何でも屋
プロットって崩壊するからプロットなんだよ
メルティさんとの交渉後、ルディエの街散策を再開した。今はBBと桜吹雪鱈と一緒だ。
あの後女子トーク?のような物に巻き込まれそうだったので半ば強引に出て来たら、いつの間にか二人が後ろにいたのだ。
ついでに白玉は眠そうだったから島に置いてきた。ベッドに置いたら直ぐに丸まってキューキュー言いながら寝てた。
「首領、なんか買ってくの~?」
「食器とかも欲しいし、後は調理器具かな」
まだ島には調理台のような物はないが、最低限切ったり焼いたりするのに包丁とか必要だろう。セイちゃんから送られてきた短剣でやっても良いが、武器で食べ物捌くのは最終手段だしな。
例えゲームでも衛生面、大事。
「雑貨屋とか、鍛冶屋、見に行く?」
「良いね、行こう行こう!」
「待て、引っ張るな」
桜吹雪鱈に腕を掴まれ半ば引きずられるように歩いていると、他のプレイヤー達の喋り声が聞こえて来る。
『おいあれ、少し前に花菱アリスと狩りしてた子達じゃね?』
『ホントだ。何でこの街に来てるんだろ』
『もう一人の男は誰だ?初期装備っぽいし新規か?』
『リア友とかじゃねえの?』
何やら二人を見ながらヒソヒソ話しているらしいが、花菱アリスって誰だ?こいつ等のフレンドかな。
にしてもこのMMOの世界でフルネームプレイって随分気合が入ってるな。
疑問の答えはすぐに本人達から答えが入った。
「あー、ちょっと前に苦戦してた子がいたから手を貸したのよ」
「そしたら、その子も、配信者だった」
「なんか花火ちゃんって呼ばれて若い子達に有名な人みたいよ」
え、あの花火ちゃんだって!?
…ごめん、知らない。花火職人ならフレにいるけど、アイツじゃないだろうし。そもそもアイツ男だし。
最近の若い子の流行りには疎いのよな俺、まだ20代だけど。軽いジェネレーションギャップを感じる。
「まあ私達も全然知らなかったんだけどね」
「私も、配信とか、首領のしか見てないし」
「お前らも若い子じゃないの?」
「それ首領が言う?」
そうだよなぁ。
めちゃくちゃ広いとは言え、ここは一つの世界。
どんなすれ違いで有名人に会うか分からない。
何時ものようにバカ話で盛り上がってたヤツが、実はVR研究のトップだったり、世界にまで進出してる会社の令嬢だったりする事もザラにある。
いや、アレは女王とか社畜が特別なのか。
うんうんと唸っている俺に声が掛かる。
「着いたよ首領、行きつけの雑貨屋」
「武器から装飾、日用品まで揃い踏み!」
「おお、…小ぢんまりしてる」
見れば目の前には何でも屋の看板。何でも屋?ちょっと小さな作りで、なんというか穴場のような場所だ。
扉を開くと、中は意外ときっちり整頓されていた。
武器は壁に立てかけてあり、装飾品は右半分のテーブルに並べられている。もう半分は日用品かな、凄い装飾の凝ったペーパーナイフとか置いてる。
部屋の奥には店番だろうか。凄い体型が良いポニーテールのお姉さんが座っていた。
「チェシャさんやっほー」
「ご無沙汰」
「なんだいBBに桜じゃないか。こっちの街で買い忘れでもしたのかい?」
二人の顔を見回し気さくに話しかけるポニーテールさん。成程、姉さん気質な人なのかな。
「今日は、別件」
「アタシらのクラマスが欲しい物があるらしくて連れてきたー」
ポニーの姉さんが後ろに立つ俺を見る。全身を上から下まで見回し、もう一度目が合うと、杵手を打ちニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。
なんだなんだ?
「へえアンタがねぇ、会えて光栄だよリクさん。
アタシはチェシャ猫。鍛冶師をしてる」
「初めましてリクです。もしかして彼女達から俺の話でも聞いてました?」
メルティとは違いスムーズに握手を交わして互いに挨拶すると、何故か二人の方が不思議そうな顔をしている。
「いんや、この子達からは何も聞いてないよ。
ただ会いたかった人に会えて嬉しくてさ」
「会いたかった人ですか?」
笑顔を保ちながら聞き返す。
「本当に会えて光栄だ。首狩道化のリク…って、待ちな!別に何もしないよ」
反射的に剣に手が伸びるのは癖なので気にしないで下さい。いつの間にか俺の後ろに控えていた二人も得物に手を掛けている。
慌てた様子のチェシャ猫女史は、ドウドウと動物を諫める真似をしながら説明を始める。
「別におかしい事はないだろ?前線に出てたヤツらならアンタの顔を知っててもおかしくない」
「ああ、もしかして攻略組の人でした?」
「そういう事、黒槌担いだお姉さんに見覚えは…なさそうだね」
だって首落としたら一瞬で砕けるじゃんアバターって、顔見る前に消えちゃうんだから覚えられない。
BB達も普通に接していたという事は、やっぱり覚えがないんだろう。
残念そうな顔をするチェシャ猫女史が不憫だ。
「戦う事しかしなかった強敵がのほほんと私の店を訪ねてきたからテンション上がるだろう?」
「そう?」
「アタシは上がらないかな~」
同意である。自分の島に『死神』とか『天剣』がのほほんと訪ねて来たら俺は仲間引っ提げて罠にでも嵌める。染みついたPK根性は抜けないのだ。
こういう所が悪いんだろうなぁ、なんて思っているとチェシャ猫女史が机に両手を付き声を掛けてくる。
「それで、道化の兄さん。
名の知れたアンタは一体なんの用があって、こんな辺鄙な鍛冶屋を訪れたんだい?」
ああ、成程ね。形から入るのが好きな人ね。
なら仕方ない俺も乗ってやるかと、こちらも片手を机に乗せ声を潜める。
「果物ナイフを数本と、使い勝手の良い包丁。それとまな板もあったら欲しい」
「…なんて?」
声聞き取りづらかったかな。
もう一度同じことを繰り返すとチェシャ猫女史は何言ってんだコイツ…みたいな目を向けてきた。