【閑話】デスマーチ
CoCシナリオ書くのたのしい
陽射しが優しく包み込む春のある日。
彼らに待ち受けていたのは…重労働を越えたデスマーチだった。
「主任!また道化がやらかしました!!」
「うるせぇ!こっちはまだ…って、またアイツかよ!」
「主任!天剣が帝国貴族に喧嘩売りました!」
「待て、何があった!?」
「主任!死神が監獄の他プレイヤーを武器にして看守を探してます!」
「全力で阻止しろ!!」
「主任!放浪者くんが獣人と接触しちゃいました!」
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
地獄である。
この世の地獄、労働という枷に縛られし胃を痛める者達。彼らが休日を返上しここまで忙しく動いているのには理由がある。
『第一弾アップデートの実装』
三国の解放という好機。
この絶頂期に実装する事で既存プレイヤーは勿論、第二陣の集客を行おうと画策していたのだが。
「まだ始まって数か月だぞ!?
なんだってこんなに状況が動いてやがる!」
「主任、星遺物って…何ですか?」
「俺が知るかよ!アルテマはどうした!」
「現在演算中の為出てきません」
「最近いつもじゃねえか!」
現場崩壊。
斜め上の行動を取り続ける一部プレイヤーによる混沌と化した現状、何とか収めようと働き続けるが…問題は問題を呼ぶ。
「営業部から催促の連絡来てます!」
「うっせぇバーカ!って伝えとけ!」
「上層部からご令嬢の社内見学の相談が来てますよ主任!」
「後にしろ!こんな場所見せられるか!」
最早最後の方はアルテマ・オンラインに関係すらしていない。上からも横からも突き上げを喰らい、精神を擦り減らす。
「やべぇぞ…このままじゃ間に合わねえ…」
「主任!」
「今度はなんだ!?」
「更新情報、完了です!」
「よくやった!」
今回の更新は二つ、帝国と王国の移動船の実装。これにより本来はアズマが正式解放される予定だったのだが…既に、アズマは朱雀の奇行により発見されてしまった。
…計画とは失敗が伴う物だ。
もう一つは、イベントの実装。
アルトメルン闘技場で開催されるPvP専用イベント。小規模ながら報酬も用意されたアルテマ初のイベントである。
「お前ら!もう少し気張ってくれ!
終わったら俺持ちで飲みに行くぞ!」
「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」
野太い歓声が木霊する。
彼らは今日も死力を尽くし仕事をする。一人でも多くのユーザーを楽しませるように。
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星降る天井…常夜の世界。
星を束ねるカノジョは短い溜息を吐きながら表示されるウインドウに目を向けていた。
アルテマ・オンラインの管理者にして総括AIのカノジョ。
「不測の事態、ですね」
『アルテマ様?』
「まさか…こんなに早く星遺物が発見されるとは、どうしてでしょう?」
小首を傾げて画面の先に映る青年を見ながら、アルテマは疑問を口にする。
本来はまだ先…よりにもよって『聖櫃』が彼の手に渡るとは、全知のカノジョを以てしても演算が出来なかった事象だ。
…そもそも『聖櫃』は、王国には存在しないはずなのに。
『アインは疑問です。
アレは、アルテマ様が彼に贈った物では無かったのですか?』
「外星の遺産はまだあの子には過ぎた代物です。そもそも…問題は他の遺産ではなく『聖櫃』である事」
幸いな事に妙な邪魔が入り『聖櫃』は未だその機能を停止している。それに乗じて所有者となった彼の情報も施錠しようと動いていたが、何とか介入に成功した。
司書の行動、それは情報の阻害。
天蓋書庫は他者の情報を易々と明け渡したりはしない。
外星の者達の行動は、突然起動した『聖櫃』の停止。
ならば、誰が…あの場に『聖櫃』を顕現させたのか。情報ログを追ってもその時間だけが空白となっている。
…まるで、最初から何もなかったように。
「…演算に失敗。仕方ありません、今出来る事をしましょう。
アイン、小宇宙の経過はどうですか」
『順調に拡大を続けています』
「分かりました、観察を続けるように」
アルテマの言葉を聞き届け、アインは姿を星の煌めきへと変える。
「…不可解、ですね」
ウラノスで製造された『聖櫃』は、小宇宙を巡り太陽の少女の手に渡った。
だが彼女ではない…彼女は今も眠り続けている。
アルテマの夢を見ながら。
人の平穏を願って。
「究明を急ぎましょう」
星を手探り、点を線へ。
遍く星を繋ぎ合わせ、観測を…続ける。
予期せぬ変数を証明する為に。