死神は謳い、道化は踊る4
行け、清涼剤。
ほのぼの増やすか、
丑御前の絆ボイス…とても不穏で私好みです。
聖国には聖小竜と呼ばれる固有の竜種が存在する。
聖とは付くが、別に神の恩恵を受けている訳ではない。
それは人の支配する東の大陸では無類の速度を発揮し、聖国において要人の護送や不測の事態に備えた移動手段として用いられる。
そう、今王国に降り立った彼女のように。
「なんだ…これ…」
倒壊した家屋はこの地で行われた凄惨な跡を残し、周囲に倒れた人の群れは事切れている。
何があったのかは既に明白だ、あの怪物が暴れた。
既に一度見たあの日の殺戮。
「王城は…」
重い足取りで歩き出す。
護りたかった者を護れなかった、必ず戻ると誓った友との約束を守れなかった。
周囲に散らばる人だったモノを避け進み、大広間を越えた先に見える…見覚えのある鎧。
「ガブリ…エル…?」
快活な笑みをいつも浮かべていた彼女の姿。
薄緑の鎧を身に着けたその胴には首と右足がない。
周囲を見渡し少しの間…あった。
破壊された噴水の前に転がるその顔は恐怖を滲ませ、目元に涙の後がある。
すぐ近くには彼女の右足だったモノも。
「ぁ…ぁぁぁ」
喉に込み上げる物を抑え、声を殺して泣く。
怒り、憎しみ、恐怖、殺意、悲しみ…内にどろどろと渦巻く負の感情を吐き出すように涙を流す。
諫める者も慰める者もここにはいない。
「・・・・・・いかなきゃ」
枯れるほど流した涙を拭いミカエルは、王城を見据える。最早彼女に残された物は復讐しかない。
最愛の友人を守るべき民を殺したあの怪物をこの手で討つ。
背負っていた護身の剣を捨て去り手を突きだす。
「フラメル」
彼女の横に出現した火柱の中から、赤色の剣が姿を現し右の手に握る。
この身を捨ててでも、ヤツを殺す。
王城に向けて賑やかだった王都を背にして、一心不乱に走る。
階段を駆け上った先に見た守護隊とウリエルの骸に歯を噛み締め…登る。
悠然と佇む王城の扉は斬痕を残し開け放たれていた。巨大なナニカで無理やりこじ開けたような光景に背筋が凍った。
転々と落ちる死した骸は給仕達の物。
逃げようとした所を襲われたのだろう、殆どが背を天に向け倒れている。
『お父様!』
不意に聞こえた声。
生きている者、聞こえた声はあの方しかいない。
フラメルを握る力を強くし玉座の間へと向かうと…いた。
「陛下、ディニア様ッ」
「ミカ!」
ペイルライダーに首元を持ち上げられる国王ルディウスとその蛮行を止めようとする王女ディニア。
安堵と共に再燃する怒りを乗せてミカエルは吠えた。
「ペイルライダァァァァァ」
「赤い女の子、見えないと思ってたけどどこに居たのかしら?」
「その手を離せ!」
「ダメよぉ、今は劇の途中なんだから」
何かに酔いしれるようにニタリと笑う彼女。
劇。劇と言ったのか、この惨状を。
「精霊騎士の二人を落として、残すは王様と王女様…ああ、貴女もね」
「貴公は、何が目的なのだ」
姿形は同じでも、まるで自分とは別の存在と話をしているように錯覚するミカエル。
その問いに対してペイルライダーは謳う様に言葉を並べる。
「何も、ただ楽しそうだったから!」
悪意のない純粋な表情。
事実ペイルライダーに悪意はない、彼女はただゲームを楽しむために行動している。
クロノスでは成せなかった事をここでならと考え、フォレストスネークと風霊を討ち果たし王国に訪れた。
国崩しは誰しもが一度は思う事。
もしこのゲームで国を落としたらどうなるのだろう。
果たして運営は自身を罰するだろうかと。
心躍る敵を用意してくれるのだろうかと。
「それじゃあ、バイバイ王様」
「ぐっ…」
「やめろ!」
掴んでいた首を上に投げつけ、持っていた戦斧を振るう。胴が二つに割ける。
茫然とする王女の前に転がる王の遺骸。
「お父…様?」
「お話をしてる暇があるなら向かってきた方が良かったわぁ」
骸を蹴り飛ばし後方へ下げるペイルライダーは変わらぬ笑みを浮かべミカエルを見る。
彼女にとってはただのNPCの一つ。
まだ狩るべき者は二つある。
「貴公を…いや、貴様を殺してやる」
「良いわ、良いわね。その表情!」
「『真霊武装【炎狗】』」
吹き荒れる炎を纏い、ミカエルは斬りかかる。
さあ、ここからが二幕だ。
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暗い。
一切を闇に閉ざされた場所で恐怖する。
あの怪物と戦い、私は敗れこの場所にいる。
父様は人は死んだら月に昇るって言ってたけど、ここが月なんて嘘だよ。
だってここは暗くて狭い。
体も動かないし、声も出せない。
もっと生きたかった。
ミカとの約束も守れなかったな。
『・・・・!・・・・?』
不意に声が聞こえた。
暗闇の中に遠くから響く声に、私は不思議と安心感を覚える。
『・・・・・・!』
音が次第に近くなり、何を言ってるのかが聞こえて来る。
『これが人体の神秘か』
そして、暗闇の中に光が差し込む。
目を開けば、私の前に誰かがいるのが分かる。
黒い外套に身を包んだ青年と、桜色の大蛇。
「すげぇな、この葉っぱ。
絶対他のプレイヤーに流せねえ」
「グルァ…グル?グラァアァ!」
「どうした桜玉」
光の残滓が零れ落ちる。
何が起きたのか分からないけど、これだけは分かった。私は今生きている。
「あ…の…」
「え、何コワイ」
反射的に手を伸ばし触れようとすると、素早く振り払われた。でも温かい。
触れた私の手に熱を感じる。
「わ…たし…いきてる…?」
「まあ、首はくっ付いてるから生きてるんじゃない?」
事もなげに言う彼を見て、涙が溢れてくる。
治まらない熱を抑えるようにただただ涙を流す。
「みん…な…は…」
「さあ、俺はコイツに連れてこられたからアンタを蘇生させてみただけだし」
彼が指差す者を見た。
シルフィア…私の精霊が私の直ぐ近くで見ている。周囲の魔力を使い顕現したせいか、その身はとても小さい。
体を振るわせ、シルフィアが私に飛びつく。
「あ…ああ…」
「おめでとう、ラッキーだったな」
蘇生。聖国の聖女にしか扱えないその力を使い、彼は事もなげに幸運と言う。
そんな物で収まる事ではない。
私は重い体を上げて、彼に飛びつく。
「え…え?…違う、俺は悪くない!」
困惑し何かを叫ぶ彼を他所に、無言の街の中で私…ガブリエルは泣いた。
静寂は、搔き消された。
死んで二話目に復活する女がいるらしい。
おめでとうございます。
ガブリエルさん、二階級特進で王国勢ほのぼの枠入りです。
なんでかって?長身活発お姉さんが死ぬなんて勿体ねえ!
要は作者の好み。