考え事と考えられなかった事
一先ず、この案件は脇に置こう。
厄ネタが過ぎて、俺の手に負えない。問題の先送りと言えば、それはそう。
龍脈とか神木とか月と太陽とか、これ考察クラン案件だから。今すぐあの本の虫ババアに丸投げしたいが、物が物なので無理。
白玉が集めてきた末葉は取り敢えずアイテム欄に仕舞い込んだ。証拠隠滅って素晴らしいね。
時刻は夕方に差し掛かっている。ボチボチとクラメンもログインしだしているな。一度廃街に戻ろう。
転移で街まで戻り俺はベッドに腰を下ろした。
「なあ白玉。この島って結局なんなんだ?」
「キュキュ」
一瞬俺の目を見た白玉は、だが何も答えなかった。
まあ、そもそも言語理解できないんだけど。
アレイティアの聖獣に生命の末葉、明らかに普通のプレイヤーが持っていていいような情報ではない。
未だ運営からは何の連絡も来てない事を見ると、ミスではないのだろう。
それに、最初のアバター作成の時に出てきた意味深な光の玉の発言も気になる。
彼女、だったか。クロノスでの俺は誰かに好かれるような行動をした覚えはない。NPCならもっての他だ。
レッドネームになると、NPCからの評価は地の底に落ちる。
運営サイドの誰かという可能性もあるが、この世界観を重視したゲームでそんな野暮な事はないだろう。
「考えるのめんどくせぇ」
考察なんて俺の柄じゃない。考える事は面倒だし、何よりつまらないだけ。
餅は餅屋になんて言葉はあるが、考察勢の気持ちなんて俺には理解できない。
やっぱり俺は俺が楽しい事をするだけだ。
気分を切り替え、白玉を撫でていると誰かからメッセージが届いた。
「?朱雀からメッセ?」
「キュキュ?」
珍しい事もあるもんだ。ここ最近音信不通だったあの朱雀からメッセージが届いた。
開いてみると、相変わらずの簡素なテキストと共に一枚のスクショが張られていた。
《海の先で国を見つけた》
どこぞの天皇か?
張られたスクショを開くと、それは海原から撮ったであろうぼやけの多い写真。
見れば遠い先の方にポツリと建築物らしき物が移っている。
いや待て、コイツまさか初日からずっと海を泳いでやがったのか?そういえば、何時だったか泳いでるとか送られてきてた気がする。
え、国?街じゃないの?
クロノスでも帝国やら公国やらあったけど、この短期間で国発見しちゃったの?
何かの間違いと考えていると突然ワールドアナウンスが入る。
『古来より戦を生業とする戦人と龍の支配する国、戦火に包まれし大地に異邦の者が来訪した』
『プレイヤーにより戦国アズマが発見されました』
戦国?アズマ?あれ、なんか凄い嫌な予感がする。
もっと言えばさっきまで俺が陥っていた厄ネタの匂いがプンプンする。
ひしひしと感じる不気味な感覚に鳥肌を立てていると、追加で朱雀からメッセとスクショが飛んでくる。
《捕らえられてしまった》
見れば簡素な兜と和を感じる鎧。右の手に竹槍を持った男達に囲まれる写真。
おかしな箇所を上げるとすれば、彼らの額に存在する二本の角だろう。鬼、というより動物の角。
彼らの姿と先程の朱雀のメッセ、そしてワールドアナウンスから考えたくもないが、確信が頭に過ぎる。
アイツやりやがったわ
我らクランの最大戦力がやらかしましたわ。
俺が面倒事で頭を悩ませてる間に、海の向こうで特大の厄ネタフラグぶったてやがった。
「よし、寝るか」
「キュウ?」
白玉を抱えてベッドに横になる。
もうなんも知らん。俺は何も見てないし何も知らない。
全てを忘れさる為には昼寝でも決め込むのが一番。
夜になったら配信を付けて皆に小麦粉を強請ろう。
料理は全てを解決するし嫌な事を忘れさせてくれる。
そういうわけで、おやすみ。
なんでこの主人公胃痛キャラみたいになってんだろう。当初の予定だと色々騒ぎ起こしてヒャッフーするキャラだったのに。
俺のキャラが勝手に動き出す現象。