何処かで見たテスト1
最近、運命君は私に良くデレてくれます。
列車君も…デレてくれますよ?
澄み渡る空の青さと草そよぐ大地。
何処かで見た前置きだな。
そう、俺は今とても珍しい事にフィールドに来ていた。
どうしてスローライフとは余りに似つかわしくないこの場所に来ているかと言うと。
「本当にレベルが上がらなくなったのかテストをします」
《草【凱歌】》
《突拍子もねえなぁ【HaYaSE】》
《『500000マニー』【刃狼】》
《なんで始まりの平原なの?【八千代】》
そりゃそうだろ、俺レベル1なんだから。
遠くには新規らしい出で立ちのプレイヤーの姿が見える…何とも懐かしいねぇ。
試しに手を振ってみればあちらも気付いたように振り返してくれる。お気付きだろうか、俺は今『隠者』を発動していない。
一応外套は羽織っているが、装備は以前ライブに行った時のような変装スタイル。
何なら剣すら装備していない舐めプだ。
《首領、得物は?【BB】》
「これ」
ポケットを弄り取り出す物…それは拳大の黒い球。真竺お手製6:4爆弾…通称『中型花火』。
以前は大変お世話になった代物だが、アルテマではどの様に作用するのかもチェック項目である。
あ、無駄口叩いてたらスモールボアの集団。
既に俺を睨みながら臨戦態勢を取っていやがる。突っ込まれたら一溜りもないだろう…怖い怖い。
さて、花火の起動方法はなんだったか…確かMPを込めて。
「おっと、危ない」
《軽々避けながら何か言ってらぁ【HaYaSE】》
直線移動は避けるのが楽だ、少し身を逸らせばこれこの通り。
さて、MPを込めて…よし光った。
「へいパス!」
大口を開けて突っ込んでくる小猪の口内にシュート。近距離だった事もあるだろう、見事にど真ん中に入り呑み込むのを確認する。
素早く距離を開けて、もう一度MPを放出。
起爆しろ。
「プガッ…!」
瞬間、周囲を包む爆風。小猪は断末魔を漏らしながら仲間を巻き込み腹部から爆散した。
うん、威力高。そりゃあ新規の為に婆さんが量産させようとするわ。
「でも、前よりも控えめ?」
《そりゃ向こうのモンと比べりゃ威力も落ちるぜ?【真竺】》
それもそうか。
真竺のチャットに相槌を打ちながらウインドウを開く。ドロップアイテムは確認するまでもない…問題は経験値なのだが。
「上がってないなぁ」
《ログを見るに経験値は入ってますが…【最終社畜V】》
《経験値バーが動いてないね【ハンペン騎士】》
そう、未だ経験値バーは赤い状態。特に変動もなく次のレベルへの記載もない。
どうやら本当に俺はレベルを上げる事が出来なくなったらしい。
「これ、運営に言えば解除されると思う?」
《動かないに一票【凱歌】》
《同じくぅ【HaYaSE】》
《そこそこ日数も経過してるのに解除されないなら、仕様でしょう【最終社畜V】》
仕様かぁ…クロノスではこんな凝った設定無かったじゃん。返してよ、あの頃のファンタジー。なんか無性に腹が立ってきたな。
「取り敢えず片っ端からモンスター爆殺してくるか」
《無差別テロかな?【月見大福】》
《プレイヤーに当てないように気を付けて下せぇ【蛮刀斎】》
流石にそんなヘマはしねえよ。
全く、自分達のクラマスをもう少し信用して欲しい。
《そういえば、最近新規狩りが多くなってるらしいから気を付けてね【月見大福】》
《首領の格好の餌じゃねえか【HaYaSE】》
新規狩り、増えてるんだ。
そういえば前にここら辺を歩いてた時も見たっけ。嫌だねぇ、ゲームの中とは言え人の迷惑を考えない輩は…俺のように真っ当な人間になって欲しいよ。
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始まりの平原から北上した森。
そこは今、あるクランの狩場となっていた。
クラン『血染の蛮族』
構成人数は50人を優に超え、現在名乗りを上げるPKクランの中でも五本の指に入る程の強豪揃い。
帝国にすら到達し、上級者とも呼べる彼らの趣味は…新規狩り。
必死に逃げ惑う初心者を見るのが好きだ、ゲームの中でも命乞いをする彼らが好きだ、装備を剥ぎ取り持つ物全てを奪う事に快楽を感じるある種の異常者。
「おら、死ね!」
「そんな剣じゃ当たらねぇぞぉ」
「クソッ!クソッ!」
彼らは今日も日夜、新規狩りを楽しんでいた。弱者を甚振る味は蜜の様に甘く、現実でない事は彼らの心を赤く染める。
「良いんすか頭」
「興味ねえ」
そんな手下を冷めたように見る者が数人。
『血染の蛮族』のクラマスの名を持つ男…ヴァロット・キングと彼が最初に集めた精鋭達。
別段…彼らにとって新規狩りなどどうでも良い事だ。大事なのは名を上げ…そして目的を果たす事。
「こんなんで、本当にあの人が来ると思います?」
「どこ行っちまったんですかねぇ」
「…………」
探している。
ヴァロットは常に探している。
嘗てのクロノスで見た三日月…ニタリと笑う黒衣の姿。
「俺達はあの道化共よりこえぇんだぞ!」
不意に、配下の一人が甚振っていた新規に言った。大声で下品に、血染の蛮族が一番のPKクランだと。
それに釣られて周囲の者達も悪し様に道化を笑う。
「あー、頭…ありゃぁ」
「新しく入った奴だろう」
「うす」
傍に置いた二つの斧を手に持ち、ヴァロットは立ち上がる。
のそり…のそりと笑い続ける配下の元へ。
「あ、お頭!どうっすかお頭も」
配下の一人が言葉を紡ぐ前に…ヴァロットが持つ戦斧がその胴体を薙ぐ。
笑みを驚愕に染め、零れたアイテムの中に落ちる。
次いで左の斧が首に触る。
ロスト。
「うるせぇんだよゴミ共、遊ぶなら静かにやれ」
両の斧を背負い、再び精鋭の元へ。
周囲には先程までとは異なり静寂が走り、その背中を見続けた。
「道化…首狩道化」
ヴァロットは求める。
あの夜闇に浮かんだ笑う三日月。
自分を斬った黒い凶刃。
「どこに消えやがった…道化のリク」
拳を握りしめ、歯を噛み締める。