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死神は謳い、道化は踊る12

窓から見える空は夜の帳を下げ始め、薄暗く陽を隠す。亡者は全て骨に取り込まれ、立っているのは三者のみとなった。



「良く耐えたな、飯は倍増だ」


『済マナイ…主』



いや、二人か。

腕を五本落とされた骨がその身を霧に変えて指輪に戻る。幾分か力を取り戻したとはいえ、初戦がこの人外相手では流石に保たなかったか。

黒鎌を削ったんだ充分働いたよ、もう休め。



「それで、次は私に何を見せてくれるの?」



大鎌を俺に向けながら、そう宣う死神。

あれだけ派手に暴れたのにこの女はまだ元気が有り余っているのか。人外恐るべし。



「『モンスターコール』…翠玉」



取り敢えず、この女の気を少しでも俺に向けさせなければならない。

俺の近くに姿を現した翠玉は、敵意を向ける死神を睨み付けている。ドウドウ。



「今度はその子がお相手?」


「まさか、可愛い応援団が欲しかっただけだ」



翠玉をぶつけるのも考えたのだが、ルナーティアが言う人に危害を加える判定がどこからどこまでか分からない以上無暗に戦わせる事は出来ない。

応援…つまりバフ要員。



「翠玉は」


「ミュン」



声を掛けようとした時、翠玉が後方へと下がった。

コイツ、俺の心を読んで動きやがったのか?やっぱり持つべき物は可愛いペット。

月歩、新月、弓張月…ここまではいつも通りだが、流石にもう一つ欲しい。

アイテムボックスからMP回復用のポーションを取り出し一息で飲み干す。



「『三日月』」



因幡流【中伝】アビリティの片割れ。

基本的に俺との相性が良くない技だが、あの状態の死神との戦いには割と噛み合う。

一足で空を踏み込み、狙うはその首。チート紛いのバフによって加算された俺のAGIは5400、クロノスよりは格段に落ちたが現状この世界ならそこそこ早い、とくと味わってみろ。


キーーーーン


甲高い音と立てて死神の持つ大鎌が俺の剣を弾く。そりゃあ、流石に易々とは取れないか。

欠損のハンデを物ともせず片腕で鎌を操るコイツは、果たして本当に人間なのか。

STRの補正でも限度があるだろ。



「リクくん、ココ狙い過ぎ」


「知ってる」



俺の戦い方はいつだって先手必勝。

中にはこの女みたいにリレイズを事前に掛けていたプレイヤーもいたが、そういう手合いは案外狩りやすい。残機があると人間動きに隙が出来やすい。

まあ、人外相手には全く通用しないのだが。


とはいえ『弓張月』を切った、ここから3分は俺に目を向けて貰おうか。地を蹴り、空を蹴り振るう大鎌と黒鎌を避け絶えず死神に剣を叩き込む。



「初期レベルの動きじゃないわねぇ」


「人は常に進化し続ける生き物だからな」


「成長してないのに?」



レベルを上げるタイミングを逃したんだよ。

折れた剣を死神に投げ放ち、両腰の武器を切り替える。

元々俺の使い方が荒いのもあるが、致命殺を狙う場合武器の耐久値の減少が通常よりも大きくなる。更にこの大鎌。

アルトメルン産の素材なら一振り、アズマ素材でも三度振ればお釈迦になる。

なんて武器泣かせな女だろう、俺じゃなきゃ号泣してる。



「面倒、臭い!」


「私は今楽しいのだけど!」



テメェの感情と俺の勘定をイコールで結ぶな。こちとら仲間達とのハッピーライフ擲ってここに来てんだぞ、大損だ。


一呼吸してHPを回復する。

『三日月』の効果は呼吸をトリガーにした5分間の即時回復。これが無ければ瘴気でゲームオーバーしてる。本当に期間イベの報酬にしては破格だよ因幡流。



「『レイジアックス』」


「見飽きた!」



斧系特有の無駄の多い攻撃を剣でいなす。

アビリティの予備モーションがクロノスから変わってないのが幸いだ、何十何百と見てきたその動きは考え事をしていても避けられる。

そもそも大鎌って斧なのか?



「『新月』…そこ!」


「ッ…さっすが!」



姿を消して足と腕に二撃。

そこそこ深く斬った腕と足だが、瘴気の効果ですぐに回復してしまう。マジでこのスキル考えたヤツ表出ろ。



「隙ありよ?」



無駄な事を考えている間に大鎌が俺に迫る。



「グルァァァァ」


「そういえば居たわねこの子!」



寸前で桜玉の尾が死神に飛んだ。

ごめん。正直俺も忘れてたけど助かった。



「桜玉、お前も翠玉の所に行ってろ」


「グル!?」


「心配するな」



さっき助けられた人間の台詞ではないけど。


体感そこまで時間が経った気はしないが、徐々に『弓張月』のエフェクトが消えかかっている。

そろそろ光の巨人も活動限界を迎える時間。

なら最後の見せ場だ、盛大に暴れてやる。



「これが最後だ、付いて来いよ死神」


「あら、もうお終いなの?」



新月と月歩を掛けて今出来る全力をこの女に当てる。腕でも足でも胴でも何でも狙える箇所を全て狙い斬り続ける。



「また早くなった!」


「こっちも本気なもんでな」



複数を狙い死神が対応できないように。

若干の調整を加えて、アビリティのリキャストを合わせ隙を与えることなく斬撃を。

斬れては治り、斬れては治りと忙しなくその身を変え続けた。


そんな時間もすぐに終わる。



「クソ…!」



最後にもう一撃入れるつもりが、数秒先に『弓張月』の効果時間が切れてしまった。

速度の低下に反応が鈍り、俺は地面に体を転がす。


立ち上がり体制を整えようとするが、剣を落とした。俺の傍に死神が大鎌を携え迫る。



「ねえリクくん、貴方やっぱり弱くなってるわ」


「初期レベルだぞ、手加減しろ」


「そうじゃないのだけれど、腑抜けた?」



死神と戦ったのは今から数年前の事。

そりゃ、もうあの頃の様にPKを楽しむ歳でもない。

だがそれでも、一つだけ間違ってる。



「次はもっと本気の貴方と戦いたい。

あの日の様に牙の尖れた貴方に…ね」



熱の籠った目で俺を見る死神は、大鎌を振り上げアビリティを発動しようとする。

前にも言ったがこれはこの女なりの賛辞だ。



「そうだ死神、最後に一つ」


「何かしら?」


「後ろにご注意を…ってな」


「二番煎じは美味しくないものよ」



それは残念だ、今度は本当だったのに。



「誰に武器を向けていますの…『女帝』」


「ッ…!」


ああ、やっぱり状態異常に耐性振ってないんだ。

天剣もそうなのだが、コイツ等は俺を過大評価し過ぎている。

俺が化け物相手に一人で来る訳ないじゃん。

戦闘狂は目の前の事にしか頭が回らないから助かるよ。硬直した死神の首元に手を伸ばし、首飾りを引き千切る。



「『弱点付与』」



アイテムボックスから取り出した毒小剣・改を腹に突き刺して笑う。



「弱体化完了だな!」



一度戦った敵は扱いやすくて良い、本当に。

さあ友情パワーで仲間と共に君も王国を救おう!

とっても王道展開。

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― 新着の感想 ―
王道展開 なお、やり方は考慮しないものとする。ですね!
[一言] 某空の果てを目指す王道バトルRPGによると、大鎌は斧です(迫真)
[一言] 囲んで棒で叩くのは古代から使われてきた狩りの手法なので王道!王道です!
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