アルトメルン最強決定……ん???
「ほう、主の技、何某かの手解きを受けたように感じたが…『因幡流』と申すのか。実に見事な足運びであった」
「諸事情で使えないのもあるけど、重宝してる」
「因幡、因幡流…はて、何処ぞで名を聞いたような気がしないでもないが」
「何だよ。もしかしてこっちにも居るのか、兎耳殺人鬼」
オウカへの道中。ログアウトしようとした俺だったが朱雀に引き留められ、回復&簀巻きにされたキエンの搬送に協力していた。
何でもこれから緋桜龍の爺さんにクエスト達成の報告をしに行くのだとか。NPCを捕獲していると直接街に移動できないから面倒だな。
「アンタの方こそ、その脚で良くあんな動きが出来るのな。正直何回か死ぬかと思った」
「……嘗て、手前が未熟なばかりに友を、師を死なせた。それ以来、剣に死出の道を定めてな、これはその戒めである」
「その付けた鈴は?」
「左が動かば未だ未熟の証、音を鳴らせば三流よ」
「意識たっか」
そんな訳で道すがらキエンと言葉を交わしていたのだが、何でもコイツも流派持ちだったらしい。
「手前の技は『八妖流』…妖物を断ち斬り、御国を護る剣であったが、今は廃れ、継承者もおらぬ末端なれば。どうだ主、手前の指南を受けて見ぬか」
「何それ面白そう」
話して見ればこのおっさん、朱雀から伝え聞いたテキストに似合わず割と口数が多い。どうも武者修行の途中で他の街に寄る事も無く、他人との会話に飢えていたとか。
剣で語り合うんじゃないのか。
「興味があるか、どうだ」
「どうやったら受けられるの?あんまり時間を食うのも嫌なんだけど」
いや、正直な話…コイツと戦ってみてアクティブアビリティ欲しいなぁ、なんて思ってしまった。アルテマでは戦う事なんて無いと思っていたけど、最近謎に戦闘続きだし。
それに隠居したとは言え、俺も一種のゲーマーの類。
初めて見る戦闘スキルとか、欲しいよね。後で守護天使に何を言われるか分からないけど、朱雀ならその辺口を閉じてくれるだろう。
「ククッ、生き急ぐか。それもまた良し。であるのならば…おい龍狩り、この縄を解け」
「…………」
「安心せい、逃げ出そうなどとは思っておらぬ。手前は敗れた、ならば強者に従うが道理よ」
「承知した」
簀巻きから解き放たれたキエンは何度か肩を鳴らし、懐に手を入れて何かを取り出す。上衣から現れた物…それは巻物。あれ、何か古い嫌な記憶が戻って来るような。
「これを主に授けよう。草臥れてはいるが、『八妖流』初伝の技が記されておる」
「巻物…いや、何か似たもん持ってるわ」
《サブクエスト《途切れし妖斬りは語り継ぐⅠ》が開始されました》
・八妖流初伝アビリティ『砂塵』を使い邪鬼を討伐(0/500)
・八妖流初伝アビリティ『瞬迅』を纏い大邪鬼を討伐(0/50)
《アイテム『八妖流指南書【初伝】』を獲得しました》
…
……
……………。
ノーギルティ!サブクエストならノーギルティです!!
あ、はい。これ思い切り因幡流の取得と一緒ですね。
狩っても狩っても終わらない地獄がまた戻って来るようです。寧ろ時間制限も無い分まだマシな方かもしれない。
何で、ーー流が付く奴はどれもこれもアホみたいにモンスターの討伐要求をしてくるの。
「邪鬼かぁ」
「案ずることは無い首領、某も手伝おう」
「手伝おう、って言ってもさぁ」
詰みじゃないか。
討伐、言うは簡単だがそもそも俺はレベルが上がらない。従ってステータスを上げる事も出来ないから、邪鬼だろうとカスダメしか入らない。慢性的なSTR不足。
致命殺を狙えと?一モーションの連撃で、全部首を刈り取れと?いや、使って行けば出来ない事もない、かも?
試しに指南書を使用する。
すると通常スキル枠で『八妖流【初伝】』、アビリティには『砂塵』と『瞬迅』の二つが追加された。条件が揃って、皆伝になれば誰でも取得できる類のユニークだな、これ。
「ごめん朱雀、多分報酬の一個俺がぶん捕っちゃったかも」
「気にするな首領。某ではそもそも武器種が違う」
そうかな、割と悪さ出来そうだけど。 鈍らを二本取り寄せ、キエンが扱っていたように構える。刀だけかと思ったが、直剣でも使えるっぽい。
「砂塵……あれ?」
試してみようとアビリティの使用。辛うじてMP量は足りている筈なのだが、どうしてか発動しない。
「若人よ、八妖【砂塵】だ」
「ああ、そう言う…『八妖【砂塵】』」
起動、鈍らに赤い光が走り、剣を振り上げる。異常に軽い、試しに何度か振って見れば顕著に実感できる。
勘違いしていた。このアビリティ、武器の重量軽減と威力増加補正が種だったのか、その代わり弾き耐性が使用中大分下がる、と。
え、じゃあ…あの剣速と流し方は素ですか。
何このおっさん、怖い。
「とっても悪い事出来るじゃん、神アビリティ」
縄跳びとかお手玉みたいなモンだと思えば理解しやすい。
テンポ、剣の軌道を理解していれば若干速度は落ちるが何でも出来そう。
「音に聞く、海を渡りし異邦人…やはり奇縁は良縁であったか」
キエンのおっさんが何事かを言っているが聞こえない。
目につく所で群れを成す邪鬼を発見した俺は、取り敢えず突撃を噛ましてみた。
「『弓張月』」
呼吸。まずは消費したMPをポーションで回復させてから、『月歩』と『新月』を平行起動。暗がりの中から姿を現わした化物に邪鬼は動揺を示す。しかし行動が遅い、得物を手にする前、邪鬼の一体の手の甲を蹴りながら、八妖を使用する。
「『八妖【砂塵】』」
移動中に道筋は読み切った。繰り出される人力ミキサー、暴風に似た斬撃は器用にその首を刈り取っていく。
とは言え、ミスも多い。体感三割は急所を外してカスダメしか与えていない。これは修正が必要だ、剣速を落としてテク重視、PSフル稼働に切り替える。
新アビリティを自分の型に落とし込むのだ。
「うん、有用!」
「ッ、数度、この僅かな刻の間に熟すか!!」
遠くからおっさんの絶叫。
使い熟してはいない、まだ振り回されてる。
団体様の邪鬼は数を減らしていき、クエスト欄には26の数字が記された。捗るぅ、致命殺ひゃっほい。
「手応えはどうだ、首領」
「悪くない、寧ろ頗る良いな。俺が持ってても宝の持ち腐れになりそうで怖い」
「重畳……─────であれば」
コクリと、首を縦に振る。
肩に鈍らを乗せて応えれば、朱雀はニタリと笑い背から大太刀を振るった。剣圧が風になり髪が揺れる。
「試合おう、首領」
「待て、待った、ちょっと待とう」
「正直に言おう、某も先程から高ぶっている。やはり【黒蛇】でもヤマトのモンスターでも足りない。やろう」
「目が真剣じゃん、お前にはまだクエストの完了って言う目標があるだろ。今はその時じゃ……」
ぽん、と反対側の肩が叩かれた。
キエンだ、奴は朱雀と同じく刀の柄に手を当てて、ギラつく鷹の様な目。
「まこと素晴らしき哉、奇縁」
「それさっきも聞いたんだけど、何で臨戦態勢」
「八妖の先達として、再度一手見えようぞ」
「やらないが??」
戦闘民族が多すぎる件について。
子山羊を見つけた猛禽類、高級ステーキを目の前にした肉食獣。あわれ二匹の獣に睨まれる草食動物はカタカタ身を震わせ、後ろに下がる事しか出来ない。
「助けて翠玉ーー!」
「ミュ?ミューン」
我関せず、地面に座り込み欠伸を零す翠玉の方に逃走。
草食動物の後ろに隠れる俺はなんて情けない事か。
でもこの草食動物、俺よりも数倍強いんです。今の俺は虎の威を借る狐なのだ。
「首領、剣を構えてくれ」
「若人よ、戦いこそ手前らの本懐にあろう」
そ れ は お 前 等 だ け だ ろ う が。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
☆
「それで何だぁ、お前さん等は三人共々平野で斬り合いをおっぱじめて、周辺一帯を更地に変えて、帰って来たと」
「更地に変えて、帰って来るって爺さんもしかして狙った?」
「うむ、些か周囲が冷たくなったな」
「で、あるな」
「……ついでに騒ぎを聞きつけて出くわした鬼人族の兵士共を全員のして来たと」
「大丈夫、殺してない。何か凄い怖い顔した鬼人達に怒られたけど」
「首領も加減をしていたぞ。そもそも某達はただ身を守っただけだからな」
「先に手を出して来たのは向こうなれば。手前らに落ち度は無かろうて」
「だよなぁ?」
「うむ」
「まことその通りよ」
「そうか、そうかぁ…………何か、言いたい事はあるかい?」
「「「無い」」」
「よぉーし、悪童共に爺様が有難ぇ説教をくれてやろう。其処に直れぃ」
その後俺達は、桜玉とヒオウから呆れた目を向けられながら、男三人揃いも揃って緋桜龍の爺さんの前で正座をし、延々と、本当に延々と説教を聞く羽目になるのだった。
終わる頃にはリアルで朝日が昇っていたよ。
ああ、そう言えば…出くわした鬼人の中にオニユリの副官の姿があった。何でも最近は異常な頻度で戦場に駆け出されているとか。
別れる間際、奴は俺の耳元でこんな事を言ってきた。
『近く、シラユキの街は大きく荒れるでしょう。オニユリ様は決断された』…と。
意味深な事を言われても、俺ちょっと分からない。
アズマ悪ガキ三人衆……?