アルトメルン最強決定戦7
ごめんなさい、久しぶりにパルワールドを触ったら気付けば徹夜してました。
ハンドガン最高、セレムーン最高。
ゴングが鳴った。歓声の中心に居るBBは『痕巌老虎』を斜めに構えて眼前を睨む、相手は『拳鬼』…レベルは彼女の方が上だろうけど、闘技場の常連相手ならば舐めて掛かれる者ではない。
互いに間合いを取り、動きを観察し合う二人だが先の動きを見せたのは闘技場モンスター。
「……─────『闘気』!!」
「『守槍の構え』」
格闘家は自己強化アビリティの取得数が多い。連中の戦闘方法は自分でバフを纏って殴るのが基本だからだ。
その中で『闘気』は扱いやすい類。低レベルで取得可能、ノーモーション、低MPで自身のレベルに応じ基本ステを上昇させる。
身体に橙の光を宿した爺さんに対し、BBが取ったスキルは騎士の職業アビリティ『守槍の構え』…こちらはHP、STR、VITに上昇補正、更にカウンターアタックの威力にも補正が入る。
「まずは、一撃っ!」
疾走と同時に拳を撃ち出す爺さんを前に、BBは動かない。
ただ一心に前方を見据え距離を測っている。
5m…4…3、動く。接触の瞬間に重心をずらし、胴では無く腕にパリィ。バチンッと鋭い音が二人の開戦の狼煙となる。
「ほわ~、凄いですね。目で追うのがやっとですよ~」
「互いに対人戦をやり慣れてるからこその動き。流石は準決、魅せてくれる」
「もしかして~、あの仮面の人も闘技場の常連さんだったりするんですかね~?」
「知らん」
片や元PK、片や闘技場のモンスター。
場所は違えど相対する存在は同じ、常に思考し行動を変える人間との戦いに慣れた者達。一瞬の躊躇いが命取りになる現状ではあるが、まあBBが負けるとは思っていない。
思わずポツリと独り言が零れる。
「アイツに槍を握らせたら、レベル差一回りは軽くある虎も薙ぎ倒してくるしなぁ」
鬼に金棒と言う諺があるだろ。或いは弁慶に薙刀、駆け馬に鞭、竜に翼を得たる如し、何でもいい。
強い者が強い得物を持てば、それは無双を誇る。
まあ何が言いたいかといえば単純な話で、BBは長物が大の得意分野だ。持ち武器にしてるんだからそうだろう…いや、そう言う話ではない。
複数の補助魔術を施しながら、接敵するBB。
爺さんは拳に雷を付与して猛攻。
互いにダメージを与えてはいるが、レベル差もあろうBBの方が一撃は大きい。と言うか爺さんも凄いな。
「『ストレングス』『アクセルブースト』」
「『闘気【稲妻】』」
……今は亡きクロノス・オンライン。昔、リアルに嫌気が差して魔境に足を踏み入れた彼女は何の因果か槍とPKの魅力に憑りつかれた。天性の才があった訳でもない、ただ愚直なまでに時間を忘れて槍を振り回し持ち前の身体能力で独自の動きを作り出した。
大きく後ろに飛び退き、BBは動きを停止させる。
一日目にも見せた動き…それを突き詰めて生み出された動きの名は。
「輪舞」
「はい?」
始まるぞ、ウチの歌姫、改め舞姫様の真骨頂。
一歩前に踏み出した彼女は自身の手に握る『痕巌老虎』を数度回転させ、気障に一礼。演目でも始めるような舐めプに見えるだろうが、アレはBBなりのルーティンらしい。
先程よりも速度の落ちた疾走、爺さんも打って出ようと走り出す。
「狩りを、始める。私達の狩りを……『バニシング・スピア』」
「なんの……ぬっ!?」
最早隠す気すらなくなったな。
アクティブアビリティを併用しながら動く様は、輪舞の名に相応しい。だがそれだけではない、アレの厄介な所は実際に戦ってみれば理解できる。
爺さんが繰り出す攻撃、それは全てその緩慢な動作の中に出来る隙を狙った物。しかしそのどれもが悉く当たらない、寧ろ徐々に傷を作っているのは爺さんの方だ。
全部ブラフ、緩い動きも直前まで速攻戦を仕掛けた相手の思考を鈍らせる為。踊りに見せた動作全てが、敢えて隙を見せて反撃を仕掛ける為の罠。
多少考えれば普通に分かる事だが、思考時間=攻撃チャンスに刺し変わる。
「へぇ、あれが……良いなぁ」
黄色が何か呟いたが今は目先の事にしか興味が湧かない。今此処にいる観客は運がいい、値千金のアレを見る事が出来るのだから。
現実で培った技では無く、あくまでこの世界で築き上げた輪舞。『バニシング・スピア』を始め多彩な槍術士のアビリティで攻め続けるBB。
「厄介なっ!!」
「そっちも、ね」
虎影の存在もデカい。
一対一の攻勢が多対一に変わってしまうのだから。
目下BBに集中しなければならないのに、横から後ろから数匹の虎が仕掛けて来るとかクソゲー過ぎる。しかもあの虎、増えれば増えるだけステータスが上昇するし。
どうやって倒せば良いの、アレ。
俺なら取り敢えず片っ端から首刎ねる。いや無理だ、今のステだと秒でロストしそうだから逃げる。
「とっても、綺麗ですね~」
「全くだ」
会場の反応を見るに七割が熱狂、二割が情報考察、そして一割が阿鼻叫喚。どうしたんだろう、もしかしたら昔暗い森の中で起きたトラウマが蘇ったのかも知れない。
手を叩いて喜ぶ横の黄色に同意を示しながら、BBを眺める。こう言っては何だが、昔より大分厭らしくなった…と言うか、レベルこそ低くなってるがPS上がった?
「もっと、速く、なる」
輪舞が一気に加速する。
再びの急激な速度変化に爺さんは防戦に回るしかなさそうだが、それは悪手だ。攻めに回るべきだった。幾ら身軽な格闘家だろうが増え続ける槍撃を全て回避する事は不可能。
勝負は結した、MP切れとアビリティの効果切れによってパリィを見誤った爺さんの胸元にBBの『痕巌老虎』が突き刺さる。
『試合、終了ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
AIの声と共にブザー音が鳴り響く。
瞬間…ドッ、と闘技場内を揺らす程の歓声が起こり、膝を突いた爺さんは地面に倒れ込む。
「俺もまだ、精進が足りないか」
「レベル、上げる事を、進める」
「くそぅ…これでも準備は怠ったつもりはないんだがなぁ……」
BBと闘技場モンスターの会話が聞こえて来る。
聞けば、あの爺さんも闘技場に人が少ない時はレベル上げに勤しんでいるとか。その言葉に別の意味で会場が沸くが、何時寝てるんだ。本物のモンスターじゃねえか。
「なるほど~、成程。少し修正しとこっと」
「……何やってんだ?」
「いえいえ~、独り言ですよ~」
いつの間にかウインドウを動かして何かを打ち込んでいる黄色に、視線を寄越せば人好きのする顔を作る。
誰かへのメールか、将又メモか。戦闘データでも記録してるのかね。
「さてさて~、今日の部は終わりましたし、ジークさんこれから一緒に街でも歩きませんか~?」
「フレに呼ばれたから無理だな」
「残念です~。なら折角ですし、再会記念にフレンド申請しても良いですか~?」
「実はフレンド枠が埋まってるんだ」
「ふえ~、これまた残念です」
勿論、どっちも嘘である。知らない人とフレンドになっちゃいけませんって日本の古い文献にも載ってるので。
そんな拒否の言葉にも黄色は顔色一つ変えずに、手を振りながら席を立つ。
「それでは、また縁がありましたら~お会いしましょうね~」
「ああ、縁があったら」
まあ無いと思いますけどね、一生。
そして次の日の闘技場。
「あら~、またお会いしましたねジークさん」
「嘘だろ」
再び、俺の隣に奴は居た。
古き良き日本のホラーかな?