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休日のある日2

諸君、聖晶石の貯蔵は充分か?

「そんで、食べ疲れて寝ちまった」


「道理で呼んでも来ないと思ったら…」


「貴公、済まない」



現在地、王城の応接間。

あの後熟睡した精霊を腕に乗せて、持ち主へ返品する為に訪れたのだが、まさかこんな短期間でまた来ることになるとは思わなかったね。



「なあ、精霊には魔力を辿った追跡とか出来るのか?」


「…元より精霊は六神の残滓が命を宿した存在と言われている。

そのせいか、魔力には人一倍敏感なのだ」


「契約者の同意もなく、一方的に誰かの所に行くなんて今まで一度も無かったけどね」



成程、六神…バルカンの同族か。

そこら辺の知識はまるで無いのでどうでも良いが、来訪者として登録されたのなら…また来る可能性がある…?



「もし精霊について知識を得たいのなら、王立図書館に寄ってみると良い。古い文献なども多くある。私が話を通しておこう」


「いや、別にそこまでは…」



そういう知識系は月見大福とセイちゃんが何とかしてくれるし。

丁重にお断りをしようと口を開き…。



「大陸でも屈指の蔵書量を誇るって、結構有名なのよ。図書館自体も古くから姿を変えず残る王国の遺産なんて呼ばれてるの。

王国に来たのなら一度は観光するべき場所ね」


「急に早口になったなガビー」


「ガビーって呼ぶな!」



いや、何とも弄りがいのある反応を返してくれるから…つい口が言う事を聞かずに。

ただそうか…観光名所。

確かにスローライフには欠かせない物と言えば名所巡り。別に本を読まなくてもその独特の空気を感じるには良いのかもしれない。



「…ちょっと行ってみるか」


「では連絡をしておこう。だが、今からだと二の刻程しか滞在できないが…日を改めるか?」


「観光目的だし、そんな長居はしねえさ」


「なら私が案内するわ!」



とんとん拍子に話が進む。

でも良かった…これで後日、なんて言ったらいつの間にか忘れてしまうかもしれない。


ソファから立ち上がり、支度をする…が。



「あら、もう行かれるのですか?」



扉の先に笑顔で立つ姫様が一人。



「あー、よう姫様。

眼の下の隈が取れたけど、元気?」


「ええ、最近は良く眠れるようになりましたので…元気ですよ?」



それは何よりなんだけど、なんか笑顔に力が入ってない?無言の圧と言うか、熊と遭遇した時を連想する程の圧迫感と言うか。


…あれ、何かやらかしたっけ?



「ディニア様、どうされたのですか?」


「いいえミカ。何でも英雄殿が登城したと、お父様から話を聞いたのですが…」



柔らかに赤騎士に微笑み喋っている姫様だが、視線をこちらに向けると再び重圧。

良く見れば、いつだったか月見大福が手土産に持って行った宝石を身に着けている。

首飾りとは随分と洒落たアクセサリーじゃないか。



「私の元には挨拶はないのですか?」


「…コレカラシヨウトシテマシタヨ?」


「ですが、出支度は整っているようですね」



それかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


ああ、これ熊じゃねえ。

ブチ切れた守護天使と同じ感じだ…え、なんで?笑顔を取り繕いながら、次の選択肢を模索する…がそれより早く姫様が近くまで寄り、一言。



「お友達に、挨拶はないのですか?」


「…ご機嫌麗しゅう、ディニア王女」



それ秘密にしようって言ったよな!?

いや、あくまで取引を秘密にするだけで…友人関係自体は…あれ、言ってない?



「英雄殿も、壮健そうで何よりです」



お前のせいで絶賛壮健からは程遠い事になってるが?選択肢ミスれば不味いか?



「おや、ディニア王女は彼と友人になられたのですか?」


「ええ。月夜の晩に…そうですよね?」


「全く以てその通り…です」



不味いわ、何かの拍子に姫様から金貰ってお友達関係してるなんて漏れれば…色々不味い。上がってるかもしれない好感度が暴落する。


さてどうした物か…どれが正解だ。



「…ふふっ、そんな顔をなさらないで下さい。ちょっとした悪戯ですから」


「…顔に出てたか?」


「私、王女ですので」



戦闘と同じ…いやそれ以上に思考を加速させ言葉を掛けようとする前に姫様が口を開く。



「ごめんなさいミカ、私の要件は終わりました。ガビー、英雄殿の案内はお願いしますね?」


「お任せください!」



難を…逃れた?

そもそも…コイツは俺で遊んでいた?

屈辱だ、これだからNPCだろうが権力者は嫌いなんだ。笑顔はそのままに、内に秘める黒い炎に身をやつしていると…姫様は声を潜めて、周りに聞こえないように。



「お返しです」



そう言った。



「…覚えてろ、次は泣かす」


「まあ、恐ろしい方」



俺の呪言を聞きながらも、楽し気に言葉を返す様は、いつかのルディウス王を思い起こさせる。最初の邂逅ではかなり精神を擦り減らしていたのだろう、これがコイツの素か。

どうして俺はいつも外ればかりを引くんだ。


フワリとドレスを翻し扉へ向かう姫様を全力で睨み付ける。俺との取引を信じているのか、その顔に警戒の色はない。



「それでは英雄殿。また今度、お話しましょうね?」


「とっておきの話を聞かせてやるよ」


「楽しみにしていますよ」


「ああ、それから…首飾り似合ってるな」



一瞬、ほんの一瞬だけ顔を紅くし姫様は笑う。誰でも自分の小物を褒められれば嬉しくない訳がない。

些細な好感度調整だ。



「ありがとうございます、大切にしますね」


「気にするな」



小さく手を振り部屋を出た後、全身の力を抜き息を吐く。

…王国怖いよぉ。



「驚いた。ディニア様があんなに心を開いているとは…貴公、何をしたのだ」


「…心、開いてるの?あれで?」


「当たり前でしょ、ディニア様があんなに誰かと長話をする事なんて稀よ?」



嘘だろ…完全に詰めに来てただろ。

あんな詰め方されて心開いてるとか言われるの…嫌だよ俺。



「だが、安心した。

ディニア様は貴公をずっと恐れていたからな、仲が良好になったのは良い事だ」


「それを本人の前で言うか」


「過去の話だから良いだろう」



いや、もう本人から聞いたから特に感傷もないんだけどさ…配慮は無いの?



「では私は王立図書館に送る文を用意しよう。貴公とガブリエルは先に行っていてくれ」


「はいはい、それじゃ行きましょ英雄殿」


「案内は任せたガビー」


「だから、ガビー呼びは止めなさいよ!」



お前も英雄呼びするなら御相子じゃん。

キリキリと痛む胃を抑え、精神安定剤替わりに緑騎士を揶揄いながら…俺は王立図書館へと向かった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 精霊ちゃんズ好き! 赤緑以外も青とか黄とかいそうですよね みてみたいです [一言] 石は3000ちょっとあります
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