ピクニック
一日一話だと思った以上に長くなるな。
「空が青いなぁ」
「キュー」
休日を使い、白玉と共にピクニックがてら歩いているのは西の森。
ここ、マップの詳細で見たら名前が『神獣域』だったんだよね。お前の住処だったのか、ゴン。
何故俺が森の中にいるのかを簡単に説明しよう。
『鑑定』スキルを取りました。こんな広い森の中なら薬草やらなんやら見つかるかもと思って取った。他意はない。
この鑑定スキル、アビリティがないんだよ。
物を拾ったり草を摘んだりすると自動で発動するパッシブスキルの一つ。
ついでに配信はオフだ。うちのクラメンって何故か昼間にログインしてる人少ないんだよ。今も居るのは刃狼と朱雀だけ。
いや朱雀今何やってるの?知らない素材が度々送られてくるから心配はしてないけど、マジで何やってんの?
スタートからこれまで、結構皆狩りをして素材を置いてくから同じ素材が貯まるんだけどコイツだけ謎の素材が多いんだよ。
何キャノンフィッシュの魔鱗って、何アキノカタナの刃鰭って。
お前は今どこにいるの???
話が脱線してしまった。というわけで、この無人島で鑑定を使い素材を探してみようと思ったわけだ。
白玉の聖域の効果でモンスターがいないのは分かってるので伸び伸びと探索できる。
「なんか良さそうな草があったら教えてくれ」
「キュキュッ!」
白玉がふんすっ!と腕を握り走っていく。可愛い。
奥まで走っていった白玉を確認し俺は周囲を見渡し、変な形をした草を探す。
お、早速見つけた。ナニコレ。
雑草よりも背の高いギザ葉の草。鑑定をしてみる。
『イデアルハーブ』
イデアルシア全域で繁殖している薬草の一種。
錬金による中級ポーションの作成に使用する事が出来る。
ハーブの一種らしい。というかイデアルシアってこの世界の名前か。初めて聞いたわ。
中級ポーションの素材か。へえ、中級。
…まあ中級ポーションの素材だってそこら辺に生えてるよな。全域で繁殖してるってテキストも言ってるし。
割とそこら辺に生えているイデアルハーブを回収し再度周囲を見渡すと、上の方で奇妙な果実がなっている事に気が付く。
遠目で見ると梨に近い、なんか光ってるけど。
周囲の木を蹴りつけ果実のなる場所へ向かうが、割と高いなここの木。
お、ちょうど太い枝あるじゃん。
「よっと」
10点着地を済ませ近くの果実をもぐ。うん、光ってるな。
そんな事を考えていると鑑定のウインドウが表示される、されるのだが。
『聖樹の果実』
聖獣の護る森に実る銀色の果実。聖獣の魔力を受け育ったその果実は、食せばHP、MPが徐々に回復する。
一般に出回る事がなく、果実一つで大きなマニーが動く。
はいアウト。ダメだこりゃ、ハーブはなんとか行けると思ったけど、これはダメでしょ。
リジェネ効果のある果実ならまだギリ判定セーフだったが、その後の一文で全てがアウト。
一先ず食べてみよう。
「あ、美味い」
果実特有のくどく無い甘さと舌ざわり。噛んだだけで溢れる果汁がそれだけでジュースみたいだ。いやまあ数値はどっちも減ってないから検証は出来ないけど、味だけでアウトだな。
俺が没収しておこう。没収、没収。
市場で出回らなきゃ良いよね、クラメンに隠して出すくらいは許容範囲だよね運営さん。
だってあいつ等に美味い物食べさせたいもん。
数は少ないが、木の上からなら回収も容易だ。必殺パルクールもどきを駆使して周囲の果実を収穫して回る。
「よし、大収穫」
目算30個位回収出来ただろうか。こんな良い果物取れたら料理スキルを取りたくなってしまう。俺、料理好きなんだよ。
街に行けば小麦粉とか売ってないかな。アップルパイならぬ聖樹の果実パイ作りたい。
あとでクラメンに見つけたら買っといて貰おう。
考え事をしながらでも体は動く。木から木へ渡り歩き果実を回収しアイテムボックスへ。良いねぇエンジョイ勢の血が騒ぐ。目指せ果実100個。
ヒョイ、ポイ
ヒョイ、ポイ
ヒョイ、ポイ
ポイ
ポイ
ポイ
あれ、俺なんの為に森に来たんだっけ。
キュイーーーーーー
どこかからか相棒の声が聞こえる。
あ、下だわ。そうだ、俺薬草とか探しに来たんだった。
立っていた木の枝から飛び降り着地。
下では白玉が謎の草を集めて待っていた。え、それ葉っぱなの?ステンドグラスの間違いじゃない?
「悪い、果実集めが楽しくて忘れてた」
「キュイキュイッ!!」
怒ってます!と言っているのだろう。
白玉が俺の足を伝い肩まで登ってくる。俺の顔に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいるようだ。
ああ、これね。
アイテム欄から件の果実を取り出し白玉に渡すと、がっつく様に果実を貪る。それ好物だったの?
物の数秒で果実を完食しケプッと口から漏らす。お行儀悪いなこの小動物。あとそこで食べたら俺の外套に果汁が飛び散るんだけど、いやもう良いです。
満足したのか白玉は俺の肩から飛び降り、自分が持って来た薬草?に手を伸ばす。
「キュイキュイ!」
どうどう?というようなドヤ顔満々で俺を見る白玉。愛らしい。
頭を一撫でしながら葉を摘まみ鑑定ウインドウを見る。
『生命の末葉』
龍脈より流れる星の息吹を吸い、成長した神木の末端。
死者に使用する事で、その葉が砕け落ちHPを回復する。
それはかつて月が作り出した一本の木。最愛の太陽を想い描いた姿は、宝珠の如き美しさを誇る。
未だキラキラお目目を続ける白玉を脇に抱え、微笑みを浮かべながら頭を撫でる。
うん白玉さん、これアウトだね。
俺は頭を抱えた。