花火職人
「お、首領おかえりぃ」
「握手会はどうでしたか?」
「疲れた」
指定した場所、といっても調理ギルド前で二人は待っていた。笑顔でこちらに手を振る姿を見ると…ああ、気力が回復する。
「首領、どうぞ」
「サンキュー」
カンペイから渡された木製のカップを呷る。アプルの実…まあ、リンゴなんだけど。
美味いなこれ、うちでも育てられないかな。
聖樹の果実水とか、どうだ?略して聖水。
カップと共に置かれたマフィン?に齧り付きながら果実水について考えを巡らせる。
「まーた変な事考えてるだろぉ」
「HaYaSE、首領は物事の一つ二つ先を常に考えている御方だぞ」
「その割にポカ多いけどなぁ?」
「そこも魅力だろうが!」
「やめろ…やめろ」
冗談を言う暇すら与えられないのだろうか。良いじゃん聖樹の果実ジュース…絶対美味いって。
「そんで首領、真竺の野郎に会いに行くんだっけぇ」
「討ち入りですか、お供します」
「そんな物騒な要件じゃねえよ?」
真竺…花火職人の元に出向く事は既に二人には知らせている。
だが、ただ顔出しに行くだけなのになんでそんな事を思うのか。首領、時々お前らの考えが分からないよ。
「そんじゃ、俺らは護衛って事だなぁ」
「後衛だけでは心元ないが」
『拙者も居るでござるよ~』
「ッ…どこだ羅刹丸!」
「話を聞いてない…?」
別に喧嘩を売りに行く訳じゃないって…というか急に影の中から声を出すな羅刹丸。
いつから入ってた、まさか握手会も見てたのか?
『常に主を陰から守る…側役の務めにござるな!』
「人の心を読むんじゃない」
「ストーカーとも言うなぁ」
「憎らしい!」
『お?悔しいでござる?カンペイ悔しいでござるか?』
奥歯を噛み締め俺の影を睨み付けるカンペイの頭を軽く小突き、歩き出す。
ここで雑談に興じるのも良いが時間は有限、やる事は済ませておこう…いや、まあ周りの目が気になり出して来ただけだけど。
「行くぞお前ら」
「ハッ!」
「あいよぉ」
さて、あの爆発馬鹿は一体どこに店を構えたのか。
☆
「…ここ?」
「裏通りの更に奥たぁ…こっちでも後ろ暗い事やってんのかねぇ」
マップを頼りに真竺の店を探せば、細道余所見道裏通りのとある一角。明らかに堅気の商売ではないだろう場所に到着してしまった。
いや、まさかルディエの街にこんなスラム街のような物があるとは思わなかった。
どんな綺麗な場所にも影はあると言うのか…運営要らない所に力入れ過ぎじゃない?
殆ど廃墟のような建物に扉には店仕舞いを示す看板がポツンと掛けられている。
試しにノックをするが、中からの反応は無し。鍵は…掛かってるな。
「開かねえなぁ」
「さっきメッセは送ったはずなんだけど、既読付かないし」
「強引にこじ開けますか?」
「それは最終手段」
急に来たのは俺達の方だ、もしかしたら出払っているかも知れない。
もう一度扉を打とうかと思った…その瞬間。
ドゴォォォォォォォン!
「…は?」
「爆ぜたなぁ」
突然目の前の仮想真竺の店が爆ぜた。
窓からは黒い煙が噴き出し、上に上にと立ち昇る。流石にゲームのオブジェクト故か建物自体は無事なのだが、どっからどう見ても火事か事故現場。
…何事?
暫し茫然とする俺達が大口を開けていると、目の前の扉が独りでに開く。
「ありゃあ、またやっちまった…どっかで調合ミスったかな」
現れたのは輩風の男。
金髪をオールバックにし乱雑に結んだ後ろ髪を一本垂らしたグラサン。
煤で顔を黒く染め、手に持った書物と睨み合っている。
「比率は合ってるはずだが手動調合じゃダメだってか?8:2…いや7:3の方が成功率上か?だがそれじゃあロマンがねぇ。
レベルの問題はねえだろうけど、イライラすんなぁおい。
クロノスより改悪になってんじゃねぇのか、修正しろよクソ運営が…あ?」
「何やってんのお前」
俺達の足が見えたのか、顔を上げて仏頂面でこちらを睨み付ける輩に声を掛ける。
暫しの交差の内に目の前の馬鹿の顔が喜色に変わる。
「おお!何しに来やがった兄弟!」
「さっきメッセ飛ばしたはずなんだけど、真竺こそ何やってんの?」
「んなモン決まってらぁよ!ロマンと火力のある爆発を生み出してんだ!」
ハイテンションに俺を見ながらロマンを語るこの男こそ、真竺。数少ない俺のクロノスからのフレンドで花火職人の爆発馬鹿。
気安く俺の傍まで歩み寄り、俺の後ろを見る。
「あん?飼い犬も連れてんじゃねえか」
「せめて猟犬だろぉ…ぶっ殺すぞ」
「首領、許可を」
「真竺?」
「冗談だ冗談!
軽い挨拶みてぇなモンだろ、剣から手ぇ放してくれや兄弟!」
カラカラと笑いながら詫びる真竺に二人が殺気立つ。長い付き合いで冗談だとは分かるのだが、そんな事スラスラ口が滑ると俺も剣が滑りそうになる。
口が軽いのは標準装備なのか。
「まあ立ち話もなんだ、入れよ!」
「…この中に?」
笑いながら扉の先を指差すが、未だ外から見ても分かるように黒煙が上がっている。
「すぐ消えるから問題ねえよ」
「首領を招くなら最低限の場所を用意しろ爆発頭」
「やっぱやっちまおうぜぇ首領」
「…ありゃ、俺っちピンチ?」
「止まれ」
口は禍の元と言う有難い言葉を知らんのかコイツは。無言のまま扉に歩くと渋々ながらも付いてくる二人…相性悪いんだよなぁ、まあ俺も最初はイラッときてキルしたけど。
「茶くらいは出せよ真竺」
「おうよ、良いヤツあんぜ!」
まあ、そんなヤツだが今でも交友が続いているのは。
この爆発馬鹿が跳び抜けた物を持っているからだろうか。
「兄弟、今日はどんな爆発がご所望だ?」
「顔見せに来ただけだ馬鹿野郎」
爆発にしか興味がないのはどうかと思う。
長かったな真竺…お前、花火職人の仇名だけは結構最初に出てたのに。