終わりと始まり2
取り敢えず一章までは書いた
「なんで!?」
「そもそもさ、なんで誰にも相談せずに決めてるの?」
最初に口を開いた糸目の青年は月見大福。
クレイジー・キラークラウン…面倒だから略すとCCでクラン結成からメンバーに居る幹部の一人だ。
ニコニコ笑いながらもぶつけてくる正論パンチで胸が痛い。
「いやだって、このクランって俺の思い付きというか若気の至りで作っちゃったヤツだし…」
「あの頃の兄上は輝いていたからな!
『クハハハハッ、全てのプレイヤーは俺達の掌の上だ!』といつも息巻いておった!」
止めてセイちゃん心が軋む。
次に口を開いたのは黒髪に深紅の瞳を宿した少女で†災星†。
今年中学二年生になった俺の妹だ。そしてお年頃だ。
「そもそもレッドネームが消えるのならばクランは解散しなくても宜しいでしょう。何故頑なに解散したがっているのです首領?」
腕を組みながら俺よりも鋭い眼をこちらに向けてくる赤髪の彼女はハートの女王。
女王と書いてクィーンと読むらしい。発する言葉のそこかしこで何か気品を感じるガチお嬢様。俺よりもクラマス向いてるんじゃない?
「このクランに居る者の殆どはお主がいるから入り楽しむ者達であろう。中途半端に投げ捨てるのはどうかと思うぞ首領」
一人瞑目しながらも一番痛い所を衝いてくるこの男は朱雀。寡黙な武人ロールを楽しみ死合いとか言ってPKふっかけるこのクランで一番のキル率を誇る戦闘狂だ。
「いやだってさ…クレイジー・キラークラウンって、名乗るの凄い恥ずかしいじゃん…」
クラン名って変更出来ないんだよぉ…。
幹部四人からの怒涛のバッシングに上座に座りながら縮こまっていると、クランメンバー達からも声が上がる。
「そうだーそうだー!」
「勝手に拾っといて勝手に投げ出すなー!」
「ビクビク縮こまってるリッくん可愛いー!」
「お嬢、今一応大事な話なんで抑えてくだせぇ」
「てかそもそもお前と会ってなかったらこのゲームやめてるわ」
「首領が居るから、私も、今楽しい」
皆からの熱いラブコールでクラマス嬉しいよ…。
でもこの名前だけは、この名前だけは嫌なんだよぉ…。
「諦めなよリク。ていうかPKクランを辞めるのは良いんだけど、君アルテマになったらなにやるのさ」
「引き籠ってお庭遊びする」
そう、俺にはやりたいことがあるのだ。
今回のコンバートによって追加される新要素『マイルーム』
クロノスの頃は自分の家を作ってコーデするだけだったけど、なんと今回からは自分の島を作れるらしい。
元々際限までこった作りのクロノスで自分の島を開拓できるなんてめちゃくちゃ楽しみなのである。
願わくば静かで穏やかな場所でモフモフ達と過ごしたい。
「ああそうだ。そのことで皆に相談したいことがあるんだよ」
「相談?」
そう、このマイルーム機能。コンバートプレイヤー限定である特典が追加されている。
自分の所有するマニーに応じて範囲やらなんやらが大幅に向上するらしい。
集まっているメンバーにその事を伝え、思い切って聞いてみる。
「だから、このクランの金庫に入ってるマニー俺が最後に貰っても良いかな?」
数多のプレイヤーを狩り続け溜まりに溜まった大型金庫。軽く億を超える金貨が閉まってあるそれで、果たしてどんな島が貰えるのか見てみたい。
だが、流石にこれは俺の一存では決められない。
クランの解散は俺の独断でやってしまえるにしても、これは俺も含めて皆で集めた物だから。
流石に分けたい者もいるだろうと、再度彼らの方を向くと
「ボクは別に構わないよ?」
「我も構わん。なんなら今持っているマニーも兄上に渡しても構わんぞ」
「私も異存はありませんわ」
「右に同じく」
幹部を筆頭に俺も私もと皆が声を上げてくれる。でも、本当に良いのか?
「別に使うあてもないし、マニーなくてもマイルームは貰えるんだからそれでいいかな」
「私もどっちかって言えば攻略優先で遊びたいからマイルームは興味ないかなぁ。あ、じゃあ私も今持ってるマニーをリッくんに上げる~」
「首領がやる事は決まって面白い事が起こるからな、俺のも持ってけよ」
「私も、あげる」
まさかこんな事になるとは思わなかった。良くて金庫の財産を受け取るだけだと思っていた。
正直ありがたい。
「なら、島の開拓が落ち着いたら皆でパーティでもしよう」
俺には今これ位しか感謝をしめせる物がない。だから、これで良いんだ。
皆からマニーを受け取り、俺は大型金庫の扉を開ける。
今日まで使われる事が無かった黄金だ。なら最後は華々しく使ってしまおう。
所持マニー:53,000,000,000
端数を切捨ててもこの量だ。一体どんな島が貰えるのか楽しみだな。