歌姫
個人的に嬉しい事があったので、追加更新。
あと、報告と言うかなんというか…何かまたペイルライダーとは別ベクトルでやべぇキャラ作っちゃいました。近い内に出ます。許してください。
真竺を街の外れに送り込み、昼も過ぎた時刻。特にやる事も無かったので鍛冶場に籠っていた俺の元に、とても高価そうな素材を持ってBBが訪ねて来た。
『首領、お気に入りが折れちゃったから、打ち直して欲しい』
気に入った素材が手に入ったら持ってきて…とは言ったからそれは全然良いんだけど。
「……………」
「なあ、BB。見られてると集中出来ないんだけど」
「気に、しないで」
近い、凄く近い。
そりゃあもう、凝視とばりに俺が武器を打ってる姿に魅入っている。金槌を振り上げると危険だから離れて欲しい。
「大丈夫、避ける、から」
「…まあ、それなら良いけどさ」
諦めよう、俺にコイツの興味を止める術はない。そもそもの話、ステータス差があるのだからダメージの心配もない。
ただ…俺が凄く打ち辛いだけで。
気持ちを切り替えよう。
BBが用意した素材は、『アルファシアタイガーの葬爪』と言うバカでかい爪。
アルファシアタイガー…何とも文字に起こすと可愛らしい名前だが、どうにもこの虎、レア枠らしい。
偶然見つけて桜吹雪鱈と仕留めたそうだが、凄いな…レア枠って倍率相当高いらしいのに。
「また長槍か?」
「うん、前と同じ、位」
それなら見慣れてるから分かる。
混ぜる素材はこの虎の爪と折れた槍、後は何か良い鉱石でもあっただろうか。アイテムボックスを漁りながら耐久値の高い鉱石を漁る。
余談だが、BBも中々に武器の扱いが雑な方だ。戦闘になるとつい力のセーブが効かなくなるらしく、武器の扱いの悪さランキング最上位の俺や源氏小僧に次ぐレベル。
ただそれはサブの話で、自分のお気に入りを壊す事なんて無かったはずなんだが。
「折れちゃった」
不思議に思いBBを見れば、バツが悪そうに顔を背けて話を遮る。これ以上聞くなという、コイツなりの黙秘権。
…まあ、偶にはそういう事もあるだろう。
さて、何が良いかな。
イデアル鉱石、朱鋼鉄、小聖石…鉱石は充分にあるが、どれもBBには似合わない色味。
どれか…鮮やかで耐久度の高い。
「お、これ良いかも」
「どうしたの、首領」
「何でもねえよ、ちょっと待ってろ」
『アストラル・クォーツ』
これは、鷲の獣人ダリルが置いて行く素材の一つだったはず。深緑の瑪瑙に似た物で宝石類のようだが、分類は鉱石。
アイテム詳細にはとても希少とか書かれてるけど、使わないで持って置くより幾分良い。
「『神降の真打』」
赤色が、腕に渦巻く。
熱量の無い炎が纏わり付き、自ずと腕が持ち上がる。
カンッと一叩きで炎は素材を呑み込み、無心だが…この武器を振る彼女の姿を幻視する。
鉄を打つ度脳裏は染まる。
長槍を振り回し数多を薙ぎ倒す者を。
苛烈で愁美、まるで演舞のように戦う様を。
口数は少ないが、その心底には炎を滾らせる姿を。
ガギンッと鈍い鉄音が響く度に、その姿は鮮明に変わり徐々に素材たちは形を変える。
俺の思い描く物へと、変化を齎す。
虎、虎、虎。
獰猛たる虎はその身を染めて。
完成した。
「出来た」
「凄、い」
完成した長槍は元の姿から余り変わっていないように感じるが、矛先に光る濃緑の一閃と重量が既に嘗ての元を一線を画す。
折角作ったのだ、早速鑑定してみよう。
『痕巌老虎』
:STR+170
:消費MPに応じて『虎影』を召喚する。
:戦闘時、特殊状態『古虎の威』を付与。
はい、駄目駄目…これ発禁です。
俺が悪かったです、俺がやりました、俺が作って、俺が間違えました。
神様は少し位俺を憐れんでくれても良いんじゃないかな。
毒小剣・改の時は良かったじゃん。
これ現状作っていい装備じゃないよ。
「首領、どう?」
「…BB、これはお前の武器だ。良いな?」
もう、こうなれば投げてしまおう。
目を逸らしながらBBに渡す…少し時間が空き、彼女も身を震わせる。
「これは、俺とお前だけの秘密にしよう?」
「首領。それは、無理。
さっき、桜に言っちゃった」
そっか、言っちゃったか。
そりゃあ無理だな。桜吹雪鱈なら会った途端に根掘り葉掘り聞いてきそうだ。
そもそも戦闘で使ったら一発で分かる。
──いや、待てよ。
そう言えば刃狼の時も、他の奴らは余り深く尋問…もとい追及をして来なかった。
今回もいけるんじゃないか?
「首領の、武器…私は、嬉しいよ」
「まあ、お前が嬉しそうなら俺も嬉しいよ」
はにかむように笑うBBに最早言葉はない。
それなら良いさ。
それでまた素材を稼いできてくれ…不味い、心まで紐に成り下がろうとしている。
「そういえば、こうして、二人きりになるの、久しぶり、だね」
「前にもなかったっけ?」
「首領、最近忙しい、から」
そう言われれば…そうかも?
思考を巡らす俺を他所に、BBは背中に寄り掛かってくる。
どうしたのかと振り返ろうとして、
「ねえ陸」
BBが普段の首領呼びではなく、俺の名前を呼ぶ。不味いな…スイッチが入ったかもしれない。
「なんだよ、改まって」
「名前、呼んでよ」
「…なんだよ、夕陽」
「ちょっと呼んでみただけ」
漫画でしか聞かない台詞だ。
いつもの言葉の区切りがない、つまりは素。
間違いなく入ったわ、BBスイッチ。
「ねえ、前に送った歌聞いてくれた?」
「最近の曲には疎いが、良かったぞ」
「そっか、嬉しいな」
世界進出まで果たした歌姫様の新曲。
それは新しい世界を冒険する者達の希望の歌。
周年記念だか何だかで作ったそれを、なんとコイツは発表前に俺に送って来やがった。
お偉いさんに怒られても知らねえぞ、特にどこかのスポンサーの女王。
「だって陸は、誰にも見せないでしょ?」
「そりゃあ見せれば一大事だ。
お前の仕事の邪魔はしたくねえからな」
「うん、だから送った」
楽しそうに笑う物だ。
最初にあった時に比べれば、まるで別人のように違って見える。
「…ねえ陸。今、楽しい?
ちゃんとアルテマを楽しめてる?」
「急だな…まあ、悪くない」
「そっか、私も楽しいよ。
……こっちに来てから、ずっと忙しそうで少し心配してたんだ」
忙しい…まあ、色々巻き込まれてばかりだったからそう見えるのかもしれない。
それでも別に悪い事ばかりではない…死神に関わらされた事だけは確実に悪い事だが。
「それだけだよ…よしっと、補給完了」
「何の補給だよ」
「別にー?」
立ち上がり長槍を背中に固定して、BBはこちらに向き直る。
再び、いつもの無表情に戻って。
「それじゃ、そろそろ、行くね」
「そのロールプレイいつまで続けるんだ?」
昔、自分の声を極力出したくないというBBにした提案。諸々の問題が片付いた後でも、彼女はずっとこの喋り方を続けている。
「ずっと、だよ。またね、首領」