休日のある日
タイトル付けがね、思い浮かばないの。
銀竜騎士団による帝国踏破、道化達による聖国踏破、そして王国の解放と目まぐるしく映り替わるアルテマ・オンライン。だが現在、市井を賑わす一番の話題は別にある。
『第一弾アップデートの実装』
レベルキャップの実装がなかったのは、そもそも上限に達するプレイヤーが少ない事が理由だろう…とは月見大福の談。
後はイベントだったり、アズマへの渡航経路の確保だったりと大忙し。
…大丈夫?朱雀バレない?
とは言え、現状俺が手を出す要素はない。
アズマ?度々送られて来る爺さんからの桜玉のスクショ催促やらオニユリからの本の催促やらで、殆どお隣さん感覚で連絡取ってるわ。
PvP?クロノスで飽きる程やったわ。
まあ、観戦くらいは良いかもね。
そんなこんなで、特に食指も動かず現状維持。
とは言え、今日は休日。
折角なので休日らしい事をしよう。
「そして、こうなるのか」
「ミュー」
「キュウ」
「グルァ」
島の中央にある平原。
所々台地となっているので寝転がるには最適だ。
頭を翠玉の腹へ、俺の腹には白玉が、今日は珍しく桜玉も一緒に寝転がってる。
『怠惰ですね、マスター』
「主よ…怠惰は…良くない」
ついでとばかりにラプラスを天日干しにしていたら、いつの間にか紫玉がその上に座り握り飯をモグつかせている。
誰が怠惰だ、こっちは度重なる胃痛のせいで常に休憩を欲してるんだよ。
原因お前らだよ?もう少し所有者労わろう?
奇しくも召喚獣…一部何か違う物だが揃ってしまった。思えば仲間達を含めて随分大所帯になったと感じる。
最初は俺だけで開拓ライフをエンジョイするんだと息巻いていたが、街が生まれて仲間達が移り住み、コイツ等やハルカまで参戦。
賑やかなのは嫌いじゃないが、こんなに増えるとは予想外だ。
「平和だなぁ…」
平和って素晴らしい。
ゲームの中だとしても、風を感じて太陽を感じて、何事もなく無為に時間を浪費し精神を落ち着かせる事のなんと贅沢な事か。
このまま何事もなく、ただ自堕落に穏やかなまま…。
「キュ?」
ねえ白玉、それフラグ。
ピンッと耳を伸ばし、明後日の方向を向く白玉…何事だろうかと同じ方向を見る。
…うん、何かいるね。
しかも猛スピードでこっちに接近して来てる。徐々に近付く者の色が見えた。
二体いる…赤と緑。
「…なあ、なんか凄い見覚えあるんだけど」
デジャヴはこれで何度目だろうか。
どうしてこんなに繰り返されるのだろうか。
普通こういうのは二回で終わると相場が決まっているはずだろう。
…アイツら、騎士達の精霊だよね?
『ーー!ーーー!』
『ーーーー!!』
「何でいるの、お前ら」
俺の前で急停止し、赤い方は恐る恐る…緑の方は全力で顔を胸元にくっ付けてくる。
《複数の来訪者の達成により情報が更新されました》
《報酬を獲得しました》
急に流れる久方ぶりのアナウンス。
最早死んだ目でログを確認すると、手元にポンッと音を立てて…一冊の本が出現する。
『来訪者記簿』
マイルームに来訪したNPCを記す記帳。
現在登録された来訪者の友好度が確認できます。
…成程、分からん。
いや、言いたい事は分かるけど…なんで今このタイミングで?
一先ず中を確認してみれば、其処には5つの名前が記されていた。
『ハルカ・モチヅキ』【友好度『89』】
緋桜龍の使命により『桜玉』の世話役を任され島に来訪した。
彼女は貴方に強い親愛を抱いている。
『龍魚ウシオ』【友好度『63』】
亜神ワタツミの水鏡を通り島に来訪した。
彼女は貴方に敬意を抱いている。
『ダリル』【友好度『81』】
古き盟友の助言に従い蒼空を駆け島に来訪した。
彼は貴方に友愛を抱いている。
『火精霊フラメル』【友好度『73』】
魔力の痕跡を辿り島を来訪した。
彼女は貴方に親愛を抱いている。
『風精霊シルフィア』【友好度『82』】
魔力の痕跡を辿り島を来訪した。
彼女は貴方に強い親愛を抱いている。
予想外の便利機能。
これ一冊で島に居るNPCの好感度…もとい友好度を確認する事が出来ると。何がトリガーとなって解放されたのかは知らないが、良い物だ。
あと、龍魚…お前名前があったのか。
「で、魔力の痕跡を辿りって…何?」
『ーー!ーー!!』
『ーーーー♪』
取り敢えず一番肝心の疑問を口にする。
うん、人の胸元を指差して何かを言ってるが全く分からん。せめて日本語…人間の言語を使用して貰えません?
「人の言葉、分かる?」
『ー?ーー♪』
『ーーーー?』
駄目だこりゃ。
身振り手振りで伝えてみるが、一方通行の意思疎通。誰か助けてくれ。
保護者はいないのか…居たら別の意味で困るから却下。
「お前らの中で精霊の言葉を翻訳できる奴とか…居る訳ないか」
「ミュー」
「キュウ?」
「グル」
そういや、お前らとも会話はしてなかったな。全部鳴き声だし。
良いんだ…そんな残念そうな顔をしないでくれ。ならせめて会話が成立するそこの二体、お前らはどうよ。
『不可能です、マスター。
現在当機の翻訳機能は正常に稼働していません』
「そもそも…我…骨」
我関せずと言わんばかりに只管握り飯を喰らう骨少女にポンコツ棺桶。
コイツ等…使えねえ。
『扱いの差を感じます、訂正して下さい』
「精霊言語は…精霊が契約した者に…直接教えると…我の一部が…言っている」
「ナイス情報だ骨、お漬物食べる?」
「うむ…良きに…計らえ」
紫玉プラス一点ゲット。壺ごと放り投げて渡すと器用に蓋を開き手掴みで食べ始める。
行儀が悪い。
しかし、そうか契約…契約か。
よし、諦めよう。
コイツ等には本来の契約者が居る訳だし、下手に何かをして面倒事に発展するとか御免だし、俺は考えるのを止めた。
一つ頷き、二体の精霊に目を向ける。
どうしたの?と言う様な表情で俺を見る精霊、何となく餌付けしたくなってくるな。
「菓子でも食うか?」
『!!』
『ーー♪』
凄い良い反応。
パタパタと周りを飛び回り催促をしているように感じるが…おい緑色、人の髪を引っ張るな。控えめに服を引く赤いのを見習え。
さて、何か丁度良い物あったっけ。
…十六夜が少し前に作ったクッキーがまだ残ってたな。小人サイズだしクッキーなら食いやすいだろう。
アイテムボックスを開き、目当ての物を取り出す。中央に苺のジャムを乗せた見た目も鮮やかな一品。
一枚では大きいだろうから半分に割り、片方ずつ差し出てやると、精霊たちは勢い良く口に詰め込み始めた。
「喉、詰まらせるなよ」
『ーー♪』
『ーー!』
力強く頷いてはいるが、勢いは止まる事を知らず無くなった傍から俺に手を差し出してくる。
「食い意地が…張って…いるな」
「お前には負けるよ」
すっからかんになった壺を渡しながら何を言ってるんだ。かなりの重量だったはずなのにどうやって完食するんだよ。
「我…飢餓…なれば」
「まあ、良いけどさ」
増え続ける魔魚の消費で役に立ってるから文句は言えない。カンペイと十六夜はキャッチ&リリースをしない主義らしい。
そのせいか、最近は現実で魚を捌く時も熟練者顔負けのテクニックを披露する羽目になった。あの時のセイちゃんの、何とも言えない微妙な表情と来たら。
継続は力なり…か。
「グルァ」
「キュキュ!」
「…お前らも欲しいの?」
いつの間にか目覚めていた桜玉。
そして続くように白玉が菓子を寄越せと強請ってくる。
ポケ〇ンブリーダーは大忙し。
まあ、偶にはこういうのも良いだろう。
平和なのは良い事だ。
「しょうがない奴らだな、翠玉」
「ミューン」
『顔が緩んでいますよ、マスター』
そんな事ねえよ。
菓子を食べる小動物を眺めながら、俺の髪で遊ぶ翠玉を撫でる。
…あれ、何か忘れてる?