アルトメルン最強決定……ん??
そろそろ首領に持たせたい武器の募集とかしたい。
長くなった気がする?……きのせいダヨ。
かち合う刃が鋭い金属音を上げる。
競り合いは論外、俺の低STRでは武器を弾き飛ばされて終わりだ。だから此処は流す。
下に流れた鈍らを素早く切り返し、胴を狙うが左の小刀に拒まれる。
こちとら一本だぞ譲歩しろや。
左指でウインドウから二本目の鈍らを自身の左手に物質化。中心に開いた狙い目にねじ込むように一突き。
しかし、これも防がれた。
どんな反射速度してんだお前。
「フッ!」
振り下ろされる右の大刀。
重心、反射的に肩を動かし紙一重の回避行動と共に接近した大刀を蹴りつけ隙を作る。
「甘露の如し」
「知ってるよ」
誰が甘いと、左の鈍らを地面に投げ刺す。
左手は虚空、次の瞬間現れる黒い球体。
悪いな、俺って別に剣士じゃねえのよ。
後ろに跳躍、同時に武人へ投げつける!
「起爆」
爆ぜる、奴の顔目掛けて赤色の爆炎で視界を奪いその隙に鈍らを回収、煙が立ち込める中へ月歩と新月を使用し縦一振り。入ったーー肉を断つ感覚、しかし浅い、ならば手数を増やせば良い。二の句も継がせず二剣を振るう。
回転による威力の上乗せ、右の鈍らを逆手に持ち替え、赤い目目掛けて鋭く差し抜く。
貫いた、が油断はせずもう一方の手で桐のように撃ちこむ。捻じ込んだ、このままDPSを─────ッ!!
言い知れぬ直感、虫の知らせ。反射的に首を僅かに後ろにずらせば、一秒しない内に目の前を刀が通る。
動かなければ俺が首を絶たれていたか、何故か梃子のようにぴくりともしない鈍らから手を離し再び距離を取り、身を低くして奴の動きを待つ。
「飛び道具、シノビの者か。其れもまた良し」
「忍者じゃないでーーす!!」
振り払われた煙から武人が出た。
成程、左腕…顔を突いたと思ったが、それを隆々とした左腕を文字通り肉壁にして耐えたと。
恐ろしいな、アルテマの縄張り主。
今の一瞬でどうしてこんな手を考え出せる、プレイヤーでも躊躇するわ。あれか、骨を切らせて肉を断つを素で行くのか、モンスター怖ッ!
「なあおい朱雀、縄張り主って皆こんなのだったか。記憶にある奴らと全然違うんだけど」
「……うむ」
「何でちょっと考えた。それはどっちのうむ……待ッッ、た、今お話中」
「武士が刃を構える時、主は待ったを掛けるか」
「掛けねえ、よッ!」
大声で朱雀に呼び掛けたのが悪かったらしい。
鈴の音を鳴らし目の前まで疾走した武人は、先程よりも数段速度を上げた剣閃で斬り掛かって来る。
「『八妖【砂塵】』」
特殊行動、いや違う…刀に纏う光は、アビリティ!?なんだそりゃ、知らねえぞ。
何処ぞの監獄行きの馬鹿が使っていた奴に似た連続技。だが此方はどうだ、手数もさる事ながら鈍らを入れる間もない洗練された連撃。人間スライサーかよ、どいつもこいつも人を細切れにする事しか考えてないのか。
防戦一方の刃嵐を紙一重で避け続けるが、この野郎、八千代みたいにどんどんと威力を上げて来る。
『剣の道』でも持ってやがるのか、そういや羽織着てんな畜生が。
「まっずい、マジで強い」
「首領、手を貸すか」
「要らねえっ!」
試しに一本投入、駄目だ、秒で砕けた。
壊れないように割と頑丈に作った筈の鈍ら君は速攻でポリゴン片に変わってしまった。これに肉体投入すればミンチになるね、世の御家庭の歴史が変わるぞ。
「回避回避、『月歩』、『新月』…うぉぉい!」
「曲芸の如し」
「アイアム、ピエロ!」
短剣二本を物質化、安置の後ろから投擲狙いは右腕と胴…だが、野郎は後ろすら振り返らずに弾き飛ばす。
そのアビリティ、割と取り回し効くんだね。お兄さん初めて知った。こんな事なら『投擲』スキルを取っておけば良かった、戦闘スキル皆無だよ、こっちはよぉ!
しかし、それで良い。
左の小刀に薄っすらと見える一本の線を確認して、俺は一気に自分の腕を後ろに引く。
するとどうだろう、野郎の刀は何かに引き寄せられるかのように俺に向く。
「ほう……!」
「魔鋼糸って知ってるか?」
知らねえなら実践で見せてやるけど。
以前使ったアズマ生息の女郎蜘蛛素材。その中の一つ『女郎姦糸』と王国産素材『マナクリスタルの破片』…これをどうにか組み合わせられないかと融合をしまくって生み出したのが、この『女郎蜘蛛の魔鋼糸』。
曰く、魔力MPを消費すれば糸は鋼のように強度を増しSTR対抗に上昇補正が掛かるとか。
そして更に短剣と融合、生み出された仕込みナイフ。
名前は『糸繰りの姦計』、まんまじゃねえか。
本当は森の中でワイヤ―トラップを張りたかったが、えり好みはしていられない。これで数秒間は稼げる、この間に何か策を弄したい所ではあるが、
流石に、そうは問屋が卸さないらしい。
「『五妖【灰燼】』」
「また知らないアビリティ出して来たぁぁ!」
地面を摺らせた大刀に火が付く。
武人は左の小刀を鞘に納め、まるで居合の構えのように空中で手を添えて、
「『六妖【焔尽】』」
急激な接近と共に吹き荒れる炎刃が糸を焼き切りやがった。分かる、これを喰らえば確実にロストする。
「クソッ、ラプラス!!」
『承諾』
寸での所で、刃を棺桶が防いだ。
しかしまだ続く、衝突と同時にかち合った火花…それに反応するように炎は一際激しく揺らめき、熱波が襲う。
緊急回避!どうにか受け身の姿勢を取って地面を転がり、右手でバウンド、態勢を立て直す。
曲芸はどっちだ、クソッたれ。
「『八妖─────」
「リキャスト早すぎじゃねえか!?」
アビリティ発動の手前、手癖で小型花火をまき散らし素早く撤退。
「──【砂塵】』」
まあ、無駄なんですけどね。
奴は右足を軸に大きく構える。二代目回転ミキサーが煙を散らして、更に武人は生傷一つ見当たらない。アズマってもしかしてアレか、とんでも生物の展覧会場だったりするのか。縄張り主がこれならボスはどんな化物が飛び出してくるんだ。
俺の横断幕、ここに埋葬しようかな。
何て馬鹿な事を言っている場合ではない。
勝てなくても仕方のない相手だ、そりゃあレベル差がアホ程違い過ぎる。とは言え、簡単にやられてしまうのは俺の沽券としてどうなん?と言う話。
「ただで負ける訳にはいかねえッ」
せめて傷跡の一つでも残してやらねば気が済まない。
「スゥ─────」
息を吐く、薄く、浅く、空気と溶けるように。
この嵐も何となくパターンは掴めてきた、ウインドウを操作、鈍らを一本取り出す。挟む場所を探る、隙が無いように見えて…その実これは見せてるだけだ。
思い出せ、俺は今まで色々な珍生物と遭遇して来た。
鎌振り回すシスター服とか、大剣で山砕く正義中毒とか、瞬きすれば首刎ねられる兎耳の爺とか。
それに比べればどうだ。
高々相手は縄張り主。
何度か流せば掴める、人型…鬼型?なら尚やりやすい。背中から鎌を出して来ないだけまだマシだ。
感覚を研ぎ澄ませ、ただ狩る事だけを考えろ。
PKを思い出せ、隙は必ず、
「『弓張月』─────こっこ、だぁ!!」
「ッ………」
生まれる。
顔色は変えなくても筋で分かる、お前今動揺しただろ。
ただの一点、一ミリでもズレて居れば何本目かの鈍らがお釈迦となる所だったが、賭けに勝った。
何度か見て分かった事だが、この野郎、二刀流の振りをした大刀使いじゃねえか。左は主要武器には至らない、ただのメインを魅せる為のサブパーツ。
まずは左を貰う。
狙った物は肉壁にされ、傷を残した左腕…其処に突きの一撃。
幾ら屈強な肉体を持っていようと、NPCならば痛みは誤魔化せない。痛覚設定の有無は割と大きい。
反射的に落とした小刀、それに見向きもせずに武人は大きく後ろに飛び退く。鈴一つ平野に響く。
「見事、見事也、良縁の剣士よ。しからば見せよう─────これ八妖の頂、その鱗片なれば…『三妖【歌陣】』」
「まーた新技か、今度は何をしてきやがる」
得物の片割れを落としたと言うのに、愉快そうに笑う。
まだ、何か来る。退いたのならば攻める、前に飛び行こうと動く俺の耳に、武人の声。
「………─────」
「……え、歌?」
思わず呆気に取られる。
渋い声と共に武人が声を紡ぐ。アレだ、演歌とかじゃねえ、もっと古い感じの古風で雅な歌。呆気に取られた次の瞬間、シャランと鈴の音が眼前で聞こえた。
「ッ!?はっっっっや!!」
「………─────」
いや、重ッッッッ!!
歌を歌いながらぶった切って来るとか、何世代昔の美少女アニメの技だよ、ふざけんな。外見が無骨な武人なだけに違和感が半端じゃねえ。
最早隠す事すらせず大刀に両の手の力を乗せ、異なる大振りの剣技は地面に当たれば深い斬痕を残す。
「舐めんなッ!」
「………──────────!」
サビに差し掛かったのか、一際声が大きくなる。
バフ…明らかに威力と移動速度の上昇が乗っている。それに動きが一変したせいで対処が面倒だ。
しかし、何とか適応しなければ死=ロスト。
もう考えるな、勘に任せろ。
「─────獣の様哉」
「お綺麗な剣なんざ知らねえ、よ!」
歌が止んだ、今が絶好、正しく好機。
一刀は継続…パターン有りの奴か。だったら有難い、二三度切り結びさえすれば。
「見切れる」
「ハァッッッ!!」
力を最小限にして、大を取る。
何処ぞの爺に出来るのなら、似たような事は俺にだって出来る。良いね、斬撃も肉に当たるようになってきた。
例え強者、例えレベル差があろうとも、それが人型であるのなら俺の土場に既に足をぶち込んでいる。
いらっしゃい、此処は底なし沼だよ。首置いてけ。
「…………ハッ」
「ククッ」
駄目だ、口角が上がる。抑えが効かない。
「ハハハハハハハハハッ!!」
「クハ、ハハハハハハハハハッ!」
忌々しいが、今凄ぇ楽しい。
やっぱりこれだよ、戦闘ってのはコレなんだよ。人が根本の所で求めてるのは命の取り合い。ゲームならそれが出来る、だからクロノスで求め過ぎた。
かち合う、流す、それの連続、更に攻めて肉を削る。
コイツは剣を逢瀬とか語らいとか言っていたが、全くどうして…ちょっとだけ理解してしまいそうだ。
「まだまだ、舞えッ!」
「誰に言うておるかっ!」
「「上等!!」」
剣戟が風を生む、一手ミスれば終わり。
チリチリと脳みそに火花が散り、気を抜くだけで焼き切れしそうだ。それが良い。
だが、悲しいな。それも仕舞の時間だ。
解析が終わっちまった。
「八妖『砂」
「いや……─────もう無駄だ」
読み切った。砂塵のモーションが始まった瞬間に、俺は鈍らをヤツの右手に突き刺す。
僅かな停止状態の合間、引き抜いた鈍らを上に振り、奴の大刀の柄をかち上げ、飛ばす!
そしてもう一つ、すぐさま上体を低くして俺は武人の左足を蹴り飛ばすのだ。
「ぐっ……」
「隠してはいるがなぁ、月の光で時々光ってんぞ。何だどうした、右に比べて随分と軽いじゃねえの」
大きく、鈴が鳴る。
ただ足を蹴りつけただけで武人は態勢を崩した。
舐めプはしない、鈍らを取り出し、地面に縫い付けるように右手を止め、踵で更に深く突き刺す。
どうやら違和感は正解だったらしい、触りは図体には似合わない軽い金属のそれ。
完璧な足運びに見えるが、時々左が不自然だった。
力を入れるのは最低限、疾走の時も全て右踏み込み、利き足だからってのも択の一つにあったが、生娘を扱うように丁重に扱うのな。
巧妙に誤魔化しては居ても、こちとら幾度と人体を玩んできた手前。些細な違和感から急所を狙って、それを小馬鹿にして嗤うのが俺達PKプレイヤーってなもんよ。ああ、元な。
クソッたれめ、残念でならない。どうせ死んでもお前には一メモリすら残らないだろうが、今この時は敗者の烙印を刻んでやるよ。
「『弱点付与』」
首元に刻印が浮かぶ。
ウインドウを操作して、短剣を一本取り出しながら、俺は武人の首元にそれを添えた。
「さーて、今の率直な感想をどうぞ?」
「クク…クハッ、まさか手前が浄土渡りにすら至らぬ唯人に破れるとは、まこと面妖。しかし血が滾った。良き語らい、良き戦であった」
「良いね。俺も楽しかった。本当に、久々に、血が沸き立つ位楽しかった。もし次があるならまた遊ぼうぜ。縄張り主」
最後の最後でとんだ催しが開催されたもんだ。お陰で今の俺のテンションは天元突破待ったなしの最高な状態。
だが……きっと、このモンスターが義足で無かったのなら俺は呆気なく負けていた。確実に、中盤の謎アビリティでマイルームに戻ってベッドの上でもんどりうっていた。
だからこそ、コイツが義足で無かったのなら、俺がクロノスの頃のステータスを持っていたのならきっともっと、もっと心躍る戦いが出来ただろうに。
「再び、冥途で見えようぞ。人斬りの唯人」
「ああ、あばよ」
酷い事を言う、俺はこっちでは真っ白だ。
だがこれもまた一興、剣で語って、最期に言葉を交わす。
何と言うか、俺の厨二心が再燃しそうな展開。
だが、その逢瀬に待ったをかける男が居た。
「待ってくれ、首領」
「……どうした朱雀、今良い所なのに」
「その男だ」
「何が?」
「某が、クエストで探していたキエン・ムラマサは、その男だ」
「…………え?」
パチクリ、と俺は目をしばたたかせる。
脳みそが急激に冷たくなる、冷却。
「いや…でもNPCのマーカー出てないじゃん」
「済まない首領、某の説明不足だった。キエン・ムラマサ…捜索後この男の確保、或いは討伐が、今追っているクエストなのだ」
「ああ、一応はモンスター扱いだった訳……え?」
武人と目が合う。彼は怪訝な目で此方を見ながら、首を刎ねないのかと無言で語り掛けて来る。
「お前、モンスターじゃなくてNPCなの!?」
「何を言う、手前は言った筈だ。妖物と同義に語るか、と」
「聞いて……あれ、言ってた、か?」
「うむ」
そっか、言ってたな。
俺は右手にぶっ刺していた剣を引き抜き、朱雀の方を向いた。この様子じゃあ、大分前から気付いてただろ、お前。
「何時から気付いてた?」
「最初からだ」
そっかぁ……じゃあ言えよ馬鹿!
先程までの優越感やら充実感やらは何処かへ消えて、段々とお腹の辺りが痛くなってくる。アルテマでも胃痛薬とか売ってないかな。
首領のテンション。
・デザートに馬鹿強そうなモンスター出現(だと思ってるだけ)+20
・斬り合い楽しい+50
・オチまでカッコいい+30
・お前NPCかよ-100
ペイルライダーの場合
・死神〇ね-9999999




