何処かで見たテスト2
ゼンゼロにドハマりして更新を忘れた奴がいるらしい。
「うーん、進展なし」
《だろうね【月見大福】》
《脳死で投げ物連打する首領を…俺ぁ見たくなかったよ【HaYaSE】》
《あ!?爆発は浪漫だろうが!!【真竺】》
《黙ってろぉ【HaYaSE】》
言うて昔も良く投げてなかったっけ?
ほら、イベント会場に奇襲かけた時とか。
草の影に隠れてモンスターを狙う事早数時間。移動を込みにしても単調作業は飽きが来る物で、現在俺は北の森の中でモンスターの群れを爆殺して回っている。
あまりストレス発散にならなかったのは残念だ。
お陰で森が若干炎上してるような気がするけど、きっと気のせい。
おっと火傷のダメージが痛い…ポーション、ポーションと。
「…帰るか」
《哀愁を感じる背中じゃのう…【ゴドー2号】》
いや、まあね…別にそこまでレベルを上げたかった訳ではないのよ。ただ…なんというか、時間を無駄にした感が否めないだけで。
消化したはずの下位素材がまたアイテムボックスに溜まりつつある…どうしよう。
「肉は…紫玉に食わせよう」
『名案ダ…主』
《いらねえ素材があれば俺っちが引き取るぜ【真竺】》
そういう時は喋るんだから、全く現金な骨である。
ただそうか、真竺の馬鹿に投げ捨て…もとい先行投資をするのもアリだ。
市場に流すのも考えたのだが、下位素材ならまだしもアズマ産の素材だったりダリルが定期的に置いてく物だったり、ちょっとお出ししちゃいけない物が多すぎる。
「それは後から考えるとして……とっとと帰ろう」
充分にデータは取れた。俺が取った訳ではないが、セイちゃんか月見大福辺りが取ってるはずだ。
ウインドウを表示し島への転移を開始しようかと指を進めた…その時。
「ヒャッハー!」
世紀末のような叫び声が遠くの方から聞こえてきた。
耳障りで下品で肩パットでも装着してそうな声。
予感がする。
そう例えば、獲物を追い詰めているどこかの狩人モドキのような。
俺のPKセンサーが反応している、とても面白い現場が近くにあると。
《リッくん、凄く楽しそうな顔してる【八千代】》
《玩具でも見つけたんだろぉ【HaYaSE】》
流れるチャット欄を見ながら声の方へと向かう。
どうして俺がフィールドに出ればこんなに楽し…厄介事が起こるのか。
木々を飛び越え枝を伝い、幹を登り、周囲で一番高そうな木の先に乗る。
────ビンゴ。
数名のプレイヤーを囲う様に集まり、剣を抜く集団を発見した。
囲まれているのは装備から見るに新規だろう。
「おっせぇぞぉ、ヒヨッコ共!」
「頭、どうします?」
新規狩りが横行している、なんて話は本当のようだ。
頭と呼ばれた巨漢は子分らしきプレイヤーの声にも応じず面倒そうに地面に座り込んでいる。
「月見大福」
《彼はヴァロット・キングだね。
レッドリストに書いてある特徴と一致してる【月見大福】》
《レッドリスト?【メルティ・スイート】》
《文字通り掲示板の赤文字…つまりPKプレイヤーのリストだよ【月見大福】》
レッドリスト…プレイヤー間で語られる手配書、晒し上げとも言う。
掲示板に書かれる程の奴ならかなり派手に暴れているプレイヤーなのだろう。
装備も見た事が無い物…帝国産か?
ヴァロット…ヴァロット…その名に少し引っ掛かりを感じる。
《首領、私達がCCを立ち上げた時の最初の獲物ですわ【ハートの女王】》
《盗賊王ヴァロットって覚えてない?【月見大福】》
盗賊王。
「……ああ。居たわ、そんな奴」
思い出した。
クロノス時代、高レベル帯のフィールドに居座っていたPKが…そんな名前だった。
四大PKクランとか呼ばれてた集団の一つ。双斧の盗賊王。
「こんな所でまた逢うなんて、運命を感じちまうな」
《怖ぇ顔してんぜぇ、首領【HaYaSE】》
思わず吊り上がりそうな口元を手で隠し、件のPKを観察する。
以前に遭遇した野良とは違い手練れの集団だ、レベル差もある。
俺には分が悪いかな。
集団戦は初動が勝負。
小型、中型は威力が足りないし、ここからでは届くかも怪しい。
紫玉を嗾ける…それも楽しそうだがリスクも大きい。
何か、丁度良い…そう例えば、
《兄弟分かるぜ。お前は今、馬鹿でかい花火が欲しいんだろう?【真竺】》
まるで俺の考えを読んだかのように打ち込まれる真竺のコメント。
その通りだと首を縦に振り、肯定を示すと………横からスルっと羅刹丸。
「真竺殿から配達でござる」
彼女は自分の足元を数度かき回し、先程俺が使っていた黒球より二回り程大きな物を取り出した。
言うなればド級の黒球、ド球。
「……影魔術ってチートじゃない?」
《我もそれ位出来るが???【†災星†】》
セイちゃん張り合わなくて良いから。
フンスッと自慢げな羅刹丸に礼を告げて、俺は真竺の届け物と見る。
《聞いて驚け兄弟、9:1の傑作だ【真竺】》
馬鹿じゃねえの?
お前少し前に8:2でも調合失敗するって言ってたじゃん。
任務を終えたと言わんばかりに額の汗を拭う羅刹丸は影の中に消え、手元に残ったド球…超大型の花火。
「ついでに俺への危険性は?」
《………………大丈夫だ!【真竺】》
その間はなんだ、この野郎。
そこはかとない不安感を感じるが、まあ良いか。
折角だから派手にやろう。
「火を付けるぞ、燃え残った人間に」
《まだ誰も燃えてませんよ?【最終社畜V】》
何となく言いたかっただけだよ、気にするな。
視線を新規狩りの方に向ければ、どうやら彼らも狩りが終わった様子。
結晶のように壊れ、消えた新規を見て笑い転げている…悪趣味だ、人様に迷惑を掛けるなんて、プレイヤーの風上にも置けない奴らだぜ。
近くにまだ誰かがいるとは露にも思っていないのか。
隠れていた場所から続々と姿を晒し一カ所に集い始める烏合の衆。
最高の状況だ。
おめでとう諸君、次はお前達の番だぞ。
完璧なフォームをイメージしながら黒球に魔力を込め、全力で集合地点にぶん投げる。
抜群の投球。
数分も掛からず、魔力膜で覆われた黒球が地面に接触する。
その前に俺は、起爆の為にもう一度MPを使おうと手を動か、
──────あ、爆ぜた。
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ヴァロット・キングは退屈していた。
新規を狩っただけで、声高々と戦利品を自慢する馬鹿共に苛立ちながら。
そんな物に何の価値がある。
俺の目当てはそんな物ではない、と。
そろそろ新規狩りを止めて、熟練狩りでも始めようか…そんな事を考えていた時だ。
「頭、ありゃなんです?」
「あ?」
古株の一人が空を指差す。
吊られるように視線をそちらに向けると、頭上から何かが落ちて来る。
石にして巨大な…岩石程の球体。
欠けた岩でも落ちて来たかと思ったが、妙に丸い。
自然に落ちて来た物では無く…人工物のような。
不審に思ったのも一瞬…何故か背筋に寒い物を覚えたヴァロットは、アイテムボックスから一つの盾を取り出し地面に突き立てる。それは帝国への道を塞ぐドラゴンの素材で拵えた大楯。急なヴァロットの反応に動けたのは…古株の者達だけだった。
球体が落ちる。
地面に触れ、一人の馬鹿がそれに近付いた瞬間…周囲は白く染まった。
「なんだ!?」
大楯はズタボロで、見るも無残な状態へと変わり果て、集まっていた他のプレイヤーは全てポリゴン片に変わり、装備と素材とマニーが散乱している。
横の古株共は、辛うじてロストを免れたがHPバーはミリ残し。
白煙の立ち昇る爆心地…そこに、一つの影がいつの間にか在った。
「良かった…これで全員落ちてたら拍子抜けも良い所だ」
笑いを堪えているような、不自然な程に軽快な声。
だが、その声はヴァロットの心を搔き乱すのに充分な物だった。
この声を知っている。
俺は一度出会っている。
あの夜闇の中で、俺はずっと甚振られながらこの声を聞いていた。
手足を捥がれ、虫のように這いずる俺を玩具の様に蹴りながら遊んでいた。
白煙から姿を現した男は、フードを深く被り顔を隠しながら嗤っている。
見た事のない装備と黒い外套をはためかせ、男は口を開いた。
「二度目の再会だな」
それは三日月、それは恐怖、高揚。
「嬉しいだろ、盗賊王?」
「───首狩道化ッ」
二双斧の盗賊王はいきり立つ。
地面を鳴らして堂々と歩き、自分達に迫るリクを彼らは心待ちにしていたのだから。
「それじゃあ、持ってる物全部置いてけ」
傲慢にして不遜な物言いにヴァロットは震える。
まるで自分を歯牙にも掛けない態度に怒りを抱いているのか。
「…いいや。その必要は、ねえぜ」
答えは、否だ。
「俺達はアンタを待っていたんだ、首狩道化」
両手に構えた二本の戦斧を地面に落とす。
膝を地に付け、頭を垂れる。
古株のプレイヤーも、我先にと得物を放りヴァロットと同じ動きを取る。
「悪役ロールの星、悪党の中の悪党。首狩道化」
「あ?」
「役者不足にも程があるだろうが、俺達を…アンタの配下に加えてくれ」
首狩道化の熱烈なファンだった。
「………なんだって?」