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何処かで見たテスト3

俺は普通のサラリーマン。

日々積み重なる仕事の山に埋もれるだけの社会の歯車…なんて恰好が良すぎるな。


淡々と仕事を熟し、帰ったら好きなマンガを読む、そんな詰まらない人生の中で思った事。


──刺激的な事がしたい。


現実では決して出来ないような事。

例えば盗賊、暗殺者なんてのも良い。


鬱屈とした日々を変えるような、そんな出来事が欲しい。


そんな時に、目にした物がクロノス・オンラインだった。広い世界の中で自由を謳歌する…そんな謳い文句のゲーム。

この中でなら俺は、もっと刺激に溢れた生活が送れるんじゃないか。




躊躇う事は無かった。

直ぐに購入し、別の世界の自分を作り上げる。


大柄で、濃い髭を生やし、人相も悪くして…俺が好きだった漫画の敵をイメージした。

名前もその漫画から参考にして付けた。


ヴァロット・キング。


その名と共に、俺は所謂ロールプレイと言う物に手を出した。

PK…そして略奪。


どうにも、俺にはVRMMOが良く馴染んだらしい。クランを作り、同好の仲間にも出逢い…時には騒ぎながら、時には乱暴を。



そんな時に、あの男と出会った。



『お前がここら辺で幅を利かせてるキャロット・キングってヤツ?随分可愛い名前だから分からなかったわ』


『リク、ヴァロットだよ』



開口一番に人を小馬鹿にしたように笑いそう口にする赤文字の男は、



『…誰だテメェ』


『俺はリク、早速で悪いんだけどさ』



お前ら、全員潰すよ。

近くのクラメンを斬り伏せながら、そう宣った。




そこから始まったのは、蹂躙。

40そこそこいたクラメンが次々と、たったの4人に討たれ…ロストする。


首を刎ね飛ばされる者、回復の出来ない状態異常で倒れる者、大剣を振り両断される者、欠損手前を甚振られる者。


数分にも満たない僅かな時間の中で、蛮族は…崩壊した。



『クソがっ…テメェら、何のつもりだ!』


『名前でも上げようと思って。

チマチマPKするよりも効率が良いだろ?』



効率、ただその為だけに狩る。

蛮族の仲間は既に消え、足を落とされのたうつ俺に男は、回復薬を掛ける。



『どうした、まだ腕はあるだろ?』



顔を踏みつけられ、腹を蹴られ…虫で遊ぶ子供のように無邪気に笑う。



『…ッ』


『ああ、良い。

その顔、最高に無様で良い』


『首領、遊び過ぎですわ』


『分かってる、直ぐに終わらせるさ』



後ろの女から声を掛けられ、男は返事を返し…俺は腕を切り落とされる。



『があ…!』


『なあ、最高の悪役になるには何が必要だと思う?』



世間話でも始めるように軽やかに喋り出す。



『生粋のエンタメ力、圧倒的な支配、プレイヤー、NPC問わず潰して回る残虐さ。

どれも理解できる、だが…足りないと思わないか?』


『……悪役?』


『俺が一番カッコいい悪役は、やっぱり強い奴に狙われるような、喧嘩を売るような悪役だ』



歌う様に、或いは謳う様に。

自身の中にある悪役とは何かと語る。



『ただ、そういう連中は攻略にお熱だろ。

だから思ったんだよ、俺達が、連中が無視できないような癌になれば良いって。

それって最高に、楽しそうじゃないか?』



破綻した理論、最初の語りを全て崩壊させるような跳び抜けた考え。

だが…俺はそれに、確かにカッコいいと思ってしまった。



『その為に、お前らは目障りだったんだよ。

PKで名を上げるのは、俺達だけで充分だ』



だから、まずは名の知れた赤文字を潰す。



『そんな訳だから、お疲れ』



何故、彼が俺にそんな事を言ったのかは分からない。ただ…そう語る男の眼は輝いていた。


それから男、首狩道化とクレイジー・キラークラウンは確かに他プレイヤーにとっての癌となった。


プレイヤーだけではない、あの動かない運営でさえも彼らの暴走に屈した。


ああ、確かにカッコいい。

悪役ロールにはこれ以上無いほどの成果を上げた彼らは格好いい。





そんな憧れは、アルテマのコンバートと共に姿を消した。

古参は引退したと笑う者や惜しむ者も多くいたが、そんな事はない。


首狩道化の仲間は未だ現役。

彼らは今、攻略に回っていると聞いたが…あの男の輝きを間近で見る者達が、あの男が引退したからと鞍替えするとは思えない。



なら俺は、またここでつまらないPKをしよう。新規狩りでもすれば噂は直ぐに広まる。


あの男が再び姿を現すまで、俺達は悪行を重ねよう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「………なんだって?」



爆心地に姿を現して、良い感じの台詞を言ってみたら何故か平伏された。

何を言っているか分からないだろう、俺も分からない。



『周囲に伏兵はいません、マスター』


『気配…ナシ』



紫玉とラプラスの報告を聞き、警戒を緩める。今の所、目の前の連中からは敵意は感じない…それどころか、



「アンタを、待っていた。

アンタが引退するはずがないと思っていた」


「良かったな、頭!」



何だこいつ等気持ち悪い。

今にも泣き出しそうな盗賊王くんと、背を叩く男。

どうすればいいかと、言葉を探していると、盗賊王くんは俺の頭上を見て固まった。



「首狩道化のリク、アンタ…赤文字じゃねえのか」


「PK稼業は止めにしたんだよ」


「なんだと!?」



大口を開いて、驚きの声を上げた。

余程ショックだったのだろう、金魚のように口をパクパクと動かし震えている。



「そんな、アンタ程の人がどうして!」


「…………」



前に乗り出し、声を荒げる盗賊王くんの首元に毒小剣を滑らせ、動きを止める。



「分からないか?」



ニヒルに笑い、盗賊王くんに問いを返す。

どうしてと言われても、飽きたからなんだけど…そんな事を態々コイツに教える義理はない、適当にはぐらかそう。



「お前はさっき、俺の配下になりたいって言ってたな。俺は、俺の考えを理解出来る奴しか背中を任せる気はない」


《首領の考えってなんだぁ?【HaYaSE】》


《行き当たりばったり?【八千代】》


《なるようになれ精神じゃな【ゴドー2号】》


《暴力?【BB】》



おかしいぞ、仲間達から散々な事を言われてる気がする。

垂れそうになる冷や汗を押し留め、盗賊王くんを見た。



「──まさか」



熟考の末に、口を開く彼は…驚愕と歓喜、二種類の表情を合わせたような顔で俺を見ている。



「PKなんざ目じゃねえ程のデケェ戦を、戦争を引き起こすつもりか」



コイツは、一体何を言っているんだろう。

心底納得した様子で間違った回答をする盗賊王くんに顔が引きつる。



「聖国踏破はその足掛かり、王国で死神を打ち取って、先んじて邪魔者を排除したんだろう!」


《的外れで草【凱歌】》



大分想像力豊かだな。と言うか、それなら善意で王国を救ったとか思わないの?

否定しようにも、止まる事なく俺を持ち上げ続ける盗賊王くん…段々面倒臭くなってきた。


よし、狩ろう。


手に持った得物に力を込め、気付く様子のない連中の首を静かに刈り取ろうと、



「ちょっと待って、リク」


「あ?」



不意に背後から聞こえた声に動きを止める。

どうしてここにいるのか、振り向けば森の中から男が姿を現す。



「月見大福」


「月見、ッ…死の商人まで来たのか!?」


「すげぇよお頭、俺ら今首狩道化と死の商人を生で見てるぜ!」



まるでアイドルに遭遇したように燥ぐ連中を無視して、薄ら笑いを浮かべ俺の隣に立つ。



「彼らとの話、ボクに任せてくれないかな」


「良いのか?」


「うん、任せて」



最近頼ってばかりだが、助かる。

連中の肩を叩き、少し離れた場所に移動する月見大福を見ていると、コメント欄が爆速で流れているのが映った。



《抜け駆けされましたわ【ハートの女王】》


《女王ちゃん、ドンマイ!【八千代】》


《可哀想【BB】》


《抜け駆け、されましたわ!【ハートの女王】》


《珍しく女王が地団駄を踏んでおるぞ、兄上【†災星†】》



女王の地団駄とか凄く見たい。



《月見の旦那、絶対碌な話してねえぜボス【凱歌】》


《首領とはまた違う怖ぇ顔ぉ【HaYaSE】》


《…止めないのか、首領【刃狼】》


「そりゃ月見大福だし、アイツは失敗しないよ」



一つ疑問があるとすれば、月見大福が何かを話す度に連中のテンションが上がっている事。一体何の話をしてるんだろう。



《終わったみたいですね【最終社畜V】》


《ニッコニコだね、彼ら【ハンペン騎士】》



そう、凄い笑顔。

取り巻きはまだしも、盗賊王くんまで笑顔。



「お待たせ、リク」


「ああ、何の話してたんだ?」


「丁度帝国の情報を集めたかったから、彼らに協力して貰おうと思ってね」



聞けば盗賊王くん達は一度帝国まで入った事があるそうで、月見大福は彼らに情報収集の依頼を出したらしい。

…それだけで、あんな顔する?



「任せてくれ死の商人、アンタの依頼…必ず遂行して見せるぜ」


「うん、お願いね」



まあ、良いか。

若干消化不良ではあるが、穏便に話がついたのなら俺も受け入れよう。



「首狩道化のリク」


「まだ何かあるのか?」



立ち去っていく連中の中で、最後に盗賊王くんが俺に話しかけてきた。

何かを喋ろうかと口を動かしては止め、反復を数回繰り返した後…彼は手元に一枚の紙とペンを取り出す。


消費アイテムの一つ…大色紙。

こっちでも実装してたんだ、それ。



「…アンタの、サインが欲しい」


「サイン」



なんで?

いや、著名人なら分かるけど…なんで俺?



「すんません首狩道化。

ウチの頭、アンタのファンなんです」


「ファン」


「おい、要らねえ事言うんじゃねえ!」



強く否定するが、一向に手を引く気はないのか。何か裏があるのかと考える…だが、耳まで染まった赤顔の盗賊王くんしか分からない。



「……良いよ」



考えるのも馬鹿らしくなってきた。大色紙とペンを取り、BBのサインを思い出しながら適当に書く。


割と良く書けた。



「…ッ!感謝するぜ、首狩道化のリク」



大色紙を大事そうにアイテムボックスに仕舞い、盗賊王くん達は足早に去っていった。



「変な奴らだったな」


「そうだね」



人のいない静かな森と、中心に開いた穴を見ながら…俺の呟きに月見大福が答える。

これが後に、大変面倒な事になるとは…今の俺は知る由も無かったんだ。

覚えているだろうか、クロノス時代の首領…イキリッくんの事を。

彼は方々でこんな事をほざき倒しながら遊んでいました。

もし今思い返すとベッドに塞ぎ込んでもんどり打つとかなんとか。

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― 新着の感想 ―
めちゃおもろいwww
[一言] アカン、使い潰されてボロ雑巾のように捨てられる…!
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