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休日のある日3

仕事がね、仕事が仕事で、仕事だったの。

不思議な人だと思う。

王国を救った英雄、そして私を生き返らせた彼に対する評価。


人相は悪いが、話をすれば案外普通で…少し意地悪いけどどこにでも居そうな人。

かと思えば、歴戦の兵を彷彿とさせる戦気を纏ったり、ディニア様に対して縮こまるように話を逸らす様だったり。

色々とチグハグ。

まるで…そう、彼の仲間が言っていたように雑技団の道化師を見ているような。



指に嵌めた複数の装飾品を弄ったり、手の前で透明な板を出して唸ったり。

今も横を歩きながら呆けている姿をみれば、彼が王国を救った者とは到底思えない。


それに、時節違和感を感じる時がある。


それは例えば。



「精霊騎士様。今日も見回りでしょうか?」


「いいえ、今はこの人に王国を案内していたの」



話しかけて来る街の人達。

皆笑顔で私を見れば声を掛けてくれるのだが…彼らに対する反応。



「おや、そちらの方は…」


「気にしないでくれ。

悪いが先を急いでるんだ」


「これは、失礼を」



この目だ。

どこか虚空を見るように、或いは興味のない物に向けるような何の感情の色もない目。

話をする気など毛頭ない、と言う様に淡々と会話を拒否している。


…きっと、彼は本当に興味がないんだろう。




そうかと思えば。



「あ、騎士様!その人誰?恋人!?」


「なんだ、王国にも随分なマセガキが居るじゃねえか」


「マセガキってなに?あ、頭揺らさないでぇ!」


「ほら英雄様だぞ、敬えマセガキ」


「英雄!?すげぇ!!」



子供達には割と好意的?

今も男の子の頭を鷲掴み、嗜虐的な笑みを浮かべて、左右に回して遊んでいる。

そもそも彼がこの国の英雄だと言う事は王城の者達しか知らないから、余り言いふらさないで欲しいのだが。

…まあ、あの子達は分かって無さそうだしいっか。


子供達と別れた後、彼は目を細めて言う。



「子供は苦手だ」


「嘘でしょ!?」



彼を観察していると、何かを掴めそうで全然掴めない。シルフィアも懐いているし悪い人ではないのだろうけど。


溜息を付いて、もう一度彼の方を見れば…またのほほんとした顔をしている。



「溜息を付けば幸運が逃げるぞガビー」


「だからガビー言うな!」



これである。揶揄う様に笑みを浮かべ、私の反応を楽しんでいるのか。

別に嫌な気はしないが、ディニア様以外からそう呼ばれるのは少し照れくさい。



「そうだ。少し時間もあるから、軽く図書館の事を説明するわ」


「説明?」



不思議と熱くなる頬を隠しながら、彼の反応を待たずに話を始める。

少しでも早く、この火照りを収めるように。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





目的地、王立図書館への道中。

暇を持て余すのもあれだろうという緑騎士の好意により図書館の雑学を説明された。



「アルファシアの建国からずっと、王立図書館はその姿を変えていないの。改修も何も成されず、老朽化する事も無く保ち続ける太古の産物。建築技術も不明らしいわ」


「太古の産物か」



…幾らゲームの中とは言え、一度も朽ちる事のない建物なんてあるのか?

死神とか嬉々として壊しそうだけど…それを口にすれば緑騎士は少し嫌そうな顔をしながら答える。



「どうなのかしら、あの時は状況が悪かったから確認していなかったけど…まあ、王都も戻ったんだし不朽で良いんじゃない?」



割とアバウト。

まあ、今持ち出す話ではなかったな…多少反省しよう。多少。

街を歩く最中、緑騎士は多くの注目を集めている。子供、老人、衛兵…皆一様に好意的な目を向け時には話しかける者もいる。

…そのせいで必然的に俺の存在も気付かれるのだが。



「アンタ、子供には結構優しいのね」


「誰にでも物腰柔らかな青年だと自負してるが?」


「そう?だって、他の人を見てる時のアンタって…」



なんでそこで押し黙る。

なんだその…言っちゃダメだった?みたいな反応。酷い誤解を受けている気がする。

別に普段通りのNPCへの反応…特に変える必要もないんだし何か違和感でもあったか。



「まあ良いわ、ほらそろそろ着くわよ」



とても下手糞に話を切り上げ、緑騎士は正面を指差す。その先を目で追えば…王都の中央部…やや外れ側に聳える巨大な建造物。



「…あれ、図書館なのか」


「凄く大きいでしょ?」



大きいと言うか、都市部のマンモス校一つ分位ありそうな面積と言うか…本当に全部図書館?



「一体何冊保管されてるんだよ」


「数百、数千…階級によって見られる物も変わるけど、合計で…約700万冊だったかしら」


「700万」



月見大福、お前の新しい遊び場が見つかったぞ。いや…もしかしたらもう既に発見してるかもしれないけど。


二度も王都を訪れているはずなのに気が付かなかったのは立地故か。

余りの衝撃に言葉を失っていると悪戯が成功したような顔の緑騎士が笑う。



「驚いてくれて良かった。

入り口はこっちだから、閉じちゃう前に早く行くわよ」



確かに、既に日は傾いてきている。

光を帯びる街灯と僅かに照らされた道を見ながら、先行する緑騎士の後を追う。



夕陽に照らされ、趣を感じる荘厳な大図書館が…静かに俺を出迎えた。




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