閉演
《ユニーククエスト『王都事変』を達成しました》
《称号『救国の英雄』を獲得しました》
死神のロストを確認していると、軽快に鳴り響くアナウンスの声が耳に入る。
『王都事変』の達成条件は王国に巣食う災いの討伐…つまり死神のPKだった。まさか、本当にクエストとして発生するとは思わなかったが溜まりに溜まった鬱憤を晴らせたので結果オーライ。
自分の腰元に剣を戻すと、先程まで左手に握っていたあの首飾りが消えている事に気付く。
「消滅したのか?」
「多分死神がロストしたからじゃないかな。
特典アイテムは死んでも手元に残るって掲示板にも書いてあったよ」
「至れり尽くせりか」
ここの運営ってそんなプレイヤーに親切な設計してたっけ?いや、あんな厄介なアイテムを持ってても特に使い道もないし良いんだけどさ。
「リッくんリッくん」
「ん?」
八千代に外套の裾を引かれ後ろを見れば、全員が俺の方を見ながら何かを待っている。
あれ、よく見ると装備が統一されていると言うか、それクロノスの団服じゃない?
ご丁寧にあの頃の腕章まで付けちゃって、良いな俺も欲しい。
「兄上、皆勝鬨を待っているのだ」
「ああ、成程ね」
セイちゃんの声で我に返り、もう一度周りを見る。
行き当たりばったりとは言え、これは死神との二度目の再戦。
幾ら弱体化しているとは言え、あの怪物を相手に誰一人欠けることなくあの女を打破した。
「皆」
今この場で長ったらしい前説は不要だろう。
「俺達の勝ちだ」
『『『うっしゃあああああああ!!』』』
俺の言葉と同時に仲間達は声を張り上げる。
ああ、皆嬉しそうだ。この光景だけでクエストを受けた甲斐が多少なりとも湧いてくる。
「嬉しそうだねリク」
「ああ、嬉しいよ」
今も誰が一番活躍したかと叫び、取っ組み合う様子に笑ってしまう。
「ですが、これからどうするのでしょう。
王国は既に崩壊し、最早国として機能しませんわ」
「周囲の街は残っておるが…」
「アイテムも装備も粗方回収しちゃったからね」
「こればっかりは運営に任せるしかないだろ」
『ええ、後の事はアインにお任せ下さい』
「そりゃ助か…あ?」
不意に聴こえた声に剣を抜き放ち、その場所へ視線を向けると俺と仲間達の丁度中間に薄透明の女がいた。
「誰だお前」
『ごきげんよう『クレイジー・キラークラウン』の皆さま。
識別名称アイン、総括AIよりこの地の復元に参りました』
「なんだ運営か」
「運営が出てきた?」
なら敵ではないだろう。
だが、英雄の殺害にも我関せずを貫いたここの運営が何故今回は出張ってきたのか。
『此度の件、アルテマ・オンラインの進行に支障を来す事案と認定されました。
アインは王国のロールバックを検討しております』
「出て来るのが遅すぎるんじゃないか?」
『管理AIはプレイヤーの旅路を阻害する事は禁止されております。
ペイルライダー様のロストを確認した事で可決されたと思って頂ければ幸いです。
リク様が統治なさる事も可能ですが、いかがですか?』
「自分の島があるから要らないよ」
『冗談です』
顔色一つ変えずに喋り倒すAI。
真顔で言われても冗談だと思えないから止めて欲しい。
…いやちょっと待てよ。
ロールバック、文字通りの巻き戻しだとしたら王国からかっぱらったアイテムはどうなるんだろう。没収か?折角時間稼ぎまでして戦ったのに没収なのか?
そんな悪魔の如き所業を運営は、するかもしれないなぁ。
『それでは、10分後にロールバックを開始します。
プレイヤーの皆さまはこの場の離脱を推奨します』
「速いな」
『迅速行動がアインのモットーです』
AIの前に出現した黄色いウインドウを操作しながら告げる言葉。
どうでもいい話なんだけど、ウインドウの色違うんだな。俺達のは青だし。
いや、そんな事考えている暇はない。
ロールバックなんぞに巻き込まれたらどうなるか分からない以上、ここに居続けるのは危ういだろう。此方に近付いているNPC達を一度見て、俺はもう一度仲間達に声を掛ける。
「ずらかるぞお前ら!」
「あいあいさー!」
合図と共に近くの窓をぶち破って外に駆け出す。
全員…出たな、よし。
「翠玉、桜玉」
「ミュー」
「グルァァァ!」
呼び寄せればすぐに俺の傍に来る二匹の召喚状態を解除して俺も島への転移を、
『そうでしたリク様。
アインは総括AIより貴方に言伝を頼まれていました』
「え?」
ウインドウの操作を一度中断し、AIがこちらを向きそんな事を言う。
総括AIから…伝言…?
『アインは長ったらしい構文が苦手なので要約しますと、貴方をいつも見ている…と』
「え」
『お熱いですね』
「は?」
転移を開始した瞬間に聞こえた言葉。
どういうことか聞き返そうとするが、その前に俺の視界が暗転。
「…監視宣言?」
「キュキュ?」
勝手知ったる天空島の俺の家。
ベッドに丸まりながら眠っていた白玉が転移に気付いたのか俺の方に歩み寄り肩に登る。
「なあ、白玉。
どうも俺は平穏にはいられないらしい」
「キュウ…?」
あれは運営の、統括AIからの警告か。
クロノスでやり過ぎた事が原因かどうかは知らないが、まさかのプレイヤーの監視とは。
俺よりも死神とか見張った方が良いと思う。
きっと傍から見れば俺の目は今死んでいるだろう。
ポフポフと頭を叩き、俺を慰める白玉を抱きしめベッドに身を沈める。
「寝よう、なんか疲れた」
「キュ~」
目を閉じて耳を澄ませば、外からは仲間達の声が聞こえてくる。賑やかだが心安らぐその声を子守歌に俺は眠りに落ちるのだった。
…あ、クエスト報酬貰ってないじゃん。
『プレイヤーにより王国アルファシアが解放されました』
『制限の一部が解除されます』
『【ダンジョン】が解放されました』
『三国の到達によりグランドクエストの進行を確認』
『グランドクエスト《罪禍の脈動》が開始されました』
書きたかった所まで書けた…私はもう悔いはないよ。
もう、ゴールしても良いよね(夏影)