爆発頭
魔法主体の現ファンって、カテゴリーとしては何になるんだろう。
ローファン?
扉の先は荒れた惨状。
辺り一帯には何かの破片が飛び散り、人を招いた癖に椅子すらない。
そんな俺の思考とは裏腹に真竺は鼻歌を歌いながらお茶の用意をしている。
座る場所は…地べた?
「首領、椅子です」
「どっから出して来た?」
「常に持ち歩いていますから」
俺の横に置かれた椅子は、なんとも装飾の凝った物々しい椅子だった。
サイズこそ人用ではあるが…魔王でも座る予定なのかな?
「ゴドーの爺さんに作って貰ったらしいぜぇ」
「首領用に作って頂きました」
「アイツも器用な…俺用?」
「はい」
いや、はいじゃないが。
こういう事態…とは言ってもかなり狭められた事態を想定したのは素直に嬉しい。けどさ、もしかして今後椅子が無い時とかこれに座る羽目になる?
…何も考えまい。
「兄弟、茶が入った…なんだそりゃ?」
「椅子だが」
「そりゃ見りゃあ分かるんだがよ、なんだってそんな物騒な…」
「カンペイが俺の為に作ってくれた椅子だが、何か問題でも?」
「…良いデザインだな!」
物言い多そうな真竺に殺気を飛ばしながら強引に口を閉じさせる。
そうだろう、これを酷評する権利があるのは俺だけだ。まあ酷評する気はないけど、人前で座るのには少し恥ずかしいから後でデザインとか相談しようかな。
「首領…ッ!」
「良かったなぁ」
…相談、出来れば良いな。
感極まった様子のカンペイと、その姿を見て深く頷くHaYaSEが俺の左右後ろに立つ。
ちょっと良いなこの構図、膝に腕を乗せて顔の前で組んじゃおう。
「どこのギャング様だ?」
「これでも大手のクラマス様だ」
いや、人数的には小規模だから大手ではないのか?
どこぞから引っ張り出したテーブルに茶を乗せ真竺は笑う。なんだ、その餓鬼を見るような微笑ましい顔は。
「さて、そんじゃまずは商談と行こうぜ。
そろそろ材料費が底を尽きそうだから、なんか買ってけ」
「正直なヤツ…大型と中型をいつも通り、鼠は?」
「クロノスから引っ張ってきたヤツがあるぜ」
「じゃあそれも」
「オーケー、ちょっくら待ってろ」
手元の紙に記した物をアイテムから探してるのだろう、手慰みを少々に時間を潰していると手元に売買用のウインドウが出現する。
「流石に値は上がってるな、一括で」
「そりゃぁ代替品を探すにも一苦労、未だに素材不足がこの市場だからよ…羽振りがいいな」
「金は溜まる一方なんだ」
「羨ましいこった、ほい毎度あり」
俺の金じゃないんだけど、必要経費と言う事で。会計を済ませ、受け取った品物と数の確認を済ませカップに口を付ける。
「にしても兄弟テメェ人のメッセを一か月以上放置しやがって、楽しそうな事してんじゃねえか」
「最近忙しかったからね、随分耳が早い」
「掲示板じゃあ祭りだったぜ。
王国で死神を落としたのは、テメェだろ?」
「成り行きでね」
「ついでにアズマの解放もテメェか」
「アレは朱雀だよ、俺じゃない」
冤罪を着せるのは止めて頂きたい。
あの時の俺は…言うなれば付き添い、そう付き添いのような物。ハンバーグの付け合わせのポテトだ。
ソースと良く合うんだよな、あのポテト。
「真竺こそ、なんでこんな街はずれに店なんか構えたんだ?」
「ああ、そりゃあなぁ…」
言葉を濁し呻く真竺。何か言いたくない事でもあるのか…まさか、やっぱりこっちでも後ろ暗い事を。
「…最初の店が、アリウスのババアにバレたんだ」
「最悪じゃん」
「今は帝国に拠点を移したらしいが…いつ戻ってくるか分からねえからな」
『探求の道行き』のクラマス、そりゃあ災難だ。知識人を気取ってるがあの婆も大分好戦的で…おまけに効率厨。
今どき攻略情報なんて誰が見るのか、戦闘の基本は腕と足だろうに。
「何回も勧誘に来るから参るぜ。
誰が他人の為に…ましてや新規共の慈善活動何ぞしなけりゃならねえんだ!
俺は常にロマンに生きてんだよ!
アイツらは全然ダメだ!もっと派手に燃やせや!心を燃やせや!モンスターじゃなくて都市燃やせや!I LOVE 爆発!」
「荒れてるなぁ」
「そっとしていてやろう」
まあ真竺の気持ちは良く分かる。
新規の参入。
アルテマ移行で更に増えただろうそいつ等を取り零さないように、もしくは沼に引きずり込むようにしなければゲームが過疎る。
中身はこんな爆発思考の残念な奴でも、コイツが作る物…自作爆弾は中々に重宝するアイテム。
雑魚狩りによるレベル上げは勿論、俺達もPKをする際に良く活用させて貰った。
…人間爆弾や人災土砂崩れ、どれも忘れられない俺の細やかな思い出。
「どっかに俺を匿って自由に爆弾作らせてくれるヤツいねえかなぁ」
「…なんだその眼」
「いやぁ、丁度良い所にPKクランをやめてバカでけぇ島に移住した隠居野郎がいると思ってよ」
「えー、首領コイツ入れんのぉ?」
「天空島が荒らされますよ、首領」
別に真竺を加入させる事に異論はない。
何だかんだと長い付き合いで人間性は多少なりとも分かるし、メルティを加入させてる時点で今更ではある。
なのだが…島を荒らされるのはちょっとやだなぁ。
「待て待て、流石の俺も兄弟の島ならそんな暴れねえぞ!?」
「でもお前、前科あるし」
「いつだよ!?」
ついさっき自分の店爆破したばかりじゃん。
後さっき都市を燃やせとか言ってたし。
なんで何事もなかったかのようにスルーしてんの?日常茶飯事なの?
まあ…冗談はさておき、どうするか。
コイツを囲うの…正直かなりアリなんだよな。島を荒らしそうになったら暴力で解決すればいいし。
「一回仲間達に聞いてみて良い?
ほら、危険人物をクランに入れて良いか」
「お前らよりは危険じゃねえと思うが?」
「…今回は縁が無かったと言う事で」
「オーケーオーケー!
聞いてきてくれ、なんなら入れてくれ!」
土下座をする勢い…どころか本気の土下座を俺の目の前で披露しながら真竺はいう。
「と言うか、お前は自分のクランを作ろうとは思わないの?」
「メンツ集めるの面倒じゃねえか」
「メンツ?」
「首領、クラン設立の条件かと」
ああ、クランの設立って複数人じゃなきゃ認められないんだったか。
俺の時は月見大福達を合わせて丁度四人だったからすんなり通ったんだっけ。
「まあ、期待しないで待っててくれ」
「ガッツリ期待するから頼んだぜ兄弟!」
これは早めに処理しといた方良いかな、近いうちに皆に聞いておこう。
歯を見せ笑う真竺に溜息を洩らしながら、俺は椅子から立ち上がる。
「それじゃ、俺達はそろそろ行くよ
HaYaSE、カンペイ」
「ハッ」
「あいよぉ」
座っていた椅子は既にカンペイが仕舞っており、HaYaSEは挑発的な顔を真竺に向けている。…やっぱり相性悪いなぁ。
「多分近いうちに連絡するよ、多分。
じゃあね、真竺」
「おう、またな兄弟!」
後ろ手を振りながら店を後にする。
ふとウインドウの時計を見れば、ゲーム内時刻は夕方を少し過ぎた程。
「もう島に帰るかぁ首領」
「それでも良いけど」
ルディエの街は、日を追うごとに露店の数を増やし…中には良く分からない物もある。
「少し買い食いでもしてから戻ろうか。
お前らのおススメの店教えてよ」
「賛成です!」
「まっかせろぉ!」
あっちだこっちだと手を引いてくる二人の姿に笑い、結局日が暮れるまで…俺達はルディエの街を遊び歩いた。