アルトメルン最強決定戦2
ビビアン、やはり才能の塊であったか。
ついでにゼロビーは天井しました、プルクラ完凸です…凄い強い。
仲間達の元から一度離れ、向かったのは闘技場入り口。今日の部が終わった事もあってか、闘技場から出る連中に混じりBBを探す。
いや、探す手間も掛からなかった。
「首領、やっほ」
あの謎の黒フードではなく何時もの軽装。
痕巌老虎は目立つと思ったのだろう。
スペアの長槍を背負い、壁に身を預けて俺を待っていた彼女は何時もと変わらず無表情。
「お前、イベントに出るなら言ってくれれば良かったじゃん」
「驚かせたかった」
さいですか。
アイテムボックスから適当な飲み物を取り出し投げ渡す。クインハニードリンクだったか、屋台で買った物の一つだ。
「どうだった?」
「良い見世物だった。やっぱりお前のPK…対人戦は花があるな」
「嬉しい」
僅かに頬を染めてBBは微笑む。
基本的にウチの前衛職は映えよりも効率を優先する傾向にある。
俺や八千代、ハンペン騎士のような即殺。
朱雀や刃狼、源氏小僧のような物理ゴリ押し。
ハートの女王や羅刹丸、月見大福なら隠密タイプと言えば良いか。
十六夜?アレは何でも出来る。
その中で映えを意識した戦いを好むのがコイツだ。常に己の中にある美学を意識し演舞ように獲物を狩る。
それは現実の職種も関わっているのか、はたまた趣味なのかは分からないが。
昔、痛々しい過去の俺はコイツを『戦場の烈華』と呼んだ。思い出したくないけど、個人的には中々良いネーミングセンスだと思う。
「それで、なんだってお前はイベントに参加したんだ?スキルチケ狙いか?」
「うん、そうだよ。首領はレベル、上がらないから。もしもの時に使うの、良いかなって」
成程、その為に態々こんなイベントに参加したのか。
「それから、お礼に丁度良い」
「お礼?」
「あの槍、良い子だった。凄く使い易い、だから、お礼」
「アレは素材も殆どお前が取ってきた物だろ。礼なんか必要ねえぞ」
どうやら痕巌老虎は大層お気に召したらしい。それなら作った甲斐があったと言う物だ。
とは言え、それはそれ。
「そう、でも、あげる」
「…そうか。まあ、それもお前が勝ってからの話だけどな」
「負けるつもり、無いから」
俺は既に貰い過ぎな気がするんだけど、これ以上施されたら…俺、貢がれ癖が染みついちゃうよ。
背筋に寒い物を感じ身体を震わせていると…チョンとBBは俺の服の袖を引く。
「首領。少し、屋台、見に行こ」
「ああ、良いぞ」
次いで、そんな提案をして来た。
特に断る理由もないから、二つ返事で承諾したが……八千代達に連絡でも入れておくか。
「どこから見て回る?」
「任せる」
「それが一番困るんだ」
ああ、俺が言えた事でもないな。
無表情ながら楽し気な様子のBBに手を引かれ、俺達は人混みの中に繰り出した。
☆
「お祭り、あんまり行った事、無いんだ」
「お前はリアルだと目立ちすぎる。マスクとサングラス常備でも六割バレるし」
「うん」
世界に羽ばたく歌姫は容姿も格段に優れている。
贔屓目抜きにしても、少し前に見たアイドルなどとは比較にならないレベルで優れている。
公式SNSは100万人オーバー。
世界中で人気を集めるのだから、そりゃあ市井に出れば直ぐ様正体が露見する。
「それに、クロノスでも、イベントは殆ど出れなかったし」
「それは、全く以て俺が悪いと言うか。うん、悪かった」
「良い。首領と皆と一緒に居る方が、楽しいし」
何も返す言葉が無いと、肩を縮こませる俺を見てBBは笑う。
「首領、あれ食べたい」
「おうどれだ、俺が何でも奢ってやるぞ。お前らのマニーだけどな」
我ながら最低な発言だとは重々承知している。
ああ、どんどんと俺にヒモ精神が見に付いているのかもしれない。
「気にし過ぎ、だよ。こう思えば良い、不労所得」
「止めろ止めろ。これ以上俺を堕落させない方が良いぞ。駄目人間になったらどうする」
「そうなったら、養うよ。セイちゃんも一緒に」
「何だそのパワー的解決方法」
「私は、出来るよ」
これが強者、稼ぐ者の貫禄と言う奴だろうか。
胸を張って「任せて」と続ける彼女に空恐ろしさを感じてしまう。
「止めとけよ、そんな一大スキャンダル。怖すぎて耐えられねえ、俺がな」
世界各地の歌姫ファンを敵に回すなんて……ちょっと面白そうじゃねえか。
「首領は、私を助けてくれた。だから、恩返し」
「さっきの事もそうだが、恩返しのスケールがデカすぎる」
「でも多分、女王も、計画してる、事」
「ちょっと待て、何だその計画」
「あ、ごめん。何でもないから、気にしないで」
「そこで止められると気にするよなぁ!?」
ウチのクラメンは度々突拍子も無い事を口にするが、今のは流石に聞き捨てならない。
流石に冗談だろう。
いや、待てよ。そう言えば、時たま女王から自分の会社に見学に来ないか、とか仮入社して見ないか、とか訳の分からない事を言われていたような気がする。
まさか、な。
「大丈夫、首領は、何も考えなくていい」
「思考の権利すらも許されない…?」
最早俺の扱いがヒモから愛玩動物にシフトしつつある。
首輪でも付けられそうな勢いだ、怖い。
「悪いが、まだ人間性と誇りと尊厳を捨てるつもりはないからな」
「うん、知ってる」
彼女はまるで悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべる。成程、どうやら俺は冗談を真に受けてしまったらしい。
「それより首領、あれ」
「ああ、直ぐに買って来るよ」
「待ってる」
近くのベンチに座るBBを見届けて、俺は彼女が指した露店に向かう。
「最近どうにも、俺のクラマスとしての沽券が脅かされている気がする」
気のせいかな、気のせいなら良いな。
すれ違う通行人を避けながら屋台の前に辿り着く。
長蛇…と言う訳でも無く、並べば数分も掛からないだろう列の最後尾に立つ。
「おっと……ん?」
『ああ、失礼』
その時だ。反対側から歩いて来た巨漢のプレイヤーと、身体がぶつかった。
白銀のフルアーマープレート、腰に差した細身の剣と背に負う大楯。何処からどう見ても騎士、兜越しに聞こえるくぐもった声から察するに割と俺と近い年齢。
装備から分かるのは、高レベルのプレイヤーと言う事。
そして、その胸元に彫刻された竜の紋章。
『折角のイベントなので、帝国から見物に来たのですが何分人が多い故、失礼を…………ん?』
フードを被っていたとは言え、間近だと顔が見える。
朗らかに笑っていたのだろう兜越しの声が、不意に止まり、徐々にその全身をワナワナと震わせ始めた。
『お前、いや貴様……ッ』
「すいません、人違いです。邪魔だから通してください」
どうしよう、凄い知ってる奴な気がする。
それはもう昔、散々煽り散らかして怨恨貯め込んでる系の匂いがプンプンする。
そもそも、どうしてコイツが此処に居るんだろう。
ああ、イベントの見物って言ってたね。
「それじゃあ、友人を待たせてるのでこれで───」
片手を上げて爽やかに退散。
しようと思ったのだが、後ろから伸びた大木の枝みたいな腕が肩に伸し掛かり、動きが止まる。
『─────寂しい事を言ってくれるじゃないか。俺がどれだけお前の事を探していたと思って居る。全くこんな所で遭遇できるなんて運が良いとしか言いようがない。お前もそう思うだろう……首狩道化』
「いやぁ、生憎俺には全身鎧で熱烈ラブコールをかましてくる知り合いなんて居た記憶がないと言うか、誰かと間違ってません?首狩?道化って何ですか。俺ちょっと分からない」
『釣れない事を言ってくれるな。折角の旧友との再会を祝ってくれても良いと思わないか。なあ、そうだろリク』
言葉は朗らか、しかし肩を掴む腕は力を増していく。
何か彼を怒らせるような事でもしただろうか。
「ああ、もしかして俺がアイドルの握手会でお前の名前を名乗ったのバレちゃった?ごめんって、ジーク君」
銀竜騎士団、『騎士団長』のジークフリート。
嘗て何度もボッコボコにした最前線の攻略組を率いる男が、今俺の目の前に居た。
お久しぶり、覚えてる人いる?




