死神は謳い、道化は踊る11
ほのぼのって、何やれば良いんだろう。
倒壊した王城の中で始まった惨劇。
自分は死ぬのだと思った時、姿を現したいつかの異邦人に救われた。そこまでは良かったのだが。
「彼は、味方なのだな?」
「味方…のはずなんだけど」
「なんと醜悪な…」
扉の隙間から見える光景。
ペイルライダーとの戦闘中に異邦人が召喚した黒い骸骨。その身から噴き出す憎悪を見ただけで悪寒が走る。
あれはきっと人が従えて良い物ではない。ペイルライダーとは別の、もっと根源的に忌むべきナニカ。
そんな者と言葉を交わし、剰え従属させる彼は一体何者なのか。聖国で彼と敵対しなくて良かったと改めて安堵する。
恐怖に次ぐ恐怖で、漸く動き出せるようになった体は未だ緊張状態。
「…長くは持たないだろう」
「動いてはダメですミカ。
貴女の体はもう限界なのですよ!」
「それでも!」
既に精霊術すら碌に使えない体だが、肉壁になる事なら可能なはずだ。
この国の存亡を掛けた戦い、彼が倒れてしまえばきっとペイルライダーは私達を殺しに来る。
それならば、少しでも彼の助けとならなければ。
「そうだよお姉さん、リッくんの邪魔しちゃダメ」
「ッ…誰だ」
「八千代だよ!」
「お嬢、名前じゃないと思いやす…」
後ろから発せられた幼い声に私とガブリエルが構える。
異国の装束を纏う小柄な少女と大柄な男。
その後ろには、それぞれ武器を携えた複数人の異邦人。どこか扉の向こうで戦う彼の姿を連想する黒い装いと笑う道化の腕章。
「事前に作っておいて良かったわい。
お披露目が死神相手とは思わんかったがのう」
「とか言って爺さん張り切ってたじゃねえか」
「オダメで良くここまで似せたじゃんね?」
「…良く馴染むぞ翁」
「やっぱり、これ」
「なんか団服っぽいよね!」
「どっちかって言えばファンクラブじゃねえかぁ?」
少女が少しだけ顔を覗かせながら王の間を見る。腰に差す剣…アズマの物だろう得物に手を掛け、今にも飛び出してしまいそうなほどの殺意。
「クソ、先越されちまった」
「こんな時に火事場泥棒するクランってどうなんスかねぇ」
「あっちじゃ良くやってたじゃねえか、俺様も良い装備が手に入ったぜ」
「そういう問題か?」
「…首領の指示は絶対」
「その通りだ白椿、我らの首領に間違いなどない」
「でもカンペイ。出番が少ないでござるな?」
「羅刹丸ぅぅぅぅぅ!」
「戦前なんスから煽らないで下さい。
死神さんに聞こえちゃうっスよ」
続々と集結する黒衣の者達。右通路から現れ、左通路からも現れその数を増やしていく。
そして、中央から来る一団。
「あら、私達が最後ですわ」
「下準備も大事だからね、リクにはさっきメッセ送ったよ」
「我らにとってもかつての雪辱を拭うチャンスだ。手柄を立てれば兄上に褒めて貰えるぞ」
「つまり、斬れば良いのだろう」
「やる気が出てきました。明日の仕事の事なんて考えてる余裕はなさそうです」
「おお、社畜の濁った眼が輝きだした」
「商談相手の目の前で断言しましたわね?」
異様だ。
こんな事態にも関わらず皆一様に、まるで祝祭に臨むように笑い合っている。
「それじゃ、リクの合図が来たら一斉に行く感じで」
「先手は私が貰いますわね」
「了解した」
ディニア様は口をつぐみ、ガブリエルは未だ警戒している。門の前に集い、今か今かとその時を待つ彼らに私は問いかけた。
「待ってくれ。貴公らは何者なのだ」
「…誰、これ」
「白椿、王国のNPCだぞ。
首領以外もちゃんと見ろ」
「…必要ある?」
「ダメだこりゃ」
私を見て怪訝な表情を浮かべる少女に頭を抱える黒髪の少年を見ていると、周囲が少し騒めきだす。
「何者って言えばいいんだ、これ」
「人斬り、クラン」
「もうPKクランじゃないよビビちゃん」
「リッくん親衛隊!」
「間違ってねえけど、今はそうじゃねえだろうなぁ」
「新選組?」
「血生臭すぎないかのう」
それぞれが案を出し合い対消滅する中で、糸目の男が私を見た。
集団の中では一際穏やかで、不気味な男。
「まあ何かと言われたら…」
「・・・・・」
「ボク達は彼を頭目に置く道化の一座かな」
精霊術…というか精霊、延いては神に干渉できる者は外界書庫の恩恵によって対面した相手の情報を朧気ながら知覚出来る。
クッソ分かりやすく言えば第六感。
何かコイツ話しやすいなぁ…とかコイツヤバそう…とかそういうふんわりした感じ。
テキスト外効果として、神の祝福を受けてるプレイヤーは同じ属性の精霊や精霊術師の友好度に少し補正が入る。
謎に首領がNPCの好感度稼いでるのはこれが作用してたりしてなかったり。
AIに第六感があるのかって?科学が発達した世界なら何とでもなるよ。
科学の力ってすげー!
あと朱雀はユニークスキル持ってないよ。