新装備
ほのぼの、ほのぼのが不足しておる。
最強決定戦、本当は一話で終わる筈だったんだけど…なんでこんな長くなったのかな。
「なあゴドー、お前、サメって分かるか」
「どうした首領、疲れておるのかの?」
「サメってさ、蹴り入れるんだな」
「ほほ、そんなサメもおるかもしれんの」
観覧席からマイルームに戻った俺は、鍛冶場でスキル上げをしていたゴドーと共に雑談をしていた。
「後、津波を呼ぶらしいぞ」
「クジラの死骸が浜に上がれば地震の前兆、なんて話もあるからの」
「じゃあ、サメも津波くらい呼んでもおかしくないか」
「そうかもしれんのう」
そうか、そんな物なのか。
「それより首領、あれ外さんか?」
「えー、良いじゃん。他に掛けておく所無いんだから」
炉の上に掛けられた横断幕(完成)は、可愛らしい色合いに似合わず、何処か不吉な雰囲気を醸し出している。本当は自室に掛けておこうと思ったのだが、メンバー(NPC含め)から総スカンを喰らって、現在は工房に飾られている。
此処に入って来る仲間も少ないし、剣とか色々と壁に掛けてるし、これ位掛けても幅取らないから。
「時々、何かから見られてるような気がするんじゃよなぁ」
「ははは、ないない。ただの横断幕だよ」
「そうかのう」
大丈夫だって、首領嘘つかない。
ふわふわした会話、互いに脳が機能していない。
片やサメのショックが抜けきれず、片や時間を忘れて鍛冶をしているのだ。そんな日もあるかもしれない。
ダラダラとした時間、ゴドーが何事かを思い出したかのように声を掛ける。
「おお、そうじゃ首領。儂も『裁縫』で一着服を仕立ててみたんじゃが、良ければ着てみんな」
「……へえ、何それ気になる」
ゴドーの専門は鍛冶、その中でも防具に力を入れており、その過程で『裁縫』スキルも所得していた。そもそも、死神戦の時に団服作ってたもんね。
「これじゃよ、これ」
「どれどれ………おお」
アイテムボックスから取り出された装備…それは俺の心を大いに刺激する物。黒地に『最強』とだけ書かれた、素朴だがセンスの塊のような品だ。
「首領、こう言うの好きじゃろ」
「いやいや、これ凄い良いよ。思わずときめいた」
「じゃろう?」
「しかもコレ、俺用の特注じゃん」
『鍛冶』スキル5以上で解放される仕様なのだが、同クランやフレンドへの贈り物…特注品と言う形で装備条件をある程度緩和する事が出来る。刃狼の『猛る残傷』やBBの『痕巌老虎』もこれに当たっていたりする。本人が持ってれば強力な装備、他人が持てばアイテムボックスが嵩むだけの鈍ら。
「レベル上げなくても装備出来るとか最高かよ」
「中々に苦労したぞい、鍛冶ガチャ」
「何それ」
鍛冶ガチャ、何でも緩和条件はある程度ランダムで振り分けられているとか。装備性能の向上だったり、副次効果の追加だったり、レベル制限の撤廃だったり、兎に角色々。そんな仕様があったとは。
何処か遠くを見るような眼のゴドーは…その苦行を乗り越えてくれたらしい。
「やったのか、俺の為にやってくれたのか」
「何時も素材やらを回して貰っておるからの、試行回数は……聞かんでくれ」
首領とっても嬉しい。思わず立ち上がって広げてしまう程に嬉しい。さて、装備効果はどんな感じかな。
『我、最強Tシャツ』
:VIT+50 AGI+150
:アビリティ発動時、消費MPを減少させる。
「ゴドー、やってんな。運営に幾ら渡した。喉から手が出る程良い性能してやがるよ」
「色々と素材を試しておると、何となく組み合わせが理解出来てきての。首領もたまには掲示板を見てみると良い、思わぬ発見があるかもしれんぞい」
「鍛冶板賑わってんだ」
「鍛冶だけでは無いぞ。攻略、他の生産、ユニーク情報まで。帝国効果じゃわい、ゲームが活発になるのは良い事じゃの。聖国にも徐々に流れてきておるし、研究も進んでおる」
「ほええ」
流石帝国。同接数現在トップは伊達じゃない。
エリアボスのドラゴンは今経験値ウマウマで狩られまくってるらしい。
「ついでに、帝国の人気NPCを口説いた輩まで居たらしいぞい」
「勇者再び?」
「何でも袋叩きにされたとか」
「歴史は巡る、かぁ」
話半分で、最強Tシャツを装備してみる。
うーん、素晴らしい。軽装は軽いが、それでも関節部の動きにムラが出る。それと比べてどうだ、Tシャツだから肌着と同義。武器を振り回しても動きやすい…おっと、ナチュラルに戦闘面の良さを語ってしまった。
オシャレさで言えばどうだ、これもまた素晴らしい。
常に前は閉じてるが隠者の外套って、見た目的に軽装とミスマッチなんだよね。若干ゴツゴツしてるし。こう言うサッと着れる物の方が見栄え良くない?
「ふっ………おっと、すまん」
「何で今笑った?」
「何、良く似合っていると思ってのう」
思わず、と言う様子で噴き出したゴドーを半眼で見る。
まさか作ったお前がこの良さを理解出来ないなんて事は無いだろうな。
「折角じゃし、他のモンに見せて来てはどうじゃ?」
「良いね、そうしよう。今ログインしてるのは……お、カンペイとHaYaSEが居る」
「何とも両極端…いや、なんでもないぞう」
笑いを押し殺してやがる。
チャットを送って暫し待つ、すると近くにでも居たのか数分と立たずに二人は姿を現わした。
「首領ー、なんだよぉ、見せたい物がある……て」
「何か面白い物でも出来ました……か」
反応は、とても顕著であった。
ポカンと口を開けて、停止した二人は各々分かり易く反応して来るから。
「どうだよ」
「だっはっはっは!何それ、首領、何で真顔!?」
「首領、その……とても良く、お似合い、です、ね?」
両手を広げて最強Tシャツを見せれば、HaYaSEは地面にぶっ倒れる程大爆笑をかまし、カンペイは苦虫を数匹嚙み潰したような、なんて反応を返せばいいのか困惑した顔をしたからだ。
「似合う?」
「似合う、めっちゃ似合う。駄目だ、面白いっ……首領のツラでそれは、反則だろぉ」
「首領に似合わない服なんて一つもありません!神に誓って!似合わないとか抜かした奴は俺が成敗します!!」
我、最強。我、真顔。
うん、そうか。ギャグ枠に見えるのか。
「脱ぐか、いやでも、折角ゴドーが俺に作ってくれたモンだし…脱ぎたくない」
「まあ待て首領、そんなお主の為に実はリバーシブルにしておるんじゃ。裏返せば良い物が見れるぞい」
「マジかよ」
「年寄りを舐めるでない、昔取った杵柄と言う奴じゃ。裁縫だってお手の物じゃよ」
ウチの鍛冶師、万能だった。
一度脱いで、再度物質化。
裏返して見れば…なんと、我がクランの道化エンブレムが顔を出すではないか。
「外套のせいでクランの団服が着れんじゃろ。ならば正面に道化を構えてこそ儂らのクラマスよ」
「流石はゴドー、素晴らしい!」
「おお……おお?」
どうしよう、ゴドーが真剣な目で言ってる。
……大分恥ずかしくない?
俺、クレイジー・キラークラウンですって宣言してない?
「これ、寧ろ街中で着たら目立たねえかぁ」
「まあ、前閉じて歩けば問題ないだろ」
最強か、クランのエンブレムを着るかの二択とは。
脱ぐと言う選択肢は皆無だが、禁断の二択じゃないか、これ。
私、イケメンにはクソださTシャツを着せたい体質。