」
「おう。そうだ、そっちの方でなんか鉱石とかあったら教えてくれ。ちょっと鍛冶やってみたい」
「大工に料理、今度は鍛冶っスか。多芸っスねぇ」
「面白そうな事は片っ端からやろうと思ってるからな」
成程、と頷きながら竿を仕舞い俺の方に体を向ける十六夜。
芝居のように大仰な動きをして俺に一礼してくる。
「それでは、我らが首領のお望みのままに」
「お前も好きだねぇ」
礼をそのままに少しすると転移によって消える。
左手でウインドウ弄ってたのか、器用な事をするもんだ。
さて、俺もあと数匹釣って『釣り』スキルでも取るかな。
竿を構え直し水面に向き直る。
出揃ったぞ、CCメンバー人外枠解説!
・リク
常識人の皮を被った狂人枠。平時は正直他のメンバーとどっこいどっこいだけど、キレたら手が付けられないタイプ。
三人程キレた事があり一人は今でも楽しそうにPKライフを送り、残り二人は引退した。
使える物はなんでも使う。モンスタートレイン、毒殺、リスキルと色々手広くやってた。
・朱雀
狂人枠。CCトラブルメーカー2。強いヤツとの戦いならPK、NPKなんでもありの戦闘狂。
自分より強そうな相手に片っ端から喧嘩を売るせいで、よく面倒事を持ち込んでいた。
正直リクが手綱を握ってなかったら色々大変だった。死神と同じ枠。
・八千代
常識枠。大多数の敵を前にするとテンション上がる系少女。
連戦する毎にテンションが上がり、剣のキレが増してゆく。
蛮刀斎などのパーティメンバーは、リクからストッパーの任を与えられている。おまいう案件。
・刃狼
常識枠?他のメンバーの仲裁を行ったり、年上メンバーと情報交換をしたりと真面目な人。
だが、HPが減る事にテンションぶち上げる生粋のスリルジャンキー。
・十六夜
常識枠。ただの天才。前衛、中衛、後衛と任せれば大体何でも人並み以上に熟す。
天才ゆえに最初の頃は人に馴染めない葛藤を抱いていたが、厄ネタに愛された元厨二男と強けりゃ取り敢えず殴る暴漢がいたので、案外自分は普通なんだと思う様になった。