記念ライブ
仲間達との絡みをもっと書きたい。
私を精神と時の部屋に収監してください。
「首領こっちだぜぇ」
「お体に障ります、もう少し休みますか?」
「まだそこまで老いてねえよ?」
三人寄れば男でも姦しい、ルディエの街の一角…プレイヤーの露店が多く立ち並ぶその場所に現在俺は訪れていた。
切っ掛けは些細な事、いつも通り鍛冶場に籠り武器を打っていたのだが、そこにHaYaSEとカンペイが現れある誘いをしてきた。
『ルディエでアイドルがライブするらしいぜぇ。息抜きがてら見に行かねえか?』
『グラクエの進行記念らしいですよ首領』
ウチのメンバーの中でもそういう風俗に興味があるのはコイツ等位だ、BBも居たりするがアイツは別枠…歌姫様は常に情報チェックを怠らないらしい。
グラクエの進行とは名ばかりの、ただ客引きをしたいだけとは…言ったら駄目だろうな。
まあ折角の誘いと俺は乗り、僅かばかりの変装をしてここにいる。
人間、眼鏡とフードだけで人相が変わる。
「なんて名前のグループなの?」
「illusionです、国内ではそこそこの知名度があるかと」
「名前位は聞いた事…ねえよなぁ」
「俺が知ってる歌手なんざ歌姫様か演歌の女王だぞ」
「レパートリー少ねぇ!」
忘年会とかで歌うと案外盛り上がる、主に重鎮世代がな。
さて、illusion…掲示板を探してみれば早くもヒット。成程、アルテマにもファンがいるらしい。
何でも敏腕プロデューサーNamco氏が集めた精鋭メンバーで国内外問わず人気があり、オリコン連続…もういいや。
「三人組のユニットと…多いな」
「最近だと少ない方じゃねえかぁ?」
「昨今50人を超えるグループもいるようですよ」
「顔と名前が一致しそうにない」
「首領は興味あるヤツしか覚えねえだろぉ
…着いたみてぇだぜ」
HaYaSEに促され前を見れば、大舞台を中心に蠢く人の群れ。
右を見ても左を見ても人、人、人。
ルディエってこんなに人数居たんだ。もしかして、これ全員そのアイドルの追っ掛け?
「…ここで暴れたら一攫千金だな」
「首領、本音漏れてんぞぉ」
「紫玉出したらMPK扱いにならないか?」
「資金が足りていませんか?もう少し送りましょうか?」
「冗談だ」
刃狼もそうだけど、二言目で俺に貢ごうとするのやめような。気持ちは嬉しいけど使う当てが本当に少なすぎて溜まる一方なんだ。
素材はゴドーやメルティに回せるけど、案外攻略やらなんやらが絡まなければマニーって減らないらしい。
結局殆ど仲間達の金庫番みたいな扱いだ。
「お前らももう少し散財しろよ」
「これでも使ってる方だぜぇ?」
「防具はゴドーさんが用意してくれますし、武器の修繕も首領がやってくれますから…案外減らないんですよ」
「回復薬は月見の旦那がどっかから仕入れて来るからなぁ」
「そっかぁ…」
クランに生産職がいるだけでこんなに資金繰りが変わる物なの?
これならクラン広げてる連中とか強くなりそうだけど…ああ、出来ても死神が潰して回ってたか。
「まあ溜まるに越した事はねえだろぉ?
それよかそろそろ始まるみてぇだ」
「…あの先頭の集団は何?」
見ればいつの間にか桃色の衣装に身を包んだ謎の一団が舞台の最前列を占拠していた。
背中に書かれた何者かの名前とハートマークを見るに、オーダーメイド製か。
「親衛隊ですね、俺達みたいな連中です」
「似たようなモンだなぁ」
何とも無駄な事に金を掛ける物だ…いや、むしろああ言う楽しみ方も有りか。
俺も今度BBの名前背負って宣伝活動でもして見るか…全力で拒否されそう。
「いや、そもそも俺ら別に誰かの追っ掛けではなくない?」
「出て来たぞぉ」
『みんなー!こんにちはー!』
話を流された、首領は悲しい。
さて…そんなこんなで舞台に上がる三人組。
ピンク、青、黄色の髪色を持つ美少女達…なのだが、正直アルテマの中にいれば誰も彼もが美男子美少女になれるからなぁ。
…批評家気取りは止めておこう、恥ずかしい。
「で、二人は誰がおススメ?」
「アイドルにおススメとかはねえが、センターのアヤだなぁ」
「俺はユメカさんですね、あの青い子です首領」
「へぇ…黄色は?」
「ユリア…マイペースが売りだが歌はピカイチだぜ?」
「何というか、とてもホワホワしてます」
『樹嶋ゆりあです~今日は皆で楽しみましょ~!』
話をしている最中、被さるように聞こえた自己紹介。緩い語り口調と張り付いた笑顔。
マイペースが売りねぇ…それにしては随分。
「…気のせいか」
「どうしたぁ首領」
何でもないと笑いながらライブを観察する。何となく同類な気配を感じたんだけど、流石にアイドルがPKなんてするはずない。
誰彼構わずPK適正チェックを行うのは昔から俺の悪い癖だ。
「凄い熱気だ」
四方八方から沸き立つ観客の熱狂。
謎の踊りをしながら曲に乗る周囲を見ていると、どことなく俺達は場違いの様に感じるが…成程これがアイドル。
曲名『夢色ファンタズム』
ダダ甘い歌詞を聞いていると背筋が痒くなってしまう。
「首領、どうですか?」
「悪くない」
思えばこう言う、プレイヤーが一堂に会するイベント?など片手で数える程しか経験がないからな。何というか新鮮だ。
続く二番の歌を聞きながらそう思う。
「この後はプレイヤー抽選で握手会があるらしいですよ。もしかしたら俺達の誰かが当たるかもしれませんね」
「案外首領が引くかも知れねえぜぇ?」
「流石にないだろう」
ざっと見渡しても人口過多の観客。
俺は昔から運が良い方ではないし、握手会と言われても興味は湧かない。
今はこの熱気と、楽しそうにするコイツ等の姿を見れただけで御の字だ。
ありがとう、アイドル。
いやぁ…ほのぼのさせたいなぁって思ってぇ…そういやアイドルいたなぁって思ってぇ…。