贈り物とアビリティ
さて、アルテマ二日目である。
昨日は我がクラメン達からの猛烈なバッシングにより心が砕けかけたが、何とか森の中の調査が出来た。
うん、何も居なかったよ。白玉が出てきたことで原生生物がいる可能性も充分あるはずなんだが、二時間位歩き回っても何も見つからなかった。
「てわけでログインっと」
「キュキュッ!」
お、開始そうそう白玉が俺に向かって手を挙げて挨拶している。可愛いな、昨日まであんなにプルプルしてたのが嘘のようだ。
外套についたフードの中に潜り込んでくる白玉を見ながら、俺は目線を別の方に移した。
「で、アレ何?」
「キュキュ?」
白玉に聞いても首を傾げるだけである。
それは俺のマイルームに積まれた袋の山。
文字通り山のように積んであるんだ。一体何事?
袋の山に手をかざすと突然アナウンスがなる。
《刃狼さんから贈り物が届いています》
《†災星†さんから贈り物が届いています》
《ハートの女王さんから贈り物が届いています》
《BBさんから贈り物が届いています》
etc…
うん、あいつ等の仕業だったわ。
ヒュージボアの皮とか骨とか、フォレストウルフの牙とか爪とか。あ、セイちゃんが武器送ってくれてる。
女王は…普通に装備アイテムじゃん。いや、俺に送るよりも自分の装備に回せよ。
贈り物ウインドウを流し見していると何件かメッセージが飛んできている事に気が付く。
なになに、開拓支援物資?開拓に役立てて欲しいって書いてるけど、これアレじゃん。俺男なのに姫プみたいになっちゃってんじゃん。
ありがたいけどヒモ野郎だよこれ、心が痛い。
あ、朱雀からもメッセが届いてる。何々…現在海を横断している?お前もなにやってんの?
「どうするかなぁ、これ」
「キュ…」
俺と白玉は遠い目をしながら未だ消えない山を見つめる。AI凄いね。
あ、やっと山がなくなった。
一先ず片付いた物資に息を吐き、俺はアイテム欄を開く。一回も狩りに行ってないのに、まるで徹夜でヘビロテしまくったようなアイテムの量。
「取り敢えず、配信するか」
「キュー」
白玉もコクリと頷いたので俺は配信を開始した。
開始と同時に既に数人の視聴者、今日は時間が早いからか5人程だ。いやまあ身内だけどね、ていうか待機してたのお前ら。
《いっちばーん!【八千代】》
《お嬢ずっと待機してやしたから…【蛮刀斎】》
《今日は早いね【月見大福】》
《何やるの?【HaYaSE】》
「おつかれ皆、なんか大量の支援物資ありがとう」
今の所使い道無いけどな。
「今日は拠点を作ろうと思ってるんだ」
そう、昨日の探検で取り敢えずの安全は保障された。なら次行う事は家作りだろう。
ここまで大きな島を所有しているのに、所有主が野宿生活なんて衆目が悪い。ならば家を作ろうと思ったんだが…。
「皆家の作り方って分かる?」
《しらなーい【八千代】》
《流石にわからないね【月見大福】》
《まだ開始二日目だし生産職でも家具位じゃないかぁ?【HaYaSE】》
そうだよな、作るとしたらテントか。もしくはどこかに屋根のある場所を探しに行くか。
マップを開いてカメラを近くに寄せる。
《この東側ってどうなってるんだろうね。森ではないみたいだけど【月見大福】》
「遠目で見ると石柱がゴロゴロしてる」
《人工物があるって事ですかい【蛮刀斎】》
自然で作られたにしてはちょっと形が綺麗なんだよな、あの石柱。こうして見てるとちょっと興味が湧いてくるのはお年頃の性だろうか。
そんな事を考えていると、白玉がフードから跳ね俺の前に現れる。
「キュキュッ!!」
《白玉ちゃんだ~!【八千代】》
《見えねえと思ったらそんな所にいたのかぁ…【HaYaSE】》
白玉が俺を見ながら声を上げている。なんだろう、ワクワクしてるような目だ。
ヒョイヒョイと前足を動かしジェスチャーを送っている。
え、何付いて来いって?
「…ついて行ってみるか?」
《絵柄が凄いファンシーだね【月見大福】》
目つきの悪い男とゆるふわ系ファンシーアニマルって似合わなくない?
下らない事を考えていると白玉が走り出す。あ、強制なんですね。
走る白玉を追いかける俺。ファンシー空間が殺伐としたハンティングに早変わりだ。
「て、あの子早くない!?」
《ステータスとか見てないの?【月見大福】》
見てなかったわ、後で確認しよう。
地面を思い切り踏みしめ昨日獲得した副産物スキルのアビリティを発動する。
「『月歩』『新月』」
因幡流【皆伝】。
それはクロノス・オンラインにおいて獲得する事が出来るユニークスキルの一つ。
お月見イベント『兎よ、月見て跳ねよ』に登場するNPCイナバシロウサギというガチムチうさ耳爺さんを単独討伐する事で期間中師事する事が出来る。
その見た目と暑苦しい性格からこれを収めた者は数少なかったが、このスキルの有用性は使用者からしたら計り知れない。
空中を踏みしめ速度を上げる。
「キュキュ!?」
「どこへ行こうと言うのかねぇぇぇぇぇ?」
数少ないポイントをAGIに振り、使い慣れたアビリティを駆使すれば幾ら早いお前の脚力にも追いつけるんだよぉぉぉぉぉ?
《いや無理だろぉ【HaYaSE】》
《なんでむしろ競り合えるんですかい【蛮刀斎】》
《人間の妙ってヤツだね【月見大福】》
外野はちょっと静かに!
楽しい駆けっこに夢中になり速度を増していると、急に白玉が動きを止めた。
そう、速度を増した状態でだ。
「あ」
《あ【八千代】》
《あ【月見大福】》
《あ【蛮刀斎】》
《あ【HaYaSE】》
《何やってんのリーダー?【flowerdrop】》
流れてくるコメントを確認したと同時に、俺は目の前にあった石柱に頭を強く叩きつける。
華ちゃんやっほー。あ、やばい死んだわ。
視界が暗くなるのをぼんやりと見ていると、視界端のモフモフの愕然とした表情が見えた。
AIすげ~(他人事)
因幡流の設定を考えていたら、あんまり関係ない裏設定が続々と顔を出す。
いつかクレイジー・キラークラウンの最初の事件も書きたいね。『第三王女誘拐事件』