死神は謳い、道化は踊る8
サムレムイベ…パル…書く時間がないよぅ…。
複雑に絡み合う四本の黒鎌が舞う。
片腕を失いながらも右腕で戦斧を振るい上げ、猛撃に耐えるミカエルの首を刎ねるように。
自在に動く黒鎌は、簡単に言ってしまえばそれぞれが意思を持つ腕のような物。
それら全てに即死付与の呪いが刻まれており、一度でも受ければ最悪お陀仏のクソ性能。
「クソッ…!」
彼女もよく耐える。
あの複雑怪奇に練り動く黒鎌を避けながら、死神の攻撃を捌く。
本能が告げているのかな、アレは当たると不味いって。
だが、軍配は死神に傾いてしまった。
仕掛けるタイミングを掴めずに受けに回ってしまっているが、それも仕方のない事。
あの腕は死神にとっての欠点補助。
周囲を巻き込み遠距離職を潰し、自分の有利な戦場を構成する為の様は舞台装置。
「アハハハッ!」
後ろの王女を狙わず四本全てをミカエルにつぎ込んでる辺り死神も大分熱に浮かされているらしい。
大鎌を薙ぎ払い、時たま格闘技を組み込むのはリアルでの知識なのだろう。
「『炎精の火』!」
「怖いわぁ…『ハイ・ヒール』」
白魔術は基本的にリキャストが短い。
それが中位の魔術だろうと、その秒数は僅か30秒。
至近距離から放たれる爆炎を受け止め、それでも追撃を止めない。
化物がアドレナリン全開の状態って本当に怖い。
あんなのと真正面から斬り合えるとか、お前英雄を名乗っても良いと思うよ。
適度に距離を取り、黒鎌を払い横走りするミカエルと楽しそうにその様子を俯瞰する死神。
アイツにとって、今この状況は差し詰め劇の佳境か。
国に喧嘩を売り、国民を殺して回り、王国の騎士を討ち果たし、最後は国を落とす。
そんな筋書きでもしてるのかね。
その後の事なんてきっと何も考えてはいない。怖いなぁ、本当に。
「フラメル、もう少しだけ…耐えてくれ!」
「・・・!・・・!」
ミカエルの武器から出る炎が少しずつ弱まっている。
それに、息遣いも荒く髪から色素が抜けているのか。
真霊武装は消耗が激しい。
先程聞いたばかりなのだが、成程寿命を擦り減らして力を使うとあんな事になるらしい。
それでも止まらず剣を振るうのは騎士の矜持か死神に対する怒り故か。
どちらにしても、勝負は着いたな。
「がっ…」
「すごく楽しかったわ」
黒鎌の一本に炎剣を打ち上げられ、横から振られる大鎌が胴に当たり飛ぶ。
希望論で勝利するなんて絵物語だ。
ここで覚醒でも起こせば舞台は盛り上がるのだろう、だが残念ながらここで彼女の物語は完結。
これが劇を見てる気分か、案外悪くない。
願わくばもう少し善戦してて欲しかった物だけど、まあ頑張った方だな。
既に死に体の状態、真霊武装を発動させた事で体は動かない。
自分の体に叱咤を投げるミカエルと大鎌を引き、近くまで歩み寄る死神。
「動け、動いてくれ!」
「ダメよ。劇はもう直終わる。
負けた役者は舞台を降りなければならない」
暴論ここに極まり。
そもそも、プレイヤーならば何とでも言えるが仮にもNPCは一つの命だ。
こんな怪物の演劇に付き合わされる身にもなって…いやコイツがそんな高尚な事考える訳ないか。
「それじゃあさようなら…『断頭台』」
振り上げた大鎌から黒が漏れ出す。
黒鎌を使用せずに自分の得物でトドメを刺そうとするのは自分なりの敬意だと昔言っていたな。
だけど、漸く。
漸くここで隙を見せてくれた。
目の前の役者に夢中なのは大変結構な事なのだけど、油断大敵って言葉を知らないの?
ーーそんな事だからあの日も俺に狩られたんだ。
自分の世界に酔いしれる死神のすぐ横で俺は剣を首に振るった。
刎ねた首が宙を舞う…が、その前にくっ付く。
コイツ事前にリヴァイブ掛けてやがったな。
「ッ!?」
「桜玉…体当たり」
「グルァァァァ!」
がら空きの胴体に桜玉全力のタックルをぶち込む。
既に『龍血解放』の効果は終わり小さくなっているが、結構飛んだな。
受け身を取れずに転がる死神を見ていると、心がスッと空く思いになる。
ざまぁ。
「あはっ…ここで出てくるって、正義の味方でも気取ってるの?」
「全部事故だ」
「貴公は!」
『隠者』は解けてしまい、俺の姿が周囲に露見する。
爆炎の中を一緒になって走り回った甲斐があった。死神の晒した馬鹿面のなんと愉快な事か。スクショも撮った。
「良い顔してるじゃん、死神」
「劇の途中に乱入して来るなんて無粋じゃないの道化師さん?」
「劇の作法なんか知らねえよ」
「これ一般常識だと思うわぁ」
ゲームの世界にリアルの一般常識とか持ち込まないで貰えません?
今を楽しめよ、お前の好きな劇の最中だろ。
「ガブリエル、ソイツを連れて下がってろ。
桜玉はあの黒鎌に当たらないように飛んで」
「分かったわ!」
「グルァァ!」
「ガブリエル…?」
「説明は後でするから」
門の後ろで控えていたガブリエルと俺の横に浮く桜玉に指示を飛ばし、死神に向き直る。
顔は笑っているが、邪魔をされたせいか少しだけ目が笑ってない。ゲリラ出演だぞ。
「選手交代の時間だ、折角来てやったんだから喜べよ」
「嬉しいのだけど、今じゃないのよねぇ。
不可侵の約束はどこに行ったの?」
「お前を監獄にぶち込んだら実質不可侵」
「わぁ、暴論」
どうせここまでNPC狩ったんなら宿業爆上がり中だろうし、今キルすれば一石二鳥。
俺はコイツの呪いから解放されるし世界も平和になる。素晴らしい考えだ。
「色々準備したんだ、ちょっと付き合えよ」
「あの緑の騎士の子…少し前にお姉さんが殺した子よね」
「そうだな、不思議だ」
「ていうか、いつからトレーナーに転職したの?」
「いつからだろうな」
クロノスにサヨナラしてからかな。
まあ、お前は今からここからバイバイする事になるんだけど。地獄…いや、監獄に落ちろ。
「それじゃあ死神」
剣を抜き放ち俺の怨敵を見据える。
「狩りの時間だ」
「話を聞いてないのねぇ」
お前の話を聞けば耳が腐るって八千代が言ってた。
さて、道化らしく喜劇の幕でも上げてやろうか。
首領「この外道が!」