アルトメルン最強決定……ん?
神は言った、汝好きに書き給へ…と。
アルトメルン最強決定戦……三日目ッ!!
今日も今日とてイベントの観戦に赴いて……いないっ!!
俺は現在、アズマに居る。
嘗て龍人族と鬼人族がドンパチ事を構えたあの場所。
辺り一面の平野、帳が下ろされ松明でも無ければ視覚が確保出来ない夜の闇。其処に犇めく鬼の影。
鬼……正式名称は『邪鬼』らしいが、徒党を組んで襲い掛かって来る面倒な敵だとか。
推奨レベルは78以上、オウカ周辺のモンスターの中では雑魚に当たるが、ぶっちぎりで俺では討伐も糞も無い難敵ではある。
さて、そんな連中を目の前にして俺は何をやってるのか?
ふふん、答えは簡単である。
「死ねや、小鬼共ッッッッッ成敗ィィィィ!!」
「首領、荒れているな」
「ミュン」
八つ当たりだ。
誰が何と言おうとこれは八つ当たりでしかない。
しかし正当な八つ当たりだ。
神様、ルナーティア様だって許してくれるさ。
……どうしてアズマに居るかって?
それはね、最近聖国を解放したプレイヤーが多い事と、王国に行くと変な遭遇が発生する確率が高い事だよ。
歩けば精霊、走れば精霊騎士、見つかれば兵士。
悲しいかな…あの場所では英雄は隙を見せれば拉致される。傭兵だって言ってるのに賓客対応されるとか嫌だ。
ついでに序盤の平原は論外。
出歩いて二回もPKに遭遇するなんて悪意を感じる。
そんな訳でアズマです。
だって、何も気にせずにエンジョイ出来る。
「横っ腹がお留守ですわッ!」
月歩と新月の平行起動。
空気を蹴り飛ばし、大振りに鉈を振り上げた邪鬼の膨れっ腹に飛び蹴りを噛ます。
レベル差はあれど、対格差は無視できない。
子供サイズが大人に勝てる道理は無く宙を浮く邪鬼、確認と同時に地面で軌道修正。
抵抗空しくその首目掛けて刃を振る。
接敵最高、脳内麻薬噴出。
幾らスローライフに勤しんでいても、NPC相手とは言え命の取り合いは楽しい物よ。
致命殺。
時刻は夜……『銀月の祝福』と『緋桜の誓い』のダブルユニークパワー、其処に翠玉さんの召喚によって俺の現ステータスはレベル詐欺にも等しい事になっている。
更に武器……はただの耐久値が高いだけの鈍らか。
だがしかぁし、俺にはまだ二つも主戦力が隠されているのだ。
「ギャギャ、ギャギャギャギャ!」
「ギャギャギャッ!」
「何だ何だ、仲間を殺されてご立腹かぁ!?一丁前に高性能なAI詰みやがってよぉ……ところでそのお腹のアクセサリー、ユニークだね。流行ってんの?」
「ギャギャ…ギャ?」
「─────起爆」
瞬間破裂。
木っ端微塵に砕け散る邪鬼にぺたりと取り付けたのは、真竺発案の粘着型小型花火……通称『くっ付き蟲』。
これを完成させるために何度我がマイルーム南の森の木々が犠牲になった事か。
爆風で吹き飛ぶ数体の邪鬼を手癖で斬首。
気持ちいい、気分が高揚する。
「ギャギャアアアアッ!」
しかしそれも束の間。
黒煙の中を駆け抜けた残存兵、もとい邪鬼の残り。
勇猛果敢に立ち向かって来る所、大変申し訳ないのだが上を見た方が身の為だ。
「お星さまにお祈りする準備は出来てるか?」
アレは何だ!?
指を差す先、上空の果てに見える朱色の閃光。
徐々に徐々にと色が近付く、いや落ちて来る。
慌てる暇なぞ無い…落下物が迫る中、俺は大きく後ろに跳躍して告げる。
「これが俺の新アビリティ『不法投棄』だ」
『マスター、メカハラで訴えますよ』
説明しよう。俺の新アビリティ『不法投棄』とは、割と広い範囲で展開出来るデケェ棺桶を空中から落下させて相手にぶち当てる高感性高威力の質量的必殺技である。
「うーん、残骸」
『マスター、メカハラで訴えますよ』
いや、本当に。
業務用冷蔵庫が空から落ちてくるとか恐怖でしかない。雲の上から落とした筈なのに良く無事だね。
と言うか、範囲広すぎない?
一体何処まで行けるの、このデケェ棺桶。
それにこれ、結構標的の誘導とか面倒だから使う事は二度とないかもしれない。
一度しか見る事の出来ない様は正に流星と言えようか。
さてさて、そう言う訳で残党は片付けた。
後は恐怖で身を震わせる憐れな邪鬼達にトドメを差すだけ。
「良いAIってのも困りモンだなぁ。隙見せちゃ駄目だろ、なあ」
「ギャ─────」
「そーいっ!」
最後の一体を葬り、手に付いた埃を払う。
埃もエフェクトとしてあるんだ、進化し過ぎだろ。
軽く一息つけば傍に朱雀と翠玉が歩み寄って来るのが見えた。コイツも割と忙しいだろうに、今日一日律儀に付き合ってくれたものだ。首領とても嬉しい…だから、良く分からんクエストとか引っ張って来るな。
「憂さは晴れたか、首領」
「まあ六割ってところかな。やっぱり裏動物療法は良く効く、考える事少なくてめっちゃ楽だわ」
「ミュミュン」
「おー、よしよし。お前も可愛いぞー」
撫でれと頭部を押し付ける翠玉。
わしゃわしゃと下顎を擽れば、満足そうに鳴き声を漏らしている。裏も良いけど、やっぱり表か。
「此処ら一体も随分と数が減った。そろそろ縄張り主が出て来るだろうが、引き上げるか?」
朱雀の声に、ふむと考える。
縄張り主。
それは一エリアで長時間狩りを行っていると出現する中ボスのような敵の事。
エリアボスは討伐するとマップが解放されるのだが、コイツは違う。倒しても雀の涙しか落とさない素材アイテム、経験値量共に微々たる物で、長時間プレイを妨げるだけの存在なのだが。
「いや、やってみたいな。どうせ経験値が少なくても、そもそも俺レベル上がんないし。最近試作した玩具の性能も試してみたい。締めにも丁度良いだろ」
「了解した」
「死んだら解散って事で」
別にロストした所で、今の俺はマイルームの自室に戻されるだけ。プレイヤー相手で無ければCCの格も下がらないし……何よりも、何処まで対応できるか知りたい所。
あ、そうだ。コイツに聞きたい事があったんだ。
「そういえば、最近お前の方は調子どうなの。オニユリちゃん拉致事件からあんまりアズマのクエストの話とか聞いてなかったけど」
「うむ。今はとある人物の捜索をしている」
「へえ、人探しか」
「どうもランダムエンカウント制のクエストのようだ。戦いに狂い、血を求め、街を捨てて旅を続けるNPCらしい」
「戦乱の世かな?」
「名をキエン・ムラマサ。某の予想ではあるが……」
「英雄かも、って事か」
「うむ」
英雄、まだこっちの世界では拝んだ事はない。
ミカエルの話だと王国にも聖剣使いとか言うのが居たらしいが、放浪の旅に出て行方不明とか……英雄って皆そうなのかな。
「それとここの縄張り主ってやっぱり鬼なの?」
「うむ、図体のデカい鬼だな」
「鬼人族と鬼って明確な違いとかあるのかな」
「さてな、生憎と某はオウカの知り合いしか居ない」
「だよなぁ」
剣を玩びながら、朱雀と歓談する。暇を潰す事暫し、周囲の雰囲気が酷く剣呑な風を帯び始める。
「来たか」
「うむ、来たな」
平野の奥に光る二つの赤在り。
夜に慣れた目であれば辛うじて輪郭を捕えられる距離。
鬼火のように揺れるその色は、瞳か。
全長にして2m…いや、もう少しあるか。
月の明りが、姿を照らした。
一言で表すならば、羽織袴の鬼の武人と形容する事が正解だろう。笠で顔は見えないが、突き出た角は立派に二本。
左右に構える刀は大きさが違う、右は長く、左は短い。
たかがモンスターの癖に随分とめかし込んでいる。
「……む?」
上等だ、凄く強そうだ。
ビリビリと肌を刺激する敵意にも似た気配。
月歩、並びに弓張月…既に姿を晒しているから隠者は使えないが準備は万全だ。
後数歩。足に力を込めて、自ら死地に踏み込む巨体の首を睨み付ける。
「首領、あれは─────」
入った。
一線、それはしかして奴にとっての死線。
地面を蹴る、直線運動で弾き飛ぶように疾走る。
「その首、貰ったッ!」
直前で新月を使用して速度と狙いを調整。
刹那の交錯。俺の鈍らが首元に滑り込み、確実に奴の命を断とうとしたその瞬間。
目が合う。
野性的な、理性のある顔で奴は笑っていた。
ガギン!と鈍い音を立てて、視界に火花が散る。
どういう訳だ、いや分かる。
回避のしようも無い距離で、鬼武人は自身の左刃を差し込んだのだ。
ああ、コイツやれる奴だわ。
背筋に冷たい物を感じ、直感に従い距離を取る。構えは解かず、ただ思考する。
「何と奇怪、面妖な者よ」
「喋れんのかよ、モンスター」
ひりつく感覚に懐かしさを覚える。
『死神』や『天剣』、因幡のクソ爺、緋桜龍……連中と相対した時のソレ。
強者だ、目の前にいる奴は間違いなく俺よりも強い。
精霊騎士を見ても、紫玉…ムクロアダバナを見ても感じなかった得体のしれない高揚。
「此度見える事になろうとは、奇縁、まこと奇縁なれば」
「御託は抜かすな邪鬼の癖に、モンスターならとっとと素材だけ落として消えやがれ」
「もん、すたー?妖物と同義に語るか、無礼者め」
クククと、喉を鳴らして笑う鬼の武人。
無礼者とは言うが、愉快そうな顔をして二本の刀を構える。チリン、と何処からか鈴の音が響いた。
「良き縁、良き出逢い、強者との逢瀬は良き物よ。死合おう若者、無頼の手前らは剣こそが全てを物語る」
「言われなくても」
何か、随分流暢に話すなこのモンスター。
火蓋は切られた、ほぼ同時俺と奴は一瞬の内に肉薄する。
追記 大変申し訳ない話だが、アズマとヤマト普通に間違えてたから修正。少し前まで書いてた別作品の街だった、ヤマト。