ベッド作成
トンテンカン トンテンカン
木の板叩いてトンテンカン。
どうもリクです。寂れた街を見つけてから早数日。
『作成』スキルを取り、取り敢えずベッドだけでも拵えたいという俺の熱い希望に答えてスペシャルゲストを迎えております。
「何を黄昏てるんじゃ首領」
「今解説モドキ入れてるんだから入ってくるなよゴドー」
「また訳の分からない事言ってるよ」
俺の目の前にいる大男はゴドー2号。我がCCのメンバーの一人でドワーフになった男。ドワーフって小さいイメージあるんだけど、なんでデカいの?ああ、ハーフドワーフ?ごめん。
そしてもう一人。部屋の本棚で本を物色しながら茶々を入れてくる糸目の金髪。まあお察しの通り月見大福だ。
今日は配信は付けずにゴドーを呼んでベッド作りに精を出してるのであった。
「突然『ベッド欲しいから監督になって』とメッセージが飛んできた時は驚いたわい」
「だってゴドー結構ログイン不定期じゃん。リアルで時間が合わないんだっけ?」
「うむ、一般的な職業ではないからのう」
顎鬚を撫でながらホッホッホと笑うゴドー。
まああるよね、そういう事も。八千代なんてヤのつく所のお嬢様って噂あるし、女王に至っては普通にお嬢様だし。このクラン濃いヤツ多くない?
トンテンカンと作業をする俺のフードの中では白玉が寝ている。一日目は興味深そうに集中してみていたが、最近は飽きたのか昼寝の時間が多い。
「そういえばリク。二つ目の街が解放されたみたいだよ」
「ああ、掲示板で見た」
損傷の酷い本のページを捲りながら月見大福が告げる。
『風の都アルトメルン』だったかな。ここ二日前に発見された街。
とは言っても俺はそもそも『始まりの都』すら満足に観光していない、なんなら初期レベルだし。今は開拓に専念しているし正直素材は足りている。
いや、なんでアイツら毎日毎日素材を抱えて俺の島に置いて帰るんだろう。それ街売りすればお金稼げるじゃんといってもなあなあで流されてしまう。
刃狼に至っては配信する度に50000マニーをポイポイ投げてくるせいで現在の所持金は90万オーバー。
「貰っといて損はないし良いんじゃない?」
「うむ、儂らも好きでやってるんじゃからな」
「好きで姫プせんでもよくない…?」
「まあ恩返しってのもあるんだろうねぇ」
月見大福がニコニコ笑いながらそう答える。
恩返しね、昔なんかいらない事をくっちゃべって色んな所に迷惑を掛けただけだと思うんだけど。何に恩を感じるんだ。
頭の中?マーク乱立である。
その様子を見て二人は笑みを深くする。マジで分からん。
「貰える物は貰っておけ。何に使うにしてもお主の自由じゃ」
「折角だし鍛冶とかに手を出してみても良いんじゃない?ほら、この島にも使われてない鍛冶台があったし」
「あ、いいかもそれ」
本職じゃないから期待は出来ないが、良い武器が出来たら皆に渡すのも有りだな。
そんなこんなをしているうちにベッドの造形が完成へと近づいていく。
ここまで長かった。自動作成ってのもあったけど流石にベッドはないし手動作成になってしまい、今では大工スキルが3になっている。作成が一番スキルレベル高いんだわ。
トンテンカン、トンテンカン
最後の仕上げとばかりに気合を入れて臨むと、遂に電子音声が鳴り響いた。
《アイテム『簡素なベッド』の作成に成功しました》
《『作成』スキルのレベルが上昇しました》
《派生スキル『作成【家具】』が解放されました》
「よっしゃあぁぁあぁぁぁぁぁ」
「キュキュ!?」
簡素は余計だ、簡素は!
電子音声に全力でツッコミを入れたい衝動に駆られていると白玉が目を覚ます。
見ろ白玉、これが俺達の新しいベッドだ。
「キュキュー」
俺の肩を伝いベッドに足を踏み入れる白玉。
大丈夫だ、素材はマジックバードの羽毛をギッシリ詰め込んでる。ベッド作り出してから皆が異常に羽毛送ってきたから。
ポスポスと心地を確かめる白玉は職人のような目でベッドを見回した後、ポスリと身を丸めて寝始めた。
「キュ…」
「お気に召したみたいだね」
「良かったのう首領」
相棒が居心地良さそうに寝ている姿に俺達3人は和んだ。やっぱもふもふ小動物は世界を救うんだね。
白玉とベッドの組み合わせをスクショし、俺はクランチャットに張り付けた。
《祝・ベッド完成【リク】》
《おめでとう!【八千代】》
《めでてぇ【蛮刀斎】》
《そこに首領も混ざって【BB】》
《BB私欲が駄々洩れだぞ【凱歌】》
etc…。
これだよこれ、俺がやりたかったスローライフってこういうもんなんだよ。
いきなり神の眷属とか出てくるなんて全然スローじゃないからな。え、眷属?そこのベッドで惰眠を貪ってるよ。
取り敢えずこの埃だらけのベッドは撤去したいんだけどどうしよう。あ、これアイテムボックスに入るんだ。撤去不能ではないのね。
撤去した箇所にゴドーが新ベッドを移動させている間に俺は月見大福に声を掛ける。
「それで月見大福、なんか面白い事でもあった?」
「先程からずっと書物に目を通しておるな」
「それがサッパリ。かなり劣化が激しいから文字なんてあって無いような物だし」
首を左右に振りながらお手上げとばかりに溜息をつく月見大福。
「ああ、でも一つだけ興味深いところがあった」
「へぇ?」
「なんじゃ?」
「ここのページなんだけど、何とか文字を割り出して読むことが出来たんだけどさ。
色災っていうのは三体いるらしいよ」
ここ、ここと言いながら指差しているが全く読めない。てか文字割り出すってどうやるんだよ。
「天を焼く紅、大地を呑む蒼、星を侵す翠。この三つが件の色災なんだってさ」
「随分とスケールの大きな話じゃのう」
「この世界の裏設定みたいなもんなのかね」
もしくはレイドモンスターの情報とか?まあ、そもそもレベルを上げなきゃレイドなんて関係のない話だけど。
「でも、断片的にこういう物が出てくるって面白い世界だよね」
「設定としてはクロノスとは別の星、なんだっけ?」
事前にサイトで公表されていた情報だったか。
その割にはステータスやらスキルやらは同じだけど、まあそれはゲームだしな。メタ視点ダメ絶対。
「そうだね。種族や操作はあっちと同じだけど、モンスターとかは完全に別物だから攻略組は苦労してたし」
「生産職の連中は大喜びだったがのう。知らぬ素材を触れる事が嬉しいのだろうが」
なんだろう、同じゲームなのに下界を見下ろす神のような気分だ。ぶっちゃけ他のプレイヤーより二回り位遅れているが。
「さてと、リクのベッドも完成したし今日はお開きにしようか」
「うむ、時間も頃合い。儂も新しい装備を作りたい」
「素材持ってく?刃狼達が今の狩場で大量に牙鮫狩ってるせいで在庫が凄いんだよ」
「おお、新素材か。ではいくつか貰って行くかの」
「出来た装備は皆に送って。料金は俺が払うから」
「素材が入るのならば安くするぞい」
「ある意味流通が回ってる…」
月見大福が引きつった笑いをしている。
でもほら、ずっと貰ってばっかりだと悪いし。
ゴドーのスキル上げと仲間たちの戦力強化が同時に出来るんだ。やらなきゃ勿体ないだろう。
アイテムボックスから素材を何点かゴドーに渡す。
「じゃあ頼んだよ」
「承った」
「こういう所で好感度稼ぐんだろうね」
何言ってんだコイツ?