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休日のある日4

入り口を抜ければ、そこは幾数の本が埋めく巨大な迷宮でした…そういえばこの国、迷宮があるんだったか。それでは語弊が出てしまう。


目に映る物全てが本棚の空間。

天井にはこれまた特大な水晶のシャンデリアが吊るされ、円を描くように本棚…そして、端には二階、三階へと登る階段が設置されている。


途方もない広さを誇る図書館だが、時間のせいだろうか人の気配は殆どしない。



「…ラジエルはいないみたいね」


「ラジエル?」


「ここの司書をしてる子なんだけど、どこかで作業でもしてるのかしら」



成程、流石に司書はいるのか。



「ちょっと近くを探してくるから、アンタは少し見て回ってて」


「許可も取らずに良いのか?」


「一階は市民でも閲覧できる場所だから大丈夫よ。それじゃあ行ってくるわ」



言うが早いか、手慣れた動きで本棚を突き抜けガブリエルは消えてしまう。ただ、見て回ってて…と言われたは良いが。



「広すぎて、どこがどの分野なのかサッパリなんだけど」


『マスターはどのような書物をお探しなのですか?』


「そりゃあ…なんだろうな?」



元々図書館を訪れたのも観光目的だったし、何か読みたい本がある訳ではない。

だが、折角の機会なんだから…何か読まなきゃ勿体ない気がする。

…精霊言語の辞典とか探してみようか、あの音の羅列に法則性があるのかは謎だが。ああ、精霊との契約方法を見つけるのも良さそう。



『マタ…数ヲ増ヤス…ノカ…主』


『マスターは節操無しですね』



別にそんなつもりはないが?

ただ精霊術、ちょっと面白そうじゃん。

時間は幾らでもあるんだ、面白そうな物は取り敢えず手を付けるべきだと俺は思うね。



「いざ探索…ってな」



膨大な書物の中を宝探しの気分になりながら外套のポケットに手を入れ、歩き出す。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



何て思ってる時期が俺にもありました。

先程見たような気がする本棚に手を突き、一人頭を悩ませる男がここにいます。



はい、迷いました。



「…幾ら何でも広すぎないか?」


『マスター、ここは数分前に通りました』



それをもっと早く言えよポンコツ。

八つ当たり混じりにラプラスの指輪を弾けば小さく綺麗な音がなる。

ここは何処…緑騎士は何処。周りを見回しても人影なんて一つもない。

完全に迷子の状態である…この歳で?


目的の精霊関係の書物も見つからない…なんでこんな所に純文学コースがあるの。

その一つ前は童話、その前は経営学。

ここは時代外れの古本屋か?

王国お家芸の精霊術はどこに行ってしまったんだ。



『単純に市民の権限では閲覧出来ない物なのでは?』


「…………」


『拗ねないで下さい、マスター』



ラプラスの最もな意見に言葉が出ず、再び指輪を弾く。まあ、そうだろう…俺も薄々感づいては居たとも。

国の重要な戦力を安易に公開するなんてあるはずないもんね…だから一回滅んだんだぞ王国。




ハア…。


どうしよう、虚無だ。

目当ての物も見つけられず、更には迷子になるなんて…クラマスとしての恥。こんな事を仲間達に知られる訳にはいかない。



「…羅刹丸、いる?」



返事はない。

ウインドウを開けば現在ログアウト中の表示…何とか面目は保たれた。

だが、どうやってここから抜け出せば良いのか。周囲には本棚ばかりが立ち並び…目印になるような物もない。


せめて棚に番号でも振っておいてくれねえかなあ!?



閑話休題。



いっその事一度島に戻るか…なんて考えていた時。不意に、視界の奥に人影が見えた。



「あ、人」



どうやら神は俺を見放していなかったらしい。その人影は台車のような物を引いてこちらに向かってくる。眼を凝らして見れば、台車の上には詰まれた本の山。


徐々に顔が見える距離まで来たが…女性らしい。薄いブラウンの髪は腰どころか地面に引きずるように長く…リボンを胸元にあしらった清楚な様相。



「……?」



どうやら相手もこちらに気が付いたようだ。

寝ぼけ眼のようなとろんとした瞳で俺の方を向き、小首を傾げている。



「驚愕。予想外の展開です」



何かに驚いたように俺を見るNPC。

服装と台車の本から察するに、彼女が緑騎士の言っていた司書…かな?



「疑問。アナタはここで何をしているのですか…異邦人」



不思議な喋り方をする彼女は、不思議そうに俺に問いかけて来た。何をしている…そうだな、ここは恥を忍んで素直に答えた方が賢明か。



「道に、迷った」


「…疑問。それは文学的な…人生と言う道に、でしょうか」


「いや、物理的に道に迷った」



とても変なNPCだ。

なんだ人生の道って。おっとり…いや、天然なのかもしれない。

取り敢えず今は猫の手も借りたい状況…一通り司書らしきNPCにここまでの説明をする。



「納得。状況は理解しました。

ならば、着いて来て下さい…異邦人」


「…案内してくれるのか?」


「肯定。困っている者に手を貸すのも…此れの務めです」


訂正しよう、とても親切なNPCだった。

手招きして近くに来るように促す彼女の元へ歩を進める。


近くで見れば良く分かる…何がとは言わないが、今までのNPCと比較にならない程の絶景の持ち主だ。

このレベル…俺は女王しか知らない。



「疑問。今…不躾な視線を感じました」


「気のせいだ、気にしないでくれ」



危ない危ない、視線が分かり易過ぎた。

折角案内してくれる相手の不況を買う所だった…半眼で俺を見る司書殿に肩を竦めて答える。



「それじゃあ、悪いが道案内を頼む」


「肯定。行きましょうか」



台車を押しながら歩き出す司書に続く。

どうでも良い事だけど…髪はそのままで良いの?埃付かない?



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― 新着の感想 ―
[一言] ほんと女性って視線と思考だけで鋭い事言ってくるからね… エスパーかっ!
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