アルトメルン最強決定戦5
謎のテンションに任せて書いた、後悔は……ちょっとある。
アルトメルン最強決定戦四日目となりました。早くも半分過ぎ去った現在如何お過ごしだろうか皆様。俺はと言えば、今日も今日とて仲間に引き摺られる形で会場に足を運んでいる。
今日は源氏小僧、白椿、シモンの年少組です。お兄さんは年少組の下から目線に大変弱いのです。
さてさて、どうして俺がこんなニュースキャスターの真似事をしているかと言うと…現実逃避をする為である。
『シャークキィィィィク!!』
「ぎゃああああああ!!」
「ヤバい、こっちに来るぞっ!」
『ハハハ、まだまだ行きますよ!シャークスクリュー!!』
今、目の前の会場で、サメが暴れている。具体的に言うのであればサメの着ぐるみを着た不審者が暴れている。
謎に生み出された水流に乗り、上空へと飛来した鮫の着ぐるみが某ライダー宜しくドロップキックを噛ましているのだ。
意味が分からないだろ、俺も分からない。
「すげぇよ、首領!サメだ、サメがいるぜ!!」
「ああ、サメが居るな」
「かっこいい、撃ったら何色の血が出るんだろ」
「ポリゴンじゃないかな」
「侮れないプレイヤーですね、首領」
「それは動きが?それともキャラの濃さとして?」
ズゾゾ、と手に持ったハニーミルクを啜る。糖分が足りない、この状況を理解するのには糖分とカルシウムが足りない。何だろう、何だ、なんだあれ。
理解と納得は別物と言うが、どっちも出来ない。
それにどうしてコイツ等はこんなに嬉しそうなんだ、お兄さん最近の流行についていけない。
『へっ、やっぱり出てきやがったか。マスクド・シャークネード』
『アルトメルンの最強を決める戦いに、奴が出ないんじゃあ話にならねえぜ』
どうやら有名人らしい。新規プレイヤー、もしくは名前を変えた攻略組の人間か。もしかしたら、あんな如何にもなネタ装備は己の実力を隠す為の偽装……。
『……シャークネードさんって、釣り人じゃなかった?』
『『そうだぞ』』
え、あのサメって釣り人なの!?顔色を一切変えずに、少し離れた後ろの方から聞こえたヤジに驚愕する。余計に混乱して来た、何で釣り人がPvPに出て来るんだ…あれか、ハンデか?
『海の声を聴いた事はありますか?私は、あるっ!』
「何言ってんだ、おま…ええええええええ!?」
「流される!ヤバい、場外!!」
『シャーク、スパイラルフォースッッッッッ!!』
いや、多分海が大好きなんだろうな。さっきから潮水キメたような事しか言ってないし。脳みそを塩漬けにしたら、あんな事になるのかな。
シャークネードの周囲に水の渦が生まれ、それらはうねるように他プレイヤーに襲い掛かる。良く分からないアビリティだ…魔術では無さそうだけど、既存のアビリティで見た事が無いし、アルテマで実装されたユニークだったりするのか。
「彼の名前はマスクド・シャークネード。アルトメルンから東の沿岸で日夜釣りに勤しむプレイヤーだね。確か、数週間前に釣り関係のユニークを発生させてあの着ぐるみを手に入れたとか」
「無所属か」
「そうだね、クランに入ってるって情報は無いかな」
「へぇ……─────ん?なんで居るの、月見大福」
「向こうの方が一段落ついたからね、折角だからボクも観戦しようと思ってさ。隣良いかい、源氏小僧」
「おうよ!」
「うん、ありがと」
聞き覚えのある声で解説が始まったかと思えば、後ろに影在り。軽く手を上げた月見大福は、源氏小僧の隣に腰掛ける。何時も通り、何を考えてるのか分からない笑みを浮かべているが…少し疲れが見える。
「殆ど毎日、王様とか貴族と楽しくお話なんて疲れてきちゃうよね。その分魅実入りも良いんだけど、だから今日は休憩…誰にも邪魔させてなるもんか」
「そっか、何か妙な動きはあったか?」
「んー、特に何も。お姫様が随分と牽制してくれてるみたいだよ。何でも…お友達に粗相の一つでもあってはいけませんから、とか」
「へえ、随分と友達想いなお姫様だことで」
「まあ、うん……そうだね。今度会った時にお礼でも言っておいたら?」
「面倒…機会があればな」
「リクの機会があればって、フラグみたいに聞こえるよね」
何だ、その変に含みのある顔。笑みを嚙み殺したような月見大福に違和感を感じるが、気にする事でもないかと視線を戻す。
『大海が、私を呼んでいるっっっ!!』
戻したのが間違いだったかもしれない。バリトンボイスの着ぐるみ、シャークネードが津波を呼んでいた。そう津波、何処から現れたのか皆目見当も付かないが、小規模だが人を巻き込むには十分な津波……何で津波???
「いやぁ、壮観だねぇ」
「広範囲型のアビリティ、アリウス・マグダレーナを思い出しますね」
「範囲は広いけど、あの人の方が威力は重そう」
「ババアは辺り一面焼くからな、嬉々として」
「首領ならアレ、どう捌くよ?」
「……そうだな」
条件次第。撃って来るって前提なら、そもそも撃たせないように嫌がらせをしまくるけど、初見だと厳しそうだ。開幕、『隠者』で隠れてサクッと暗殺とか。
「肉弾戦も割と出来るのがネックだなぁ。攻略組とやり合えてる時点でレベルも上げてるっぽいし、ステは戦闘向きに弄ったか?……あれが釣り人ね、世間は広い」
プレイヤーの不満要素の一つに、非戦闘職の経験値問題が挙げられる。このゲーム、生産職のレベル上げがとてもマゾい。鍛冶や裁縫、調理で経験値は入らないのだ。
何でこんな設定にしたのかと、多くのプレイヤーが嘆願書を提出したらしいが、回答は全て「仕様です」の一点張り。
つまり、レベルを上げたきゃ生産職も狩りをしろ。
戦って経験値を稼ぎやがれ、と。低レベル層ならまだ良いが、50以上になると雑魚狩りだけでは効率が悪い。
とは言え、態々ボス相手に生産職を連れてくかと言われれば…答えはノーだ。
単純な話。一部例外を除き、生産職は戦力にならない。
更に人数が増えれば、その分ボスの強さも跳ね上がる。
無所属ならば、仲の良い戦闘職にキャリーして貰ったか、この様子じゃあ…例外の方か。
「特異性で言ったらリクも負けちゃいないと思うよ」
「サンキュー、褒められてる気は一切しないけど」
予想の斜め上の行動をするプレイヤーはユニークに遭遇しやすいジンクス。クロノスの頃からそれは変わらないらしいけど、あの釣り人は一体どんな奇行に及んだのだろう。褌一丁で阿波踊りでもしながら釣りしてたのかな。
「とは言え、準決に進むのはあのサメだな。他の連中なんか、既に戦意喪失してやがる。うん、俺もするかも」
どうしよう、気持ちが理解できる。
前衛系は殆ど押し流されたし後衛も魔術の連発でMP切れ。その癖サメ野郎は未だ元気にエンジョイしてると来たもんだ。
『これが海の力、皆さんも釣り人になりましょう!!』
『うおおおおおおおおおおお!!』
態々自前の釣り竿を取り出して、まさかの宣伝までして来やがった、あのサメ。
試合終了のアナウンスと、馬鹿でかいAIの声に耳が遠くなる。AIの声量調整、運営に送りつけてやろうか。
「いやー、すっげぇ面白かったな!」
「サメ、やはりアリよりのアリ」
「今の撮っておけば良かったな、調べてみたい」
「サメ映画、皆で見よう。おススメがある」
「そっちじゃない、スキルの方に決まってるだろ」
「そっか……残念、首領は?」
「見ない」
「……え?」
「…………分かった。時間が空いたら見るから、後で教えて」
サメの魔力すげぇ。白椿が勧めて来る映画って、大体がマイナーと言うか賛否両論激しい奴なんだよなぁ。
懲役二時間弱、長ければもっと……oh。
「三人も元気だねぇ」
「若さって、良いな」
「ボクらもまだ若いと思うけど?」
無理だ、俺達はあそこまではしゃげない。
『シャーク・ヘッド・アウトサイダー』
監督ヘンダ―・ジャクソンの最新作。
世界100万部突破の隠れた名作が遂に映画化。
20XX年、突如として世界中に蔓延したPSウイルス。正体不明、完治不可の寄生型ウイルスにより人口の八割がサメ頭の魚人となってしまった。
そんな中、ある男が家に代々封印されていた突き銛『AWAMORI』を携え立ち上がった。
彼の名はジョナサン・サメハント…寄生サメ人間たちに連れ去られた妻、マリリン・サメハントを救い出すべく、増え続け、迫り来るサメと熾烈な争いを繰り広げるのだ。
旅を続ける中で出会った個性豊かな仲間達。
サメ人間を信仰する宗教団体『ゴッド・シャーク教団』。
言語を話し、手助けをしてくれる謎の生命体『ショッキー』。
PSウイルスの正体。
明かされる、ジョナサン出生の秘密。
崩れ行く仲間達の屍を踏み越え、果たして彼は謎を解明し、マリリンの元へ辿り着く事が出来るのか。
ある兄妹の反応。
「これ、映画としてどうなの。ストーリーが意味不明なんだけど。何で最終的に宇宙人が出てくんだよ」
「Zzzz………(兄の膝を枕に眠る妹)」