漢女
久々に小説書いてたら昔の奴も更新したくなる症候群
「え…と、リク…さん?私はメルティ。ルディエでお菓子職人をしているの」
顔を赤らめモジモジとしながらメルティ女史は自己紹介をしてくれる。謎の反応に心臓がバックバクだが、流石に挨拶を返さないのは無礼だ。
「あ、ああ。俺はリク。一応二人が所属するクランのリーダーをしている。好きに呼んでくれ」
挨拶と共に一歩踏み込み握手として手を差し出す。すると、メルティ女史は俺から三歩位下がってまたモジモジし出す。ごめん、誰か解説お願い。
「あー、やっぱりね。そうなるだろうなぁって思った」
「うん、首領は、メルティのドストライク」
「おい待てなんの話をしてる?」
メルティ女史はさっきから一言も発さずに俺の方を見てる。なあなんで目を逸らす、何で顔を赤らめる。
その為今は解説役が出来る二人に聞こうと思っていたのだが。
「メルティのタイプ。目つきが鋭くて、少しやさぐれてて、自分がお世話しないとダメそうな人」
「つまりダメ人間だね!やったね首領、家政婦さんが増えるよ!」
桜吹雪鱈の発言が俺の心に深々とナイフを突き立てる。やめろ、最近の生活マジでヒモ街道まっしぐらだなと思いながらも着々と受け入れていってる俺にその一言は効く。
胸を押さえ蹲る俺に二人が駆け寄る。
「大丈夫、私もそんな首領、良いと思う」
「そうだよ首領。皆に捨てられたらアタシらが養うって」
冗 談 で も や め ろ や
心の致命傷受け過ぎて俺今HP1になってるからマジで止めてくださいお願いします。
死の間際から何とか持ち直し、俺は立ち上がる。
メルティ女史は…うん、まだダメそうだ。
この状況マジでどうすればいいの。
「キュキュ…」
フードの後ろから白玉が頭を撫でてくれる。
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「ご、ごめんね。改めて私はメルティ。お菓子職人よ」
「リクです。旅人やってます。今は隠居生活中です」
調理室の中はこれまた随分と広い。一通りの調理器具は揃っているようで、中にはオーブンに似た物や電子レンジに似た物まである。なんであるの?
調理室を見回している俺とは対照的に、その巨体を縮こまらせるメルティは小声で何か呟いている。
「隠居生活…良いわ…」
「ああ、また首領が好感度稼いでる…」
「アレは、天性の、才能だよね」
俺は何も聞こえない。なんでなんと無しに喋った言葉で好感度上がるんだよ、低コストで作った恋愛アドベンチャーじゃあるまいし。
何も聞こえていませんよ、と言った態度で出されたお茶を飲む。
「あ、これ美味い」
風味は紅茶だけど、独特なミルクと甘味料が入ってるようでサッパリとした甘さがある。牛乳じゃないみたいだけどもしかしてモンスター由来かな。あ、蜂蜜入ってる?入ってるなら一緒に欲しいんだけど。
想像以上に好みに合うお茶でテンション上がる。
「味の好みも、同じ…」
「またかぁ…」
「表情の緩い首領、可愛い…」
ああ、これ同じパターンね。分かった、話を変えよう。
「それでメルティさん。BBから話は聞いてると思うんだけど、今日はちょっとお願いがあるんだ」
「あ、はい。小麦粉の事ですよね」
なんか最初とキャラ違くない?待ってたわー!って言ってたキミはどこに行ったの。いやまあ、髪型も合わせておしとやかな印象はあるけどキャラ変し過ぎじゃない。
おっと、ダメだ脱線する。軌道修正。
「うん、ここにいる二人には言うけど実は美味しい果実が手に入ってね。それで果実パイでも作ろうと思ってるんだけど」
「良いね」
「アタシもパイ大好き!」
「20人を超える人数になるから、出来れば多めに欲しいんだけど売って貰えないかな」
テーブルに手を付き真剣な目でメルティ女史を見ると、彼女は少し思案した様子で独り言を呟いている。
「果実のパイ…なら小麦粉と卵、あとは牛乳とかも必要。砂糖は安価で買えるし牛乳はツインホーンのミルクで代用できる…」
「ああ、メルティちゃんがトリップしちゃった」
「いつも、こんな感じ」
流石お菓子特化の料理人。大雑把にパイって言っただけで材料を考えてるのか。見た目と話し方はアレだけど一芸に秀でた人だ。
表情を崩さずにお茶を啜っていると、さっきとは打って変わった目で俺を見てくる。
「物は大丈夫だと思うわ。でも、結構お金が掛かるかもしれない」
「どれ位掛かりそう?」
「少なくても20、多くて30程は…」
「うん、じゃあそれでお願い」
意外と掛からないものだ。正直もっと掛かると思ってた。
即決した俺に驚いた表情をするメルティ女史。
「首領、皆に貢がれまくってるからねぇ」
「これも、愛故」
「ブルジョアニート…貢げば還元…」
うんうんと頷く二人と目が濁ってる一人。何も間違っちゃいないが心が痛い。紅茶冷めちゃった。
「そんな訳で、お願いしても良いかな?」
「推し涯…あ、はい大丈夫です」
「それじゃあマニーは前払いの方が良いかな」
「そうしていただければありがたいけど、あの私で本当に良いのかしら?」
というと?
「私、今日あったばかりですしこんな大金ポンと渡しちゃって良いのかなって」
ああ、そんな事か。それなら簡単だ。
「BBや桜吹雪鱈が認めた人なんだ。二人の目を俺は信じてるし、メルティさんも良い人そうだからね」
笑いながら告げる俺にメルティ女史はまた驚いたようにこちらを見る。
そんな難しい事じゃないと思うんだけどな。俺はクラメンを信じてるし、メルティ女史も信用に値すると感じた。それにもしマニーを持ち逃げしたらMPKでもして回収すればいい。
クロノスの時だって色々なPKで遊んでたんだ。やり方は幾らでもある。
「…分かりました。お受けします!」
「そう言って貰えて嬉しいよ。それじゃあ用意出来たらBB達に連絡」
「あの!直接私が連絡したいのでフレンド登録していただけませんか」
急にテンション上げるじゃん。まあ、それならそれで楽だから良いけどさ。
ウインドウを動かし俺はメルティ女史にフレンドコードを送る。
すると、厳かな手つきで承認が押される。
《メルティ・スイートさんとフレンドになりました》
そのゴツイ見た目でメルティスイートってマジ?