アルトメルン最強決定戦3
「何故か最近、俺が黒フードを被ってお忍びで握手会に参加したと噂になっていたが、あれもお前の仕業か首狩道化ぇ……」
「待った待った。アレは不幸な行き違いと言うか、俺がアイドルの握手会に参加した何て話が出てみろ、CCの印象駄々下がりだろ。だから仕方なくさぁ」
「俺ならば評価が下がっても問題ないとでも!?」
「既に下がる要素皆無じゃん、ジーク」
BBが所望したゲテモノ串焼きを手に、彼女の元に戻って来たは良いが、何故かジークフリートも付いてきた。
兜を外した彼は端正な顔を歪めに歪めてテーブルに肘を付き顔を顰めている。
可哀想に、誰のせいだろうね。
流石にコレと同席していては噂が立つ。
人目の少ない場所に移動して腰を下ろした。
「首領、引き、強いよね」
「コイツの場合は引きが悪い気がするんだが、と言うか一方的に探されてたらしいし。何だ、俺は迷子の子供か?」
「子供にしては性根が邪悪すぎないか」
「はは、それ言えてる」
出来れば会いたくなかった古馴染ではあるが、『死神』や『天剣』に比べれば会話が通じる分大分マシだ。
「赤ではない、と言う事は…やはりもうPKは引退したのだな」
「アルテマ移行に合わせて、PKは廃業だ。流石にもう飽きた」
「そうか……そうか」
「何だよ、含みのある反応しやがって。もっと喜んだらどうだ、攻略組」
てっきり両の手を上げて喜ぶか、感涙に咽び泣くかと思ったが…まるで奥歯に挟まった物が取れないような、複雑そうな顔をしている。
別に珍しい事でもないだろうに。
「ジーク君、寂しい、の?」
「ッ……決してそんな事はない!清々しているとも」
「そんな物欲しそうな面しても何も出ねえぞ。今俺は大変に忙しい。狩りなんかしてる暇がない位だ」
現状増え続ける厄ネタ。
此処でゲロすれば確実に面倒な事必至の情報の数々。
いや、寧ろマウントを取る為に言っても良いかも。
「忙しい、か。何だ、もしやお前までもがグランドを追っているのか?」
「追ってない…が、それに近しい物なら見つけたな」
「……本当か!?」
驚嘆と共に思わずと言う様子で立ち上がりかけたジークフリートを手で制する。
「まあ座れよ。詳しい事を言うつもりは毛頭無いが、どうにも俺はその一つを踏破しちまったらしいぜ?」
これ見よがしにテーブルの上で手を組み、中指に嵌めた髑髏の指輪を撫でながら続ける。
奴の顔に浮かぶのは疑惑と驚愕の相。
随分良い顔するじゃねえか、テンション上がっちまう。
「罪禍の一つ、『飢餓』……アズマで遭遇したレイドモンスターをアレやコレやしたらクエスト完了しちゃったわ。ごめんな、攻略組」
「まさか、そんな…いや、そもそもアズマだと…」
「そうアズマ。何だお前、もしかしてウチの連中の装備とか見た事無いのか?朱雀と八千代が日本刀振り回してただろ」
まあ、アズマに密入国したのは朱雀君なんですけどね。
俺はそのお零れに与っただけなんだけど。
「ウチのクランは既にアズマの転移石を起動した。それと聖国、並びに王国もな」
「やはり…王国解放の一件にはお前も噛んでいたのだな」
流石は騎士団長サマ、感情の抑制はお手の物らしい。
ついでにアイテムボックスからアルファシアタイガーの爪、聖国のゴーレムの残骸、朱雀がヤマトから送って来る素材なんかも出しちゃう。
「鑑定でもして見るか?」
「……確認した」
おっと、先程よりも随分と目つきは鋭くなったな、楽しいから続けよう。
「さて、王国な。あっちは事故みたいなモンだが。『死神』が盛大なドンパチやらかしてただろ。成り行きであの馬鹿を仕留める事になったんだよ、お陰で今では王様の覚えも大変宜しい」
「首領、それ、言って良いの」
「似非騎士は適当に漏らすような事はしねえよ、そうだろ?」
「……問題ない、決して口外しないと誓おう。後が怖いからな」
馬鹿正直の塊は、アルテマでも変わらない。
尤も、仮にコイツが他所に口外したとしても俺達に被害は無い。情報を欲しがるプレイヤーだって理解している筈だ、俺達を相手に下手な事をすればどうなるかを。
「いやぁ、話が分かるジーク君で助かるよ。俺達だって、また赤文字に戻りたくないし」
「白々しいな。誓いを違えれば、直ぐにでも戻るだろうに」
「そんな事無いって。時代はピースフル、人と人は支え合って行くのが一番だろ。平和サイコー」
「言ってろ、首狩道化」
おかしいな、こんな曇りの無い目を見てそんな事を言われるなんて思いもしなかった。
信用してくれても良いのよ?
なんだよ、その性格の捻じれ曲がった詐欺師と相対している法律家みたいな顔は。
「悪い事ばかりでもないだろう。『死神』は監獄送りにしたし、攻略組的には万々歳だ、グランドの攻略頑張ってね。応援してるよ」
「くっ……」
屈辱そうだねぇ、屈辱だろうねぇ。
まあ、あの女の事だからひょっこり脱獄してもおかしくはないけど。今頃他の囚人を武器にして看守に殴り掛かってんじゃねえかな。
「落ち着け、落ち着くんだ…道化の戯言に耳を貸すんじゃない…」
今度は自己催眠の練習でもしてるのだろうか。
固く目を瞑って、青筋の浮かび上がった額に手を添えて…何度も同じ事を呟いている。
「冗談はさておき…俺達はPK引退、『死神』は檻の中、『天剣』も大人しそうだしアルテマは随分と静かで良いじゃないか」
「いや……そうとも言えん、聞いていないか。最近PKクランが徐々に数を増やしてきている事を」
「お、復帰早い」
「黙れ」
酷い、強い言葉を使うなよ。俺泣いちゃうよ。
「PKクランねぇ、そういや月見大福がそんな事言ってたっけ」
「新規狩りの増加に加えて、NPKに手を出す輩まで増えだしているんだ。人口の多い帝国では、問題になってきている」
「暗黒期前に戻ったみたいじゃん、歴史は巡るってか?」
「笑いごとではないのだがな」
充分お笑い事だ。
結局幅を利かせていた連中が居なくなっても、後続が増えていく一方。現実でも仮想でも、それは変わらない。
「現状、帝都連合による牽制で抑えてはいるが、時間の問題だろう」
「そりゃあそうだ、大前提PKは金になる。行商のNPCからは素材も金品もぶん捕れるし、新規を狩れば自己顕示欲を満たせる。娯楽としては最適だろ……帝都連合って何?」
「文字通り、帝都に拠点を置く大規模クランの連合だ。銀竜騎士団、探求の道行き、アルテマ移行後に新設された流星の剣、百花繚乱、凶楽天、フラワー&スノーの計六クラン…掲示板でも話題に上がってると思うが?」
「首領は、あんまり掲示板、見ないよ」
「そうだったのか……」
「駄目だな、似非騎士とババアの所しか分からん」
関わる事も無いだろうし、覚えなくても良いか。
「ああ、新規狩りって言えばさ。最近帝国にキャロット・キングってのが行ってると思うんだけど」
「ヴァロット、だよ、首領」
「『山賊王』か、確かに目撃があったと団員から聞いているが…それがどうした」
「アイツ等、ウチの傘下クランに収まったらしいから宜しく言っておいてくれ」
「あの『山賊王』が道化の傘下だと?」
少し前に月見大福から報告が来ていた。
傘下クランは、正式に加入した訳では無くあくまでも同盟扱いに近いとか。
まあ、体の良い駒だな。
アイツは昔からそう言う所がある。
「月見大福が手綱を引いてるし妙な事は起こさないだろうが、もしまた新規狩りなんてつまらない事をやり始めたら連絡してくれよ。俺達が狩りに行くから」
傘下と言う形に収まった以上、仮ではあってもCCの名を背負う事になる。別に連中が何をしようが勝手だが、俺達の名前を使ってつまらない事を始めたら…ケジメを付けなければならない。
「ふむ……承知した。だが、残念な事に俺はお前達の連絡先を知らない」
「ああ、そうだったな」
「であるのならば、その…此処は道化のクランマスターであるお前と交換するのも良いと思うのだが」
「え?」
この男は一体何を言いだすのか。
俺が似非騎士とフレンドになる?
冗談は顔だけに……いや、待てよ。
「それも悪くないかもしれないか」
「……首領?」
帝国の情報収集役として、月見大福はキャロットを送り込んだ。だが、連中は割と顔の知られている元PK。
行動にも限度があるし、何より俺が一番欲しい情報が手に入るかも分からない。
『天剣』の情報…と言うよりも動向。
俺はアイツに会いたくない。
『死神』と同じ位会いたくない、顔も見たくない。
で、あるのなら口が堅いコイツが御都合良くポロリするかは分からないが、択の一つとして持って置くのもアリか。
「うん良いね、なろうフレンド」
「本当か!?」
「勿論だ、俺とお前ももう数年来の付き合い。親友同士と言っても過言じゃないからな」
「ッ、親友……!」
だから親友にポロリしてくれてもいいんだよ。
「そうだな、確かに長い付き合いだ。うん、親友……それでは…フレンド申請を、送っても良いだろうか」
「何でそこでどもる、大の男がモジモジすんな気持ち悪い」
ジークフリートから、フレンド申請が飛んで来る。
「承認、と。ああでも、幾ら親友とは言っても無駄な連絡は控えてくれよ。親しき中にも礼儀ありって言うだろ?」
「善処する」
「確定事項にしろよ」
承諾を押すと、何度目かになるポップアップが表示される。思えば、コイツとフレンドになろうとは考えもしなかった。
仲が良いどころか、思いっきりやり合ってたからな。
「さてと…俺達はもう行く、じゃあな似非騎士」
「次に会う時があれば、今度は模擬戦でもどうだ道化」
「絶対に嫌だね。首が飛ばない喧嘩なんて何が楽しいんだ」
「ばいばい、ジーク君」
これもまた巡り合わせと言う奴か。
良かったね、ジーク君(真顔)。
僕達ズットモだよ。
補足。
『暗黒期』
クロノス・オンライン四年目から六年目まで続いた天災連中のパーティ。
道化達がヒャッハー!!して、死神がFooooo!!して、天剣が正義執行!!してた時代。
別名、カスの新時代。