報酬回収
どうも、ブルアカ120連でピックアップを揃え上げた神に愛されし私です。
現代系って話の回し方が難しいですね。
「そうだ、アルファシアに行こう」
思い立った日が吉日とは良く言った物で、休みの日の日課である仲間達の弁当?を作り終えた俺は、ふと王国に行こうと考えた。
「付いてくるか白玉」
「キュ?」
何も言わずに準備を始めた俺の様子に疑問を抱きながらも、白玉がいそいそと肩に登ってくる。
今回は桜玉は留守番で良いだろう。
王国の転移結晶は解放しているし、態々あの地獄のような空路で行きたくない。
報酬を確保したらすぐに帰ってくるだけだ。
「行くか」
「キュキュ!」
腰の剣を撫でながら歩き出す。
空は快晴。
陽気な日の下を鼻歌を歌い歩いていると
「あれ…どっか行くんスか、ボス」
十六夜に遭遇した。
あの団服モドキと短パン装備。
此方に手を上げながら釣り竿を片手に担ぎ、いざ釣り場へ…なんて恰好だ。
「ちょっと王国で報酬回収してくる」
「成程、護衛は必要っスか?」
「直ぐに帰ってくるから大丈夫だよ」
「了解っス。
…あ、メルティさんとお菓子を作ったんで良かったら持ってって下さい」
「おう、ありがとさん」
それじゃ、と告げて十六夜は小走りで去っていく。
余談だが最近十六夜も菓子作りの腕を上げてきている。元々リアル器用さ極振りのような人間がメルティから教えを請えばそりゃあ早いのなんのって。
嬉しい反面、これはクラマスとして沽券に関わるのではないだろうか…関わらないか。
渡された菓子をアイテムボックスに仕舞いこみ、近くの転移結晶に触れる。
「いざ王国へ」
『隠者』は…一応転移したら使っておこう。
他のプレイヤーはまだ到達してないだろうが、異邦人ならば目立ってしまうかもしれない。
単独で王城に忍び込み報酬を確保する…こう言うスニークミッションは大好きだ。
転移を開始すると視界は暗転し、体がふらりと揺れる。
もう一度目を開けばそこにはあの廃墟に溢れた王国が…なんて事もなく、NPCで賑わう王都の光景が広がっている。
「…綺麗な街だったんだな」
俺が最初に見た王都は既に死神が暴れ回った後、NPCの死骸が転がった地獄のような場所だったが…成程、これがロールバック。
NPCも復活させたのかな、それとも総入れ替え?
まあ報酬さえ受け取れるならどちらでも良い。
「あんまり動くなよ、こそばゆいから」
「キュキュ!」
懐に白玉を入れて歩き出す。
『隠者』を使用しているとは言え、何かの拍子に解けてしまい前の襤褸切れ女みたいな変質者に絡まれるのは勘弁願いたい。
ふらりふらりと人の波を避けるように歩く。
重心は崩さず、されどいつでも身を躱せるように速度を一定にして動くのがポイントだ。
これを覚えるのには苦労した。どれだけ気付かれないようにスリが出来るか…なんてノルマを付けて良くプレイヤーから追い掛け回されたっけ。巻き上げた金は全部賭けに溶かしたんだったかな。
初心者時代の懐かしい記憶が蘇るね。
「まあ、流石に今はスリなんて出来ないけどな」
「キュウ?」
「何でもない」
昔ならまだしも、今のCCはクリーンでホワイトな冒険者集団。
一日一善って素晴らしいね。
火事場泥棒?人はいなかったしアレはノーカウントで。
進む事暫し、賑わう街を観察しながら歩いていれば薄っすら見覚えのある場所に出た。
中央に置かれた噴水の広場。
子供が走り回り、それを大人たちが微笑まし気に見守っている。
「平和だなぁ」
少し前まであちこちに腕やら首やらが転がってた場所とは到底思えない。
そういえば、あの緑の騎士を蘇生させたのもここだっけ。
確か名前は…。
「ガブリエル様だー!」
「精霊騎士様!」
そうそう、ガブリエル。
見た目に合わず何とも物々しい名前だと思ったが…ん?
「ふふっ、元気ね皆」
幼い声のした方を見れば少し先の方に複数の衛兵と姿を現した緑鎧の騎士が住民NPCに囲まれている。
「今日も巡回ですかな騎士様」
「ええ」
噂をすれば影が差すって奴だ。
こんなに早く件の人物に会う事が出来るとは思わなかった
幸先が良い…のは良いのだが。
「あの中に入りたくねえ」
一人だけだったら幾分かスムーズに話が進むと思ったけど、あんなに人が集っていると話しかけるのも一苦労。
何より目立つ、絶対目立つ。
現在俺はスニークミッション中だ。
コンテナを装備してなかろうが、何だろうが例え俺が勝手に言ってるだけだろうと、これは自分に掛けた云わば枷。
そう易々と崩せばクラマスの名が泣く。
よし、赤い方を探そう。
アイツ友達いなさそうだし、多分一人だろ。
「あれぇ騎士様、シルフィアいないの?」
「さっきどこかに飛んで行っちゃったのよ」
さて、退散退散。
目指すは王城、いるかな赤騎士。
まあ居なけりゃどこぞの勇者よろしく城の中を家探しすればいい話だ。大丈夫、ちょっと良い装備があったら借用するだけだから。
喧騒に紛れるように歩を進めようと前へ…。
「キュキュ!!」
「うべっ!?」
白玉が珍しく大声で鳴いた、と同時に俺の腹ど真ん中にナニカが衝突する。
俺が、何者かの接近に気付けなかった…?
態勢を崩し痛みが残るその場所を見れば…緑の小人が人様の腹に摺り付いていた。
「…何事」
「ーー!ーーー!!」
満点笑顔の緑の小人。
覚えているとも…なんたって、コイツのせいで俺は王国のいざこざに巻き込まれたような物なのだから。
名前は…なんだっけ。
「…ちょっと貴方、大丈夫!?
シルフィア離れなさい!!」
剛速球の衝撃により軽く体が跳ねた俺に、それを目撃したのだろう緑騎士が近寄ってくる。
そう、俺の姿が見えている。不味い…『隠者』が切れた。
「ねえちょっと…って、あれ?」
慌てたように声を掛ける緑騎士の顔がやがて疑問へ、疑問から驚愕へと変わっていく。
…ここから入れる保険はあるだろうか。
答えは、ない。
だって俺の一張羅バレてるんだもん。
未だ腹の上にへばり付く精霊を力任せに引き剥がし無言の彼女へ渡す。
服の埃を払い、一度咳払いして緑騎士を見る。なんて声を掛ければ良いんだろう。
取り敢えず…ここは自然に。
「よう、元気?」
「あ…あああああああああ!!」
襟首を掴まれ前後に振り回される。
驚くのは良いんだけど、騎士の癖にコミュニケーションが野蛮過ぎない?周りの人も凄く驚いてるじゃん。
開始早々、俺のスニークミッションは終わりを告げたらしい。