アルトメルン最強決定戦6
ツバキ復刻(素振り)、ツバキ復刻(素振り)
『さあさあ、来たぜ、来ちまったぜ野郎共ッ!!アルトメルン最強決定戦、四人の強者が遂に決定しちまったぁぁぁぁ!』
あのテンションは、ずっと続いたままなのだろうか。
闘技場に立つ四人は何というか、凄い個性的な面々。
『まずは一日目、年齢不明、正体不明、詳細一切不明の何処かで見た事がありそうな道化の仮面の槍使い!─────ノーネーム!』
「…………………」
『おぉぉぉと、AIなのになんか肌寒くなってきた気がするぜ!』
それはもう、ある意味答えじゃなかろうか。
道化の仮面で槍使いとか、分かる奴は普通に分かりそう。ああほら、BBが実況席を睨み付けてる。
『二日目、鍛え抜かれた肉体は鋼も砕く、闘技場以外では好々爺、だが闘技場で見る事が稀な爺!─────インゲン!』
「ふんぬっ!宜しく頼むぞ」
『気合充分!筋肉が輝いてるぜ!!』
『拳鬼』の爺さんは、何というかやる気しか感じない。
力瘤を作ってファンサービスのつもりかマッスルポーズを決めている。多分ファンはいないよ、モンスター扱いされてるよ。
『三日目、その姿全てが普通、剣一本で全てを薙ぎ払う普通のおっさん!─────田中!』
「ははは、宜しくお願いします」
『礼の仕方が堂に入ってるなぁ!』
コイツに関しては、全く知らない。
俺がアズマで憂さ晴らしをしていた時に勝ち上がったプレイヤー。だが、普通。マジで普通のおっさん。
眼鏡にスーツ姿で街を歩いていても誰も振り返りもしないだろう、しかも田中って……そんなおっさんなのだが。残ったと言う事は多分腕利きなのだろう。
『四日目、海を愛し、海に愛されたサメ人間!今日も今日とて釣り人に勧誘するのか!─────マスクド・シャークネード!』
『皆さん、釣り人になりませんか!!』
『まさかの挨拶で勧誘をかましてきたぁぁぁ!』
サメの着ぐるみは昨日と変わらずサメ。
多分、あの中身は宇宙人かPSウイルスの被害にあった憐れな感染者だ。…おっと、今リアルから精神攻撃を受けた。
やっぱり寝る前にサメ映画を見るのは駄目だな。
『最強候補達の揃い踏みだぜぇ!それじゃあ、とっとと組み分けを発表していこうじゃねえか!準決勝一回目はぁぁぁぁぁぁぁぁ……ノーネームVSインゲン!!』
「……宜しく」
「おうさ、良い試合にしようではないか!」
怪奇闘技場モンスターとBB、普通のおっさんとサメ頭…成程、組み分けと言うかそのまんまじゃねえか。
並ぶ四人は握手を交わす。沸き立つ会場、今日は予選よりも人が多い。こんな中じゃ『隠者』が意味をなさない。
だからだろう、俺の横から声を掛けてくる者がいた。
「あれ?く……ジークさん?」
「は?」
明らかに俺に掛けられた物だった。
横を見れば、何処かで見た事が……無い、ゆったりとしたロングスカートと白い花柄のカチューシャを付けた町娘のような恰好をしたプレイヤーがいる。
その腕の中には手製だろうか、二本の剣を携えた黒兎の人形が顔を出している。
誰だ、コイツ。まるで偶然友人と出会ったように、嬉しそうな笑みを浮かべている。
「……何方?」
「奇遇ですね~、あっこの格好じゃ分からないか~」
ほわほわとした純朴な笑みを浮かべる町娘は、少し声を落として名を名乗った。
「ユリアですよ~、前にお会いしましたよね~」
「………………」
皆目見当も付かない。
だ、誰だ。明らかに見知った風に話しかけて来る不審者を前に反射的に剣の柄を握る。
もしかして、誰かと勘違いしてないか。
「人違い、だと思いますよ。俺、貴女、知らない」
「え~、そんな事ある訳ないじゃないですか~……私が貴方の顔を間違える事なんて、絶対ありませんよ」
若干、笑みに影が差したような気がする。
何か琴線に触れるような事でも言っただろうか。
「実は今日、一人でログインしてるんですよ~。イベントの最後にライブがあって、その下見も兼ねてです~」
「ライブ……ん?」
勝手に長々と喋り出した町娘が零す単語、それを聞いた俺の灰色の脳細胞が大分前の記憶を引き摺りだした。そう、アレは確かアイドルのライブを見に行った時。
この甘ったるい、間延びした声を……知っている。
「─────アンタ、黄色か?」
「え、黄色?……あ、そうです~。もしかして、本当に忘れられてました~?凄くショックですよ~」
パッとしない三人組の中で一際目立っていた黄色のアイドル。そうか、この女の名前はユリアなのか。
ジーク君の名前を名乗ったのは覚えていたが、アイドル三人衆の顔と名前はすっぽり抜け落ちてた。
俺の脳内リソースは必要な情報以外をゴミ箱に投げ捨てる(シュート)する癖があるの。
とは言え、分からなかったのも無理はない。
だってあのアイドルと顔も服装も違っているんだから。
「何か、顔違くない?」
「こっちはプライベートのアバターなので~。流石にあっちので来たら大騒ぎですからねぇ~」
成程、複垢。
原則としてこのゲーム、複数のアカウントでプレイをするのは禁止されているのだが、著名人ともなると運営から許可が出るのかもしれない。
「ジークさんも、今日は観戦してたんですね~。誰か応援してる選手とか居るんですか~?」
「暇潰しだ……ですよ」
「アハッ、口調はそのままで大丈夫ですよ~。今はただの百合なので~」
両手を胸の前で合わせながら町娘はそう言う。
マイペース…と言うには一々動作が完成されている、自分の長所を最大限生かした動き。
何と言うか、改めて距離感が掴みづらい類の人間だと思う。こういう手合いは苦手だ、内心何を考えてるか分からないから。
「アンタの方こそ、誰か気になるプレイヤーは居るのか」
「ん~、気になると言いますかぁ……知り合い、同好の士が出るらしいので覗きに来たと言いますか~」
「あの四人の中にか」
「それは秘密で~す」
「そうか、残念だ」
聞いたは良いが、割と興味は無かったり。
何なら今すぐにここから離れて一人で観戦したかったり、BBの応援が出来ないだろうが。
『よぉぉぉぉぉし!観客達も盛り上がって来たキタキタッ…って訳で早速準決勝一回戦を始めていくぜぇええ!!』
ああほら、始まった。
人波に吞まれたく無いけど、この町娘から離れたい。
「楽しみですね~、私あの槍使いの人も注目してるんです」
「良いセンスだ、大事にしておけよ」
「はい?」
「何でもない」
思わずサムズアップしてしまった自分を殴り倒したい。
だが良いセンスだ、ウチのBBは強いぞ、超強い。
闘技場から他二人の姿は消えて、BBと『拳鬼』が間隔を空けて武器を構える。
『ノーネームVSインゲン……レディィィィファイッ!!』
湧き上がる歓声と馬鹿でかいAIの声に耳を抑える。
その時微かに、横の町娘が小さく言葉を零したのが聞こえた。
「──、──得。─────良かった、本当に」
あと三話位で終わればいいなぁ。
書いてるうちに入れたい物がポンポン増えだして長くなってる…。