英雄譚(笑)
私にGWなどと言う夢見た理想郷はないので、細やかなゲリラ投稿。
最近書いてる別作品に現を抜かし過ぎて困ってます。
日本史の資料やら各国の民話、御伽噺やらを読み漁るの凄く楽しいのでお勧めです。
「ははは、凄いな!
アズマに住まう龍の背に乗り、巨大な魔物を従え因縁の異邦人と剣を交える。
最後は仲間達との絆で彼女を討ったなんて…本当に英雄譚のようじゃないか!」
「いや、うん…ソウダネ」
一部改変…もといアレンジを加えて語った物語は大層この偉丈夫にウケた。
いやぁ…流石にお宅の国で火事場泥棒してから戦いました、なんて言える訳ないし。
高価そうな絨毯の上にあろうことか座り込み、国王のはずの偉丈夫は笑い声を上げている。
いや王座あるじゃん、見ろよ後ろの王女と騎士二人の顔。滅茶苦茶冷ややかに見てるぞ。
と言うか良いのか、アンタ仮にも死神に首刎ねられてポイッてされてたけど。
「無論、私はあの異邦人に対して怒りを抱いているとも。愛する娘や民の心に深い傷を残した事…そして何より、不甲斐ない自分自身に対しての怒りも」
「…分からんでもない」
「だから今は、奇跡とも言えるこの時を喜ばしく思っている。死んでしまった民は勿論、ラファエルまで帰ってきてくれたのだから」
寛容な事だ、これもまた統治者の在り方なのだろうか。俺ならどんな手を使ってでもあの戦闘狂に復讐しようと考える。
…あと、ラファエルって誰だろう。
「それにしても、ただのリク…か。
多くの仲間を率いて国を救った者に…ただの、なんて軽すぎるんじゃないかい。
昔はどこかの騎士でもしていたのかな?」
「傭兵稼業を少々」
『主…嘘ハ…ヨクナイ』
嘘じゃねえよ、嘘じゃ。
日がなプレイヤーを狩って、時々裏ギルドの依頼を熟してたんだから多少脚色はしたが事実だ。
殆どがクロノスの王国近辺にポップする野盗討伐だったけど。あの脳筋王子、金払いは良いけど人を顎で使いやがって。ただちょっと妹を誘拐しただけじゃん。
…おっと、脳にノイズが走ってしまった。
「傭兵か…それ程の腕があるのなら、どこでもやっていけそうだ」
「今は足を洗って隠居生活を満喫してる」
「隠居かぁ…隠居、とても良い響きだ」
「お父様?」
いや、眼こわ…。
隈の影響もあるだろうけど、親譲りの鋭さじゃないか。
見てるだけで圧かけて来るとか…あれもしかして俺にも言葉の刃が刺さってる?
「ああ、勿論冗談だとも!
ただ…そうか、もしキミ達さえ良ければウチのお抱えにならないかと考えたが」
「…悪いが、どっかの国に入れ込む気はない。知らない間に面倒事に巻き込まれる、なんて堪ったもんじゃないからな」
「権力者は嫌いかい?」
「時と場合に寄る」
「なら、残念だが諦めるとしよう」
何も本気の勧誘ではなかったのだろう。
言うなれば腹の探り合い、俺達がこのNPC達にとってどういうスタンスを取るか、利益を齎すかの平和的な話し合い。
穏便に済むけど…こういうのは得意じゃないな。今すぐに月見大福を呼んでバトンを渡したい。
「そうしてくれ。
まあ、王都にも何人か俺の仲間が滞在するだろうし討伐依頼なんかがあれば回してくれて良い。報酬は割高だが、腕は保障する」
「…それは願ったり叶ったりだ。
最近は魔物達の動きも活発になってきて、人手が足りなかったからね」
討伐依頼位ならアイツらの実入りも増えるし悪くはない。
「さて、私の要件はこれで終わりだ。
次はキミの番だね、救国の英雄殿」
「…やっと報酬の話か」
「長い時間を取らせてしまった事は申し訳なく思う。私も年甲斐もなくはしゃいでしまったんだ」
幾ら顔の整った偉丈夫だからって、男にウインクをするな気色悪い。
だが、漸く当初の目的に戻ってきた事に安堵する。この偉丈夫…途中で話を遮ってもあの手この手で延長しようとするんだもん。
「お父様、私は先に戻らせて頂きます」
「おや、もう行くのかいディニア」
「客人の前で無礼とは思いますが、体調が優れず…申し訳ありません」
こちらに顔を向ける姫様は確かに調子が悪そうだ。睡眠不足ならとっととベッドの中に戻った方が良い。
「分かった。
ミカエル、ガブリエル…ディニアの傍に付いていてあげて欲しい」
「承知しました。
それでは、他の騎士を呼んで参りますので」
「いや、必要ないさ。
精霊兵も控えているし、ここには彼もいるんだから」
「…ですが」
あの土塊、精霊兵って言うんだ。
…おい騎士共。
なんだその『コイツが一番危ないんですが』みたいな顔は。さっきのはこの偉丈夫にも責任の一端があるだろ。
「そうだろう英雄殿?」
「これから報酬を貰う相手を斬る気はない」
剣を仕舞い、両手を上げて答える。
怖くないよ~危なくないよ~とアピールする為に笑顔を浮かべれば、何故か姫様の顔色が更に悪くなる。
お前の目力と大差ないだろうが。
「…分かりました。
行きましょうディニア様」
「ええ、お願いねミカ、ガビー」
連れ添う様に歩く三人を眺めていると、緑騎士が一度俺の方を向く。
「アンタ、陛下に変な気起こしちゃダメよ」
「とっとと行けよガビー」
「…ッ!分かってるわよ!」
姫様が口にしていた愛称で呼んでみれば、顔を赤くしながら緑騎士が足早に去っていった。
「気分を害してしまったかな、済まないね」
「職務に忠実なのは良い事だ、別に気にしちゃいない」
「…ディニアはまだ立ち直れていないんだ。私達とは違い、未だあの惨劇を思い起こしてしまうのだろう」
朧げな夢ならまだマシだっただろうに…NPC、AIとは言え今もまだ鮮明に記憶し続ける肉親の死か。
「キミも…良ければあの子を気遣ってあげて欲しい」
「一日でも早く克服する事を祈ってるよ」
まあ、あの姫様と関わる機会なんてそうそうないと思うけど。
言葉だけなら幾らでも言えるさ。