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観光時々遭遇

建物を抜ける風、ガヤガヤと賑わう街の空気。

俺は今、約2週間ぶりのルディエの街を堪能していた。

いやよく考えればちゃんと街の中を歩くのって何年ぶりだろう。クロノスで懸賞首になってからずっと夜鴉の森の隠れ家で引き籠ってたから凄い久しぶりな気がする。

だってレッドネームって門番NPCと会うと職質食らうんだぞ?

幸いクラメンの中にも何人か生産職がいたからアイテム不足になる事はなかったけど、懐かしいなぁ。

今日はBBから小麦粉さんを紹介して貰う予定なのだが、どうやらまだログインしていないらしい。



「お、串焼き売ってるぞ白玉」


「キュキュ?」



ついでに白玉は今俺のフードの中に隠れている。小声で話す分には問題ないが万が一他のプレイヤーに見つかるのも面倒だ。

串焼き露店のおっさんの元へ向かい、話しかける。



「おっちゃんこれ幾ら」


「おう坊主、異邦人か?コイツは一本500マニーだ」


「じゃあ二本頂戴。コレ何で焼いてるの?」



おっさんの露店では串に刺した肉を一本ずつ縦に立てかけ、真ん中に赤い石を置き焼いている。

キャンプで魚を焼く時の恰好なんだけど、真ん中に火がないのだ。

IHでも実装してるの?



「なんだ坊主最近来たばかりか?コイツはフレアリザードの魔石だよ」


「魔石?」



そういえば送られて来る物資の中に時々入ってたな。フレアリザードとかフォレストスネークとか。



「おうさ、属性の付いてる魔石は魔力を込めると色んな働きをする。こんな風にな」



ニヤリと笑いながらおっさんが件の魔石に手を翳すと、瞬間赤い炎が姿を現す。

へぇ、また新要素だ。マジで全く違う世界なんだな。

興味深そうに魔石を眺めてると、いつの間にか焼けていたらしい串肉を三本渡される。

あれ、俺2本って言ったけど。



「良い暇潰しとこれから大きくなるかも知れねえ坊主にサービスだ」


「おお、ありがとう!」


『ロックボアの串肉』

ロックボアの肉を使用し作成された料理アイテム。



鑑定結果は、うんそりゃそうだよね。

焼きたての串肉の袋を手に持ち俺は近くのベンチへ座る。人が減る度人が増える。

時間は18時を回った所だろうか。

流石今を時めくMMORPG。クロノスの頃から総人口は多かったが、今回の大型アプデから更に人が増えたらしい。

なんでも配信者とかアイドルとかも参入してるらしい。あ、でも俺もよく考えれば配信者か。

同時接続20人だぞ、凄いぞ。身内だけだけど。



「キュキュ」



串肉に齧り付いて物思いに耽っていると、いつの間にかフードから外套の内側に移動していた白玉が物欲しそうにこちらを見ていた。体が小さいって得だね。

俺ばかり食べてるから、寄越せと言う事か。

周囲を見渡せば丁度人波でこちらを見ている人間はいない。まあ、そもそも他人を直視する奴なんていたら怖いが。

丁度良いと『隠者』のスキルを発動し、白玉を外に出す。『隠者』って使い勝手良いんだけど、ちょっと面倒なんだよね。人に見られてる状態だとそもそも使えないし、リキャストも長い。

ああ、はいはい。ごめん串肉ね。どうぞ。



「キュウ~!」


「スクショ撮ろ」



小さい口でもきゅもきゅ咀嚼して食べてる。愛い。

余程気に入ったのかリスの様に頬を膨らませて食べる姿に和んでしまう。

串肉か。魔石の使い方も理解したしロックボアの肉ならアイテムボックスに転がってる。帰ったら時々作るのも良いかもしれないな。



「わあ、リスさんだ~」



反射的に手を腰の剣に伸ばす。

後ろから聞こえた声に目線を向けると、見ればセイちゃんと同じ歳程の少女が立っている。

髪は白。目は虹色?なんだこのグラデ、アバター作成にあったか。

手には分厚い古ぼけた本を持ち白玉を凝視している。

あの…ここ最近隠者さんが全く仕事してくれないんだけど、やっぱりナーフされました?サイレント修正とか炎上待ったなしなんだけど。



「お嬢さん、どうして俺が見えるのかな?」



動きはしない。露骨に動けば『隠者』が解けてしまう。周囲の人間に今の光景を見られるのは面倒…あれ他の連中どこ行った?

見ればプレイヤーどころかNPCの姿も見えなくなっている。ついさっきまであんなにガヤガヤと賑わっていたのに。

クスクスと笑い声が聞こえる。このチビ俺の様子を見て笑いやがったのかと後ろを向くと、いない。



「誰もいないよ、ここには私とお兄さんだけ」



前から声が聞こえる。

西洋風ホラーはご注文じゃないんだが。前を向く俺を見て少女は尚も笑う。



「凄く、凄く懐かしい匂いを辿ったらここに着いたの。夜のように澄んだ銀の匂い。私が欲しいお月様の匂い」



手に抱えた本のページを愛おし気に捲りながら言葉を続ける。

何度も、何度も、何度も同じページを繰り返し捲る姿はまさにゴシックホラー。



「そしたら、お兄さんとリスさんがいた」



初めて少女と目が逢った。瞬間俺は腰の剣を引き抜き駆ける。コイツはヤバい。



「『月歩』『新月』『弓張月』」



それぞれ1.3倍、単発2倍のAGI補正。弓張月に至っては条件が整った攻撃のSTR、AGIを2.5倍。

空中を蹴り、姿を霞ませ、持てるAGIをフル稼働して、狙うは首。


「『弱点付与』」


俺のユニークスキルの一つ『致命看破』。アビリティは強制的に相手に弱点を一つ追加する。

振り抜いた剣閃は俺が初期レベルだろうと、相手が生物なら確実に首を刈り取る。

取った。少女の首が地に落ちる。



「わあ、早い早い。月の兎さんと同じだぁ!」



なんで落ちた首が喋ってんの?

少女は変わらぬ様子で俺を褒める。無邪気に、可憐に、楽し気にまるで何事もなかったように。



「そっかぁ、お月様の匂いはリスさんだと思ってたけど」



その眼が再び俺とかち合う。



「お兄さんからも、お月様の匂いがするね」



外見には似つかわしくない妖艶な表情。もしくは、狙いを定めた獲物を吟味する肉食動物の顔。

また引いたな、これ。朱雀の事何も言えねえや。

俺の悪運は留まる所を知らないらしい。



「もっとお話ししたかったけど、こんなにこっちに居たら他のお姉さん達に見つかっちゃうかもしれないからもう行くね」



見ればいつの間にか少女の首は元の胴体に戻っていた。何度でも言うが、俺首落としたよね?

こちらに手をひらひらと振り、ニコニコ笑う少女。



「また遊ぼうねお兄さん。今度はもっと違う場所で」



急に視界が黒く染まっていく。これはあれだ、転移の前兆に起こるヤツ。横ではベンチに投げた白玉が俺に何かを捲し立てるように喋っているが、聞こえねえ。

黒く染まった意識の中で、電子音声が鳴り響いた。



《ユニークスキル『月の祝福』を獲得しました》



厄ネタじゃねえか。

補足

アルテマ・オンラインにおいてバフは別の効果のアビリティを重ねると基本的に重複する。

例えば

・『月歩』効果中、空中を一度だけ足場にして跳躍。AGIに1.3倍の補正。

・『新月』効果中、最初の一歩目に特殊状態『隠密』が発動。AGIに2倍の補正。

・『弓張月』発動時、3分間だけ直線移動中の攻撃にSTR、AGIに2.5倍の補正。

と、どれも効果が違うので乗算される。

基本的にクロノスから変わらずバフを盛って殴るが基本の戦い方。


『致命殺』

弱点へのクリティカル発動時、自分のAGIと相手のVITとの数値対抗。

どれだけHPの多くLvの高い相手でも理論上は確殺可能。

だが、例えば首を刎ねるとか心臓を貫く等完全に相手を殺せる攻撃を放たなければならない。

今回の敵は『端末』で相手のVIT値は500、主人公はAGIにバフを盛って合計値が715だったので何とか対抗に成功。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『月歩』の効果が本文と補足で違っています。
[一言] 厄ネタァ!ゎ‹ゎ‹ゎ‹(˶'ᵕ'˶)ゎ‹ゎ‹ゎ‹
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