神降の真打
超創世祭のBGMめっちゃ良い、あとは服のバリエーションを増やして…。
奇しくも桃カスをボックスに叩きこんだ日にこの武器が出てくるとは、この李白の目を以てしても…。
鉄を打つ音鳴っては一つ。
鉄を打つ音鳴っては二つ。
打ち付ける度に鉱石は熱を上げ、鋼は真にて輝く。
一つに心、二つに心。
心象強く持ち、神鳴る真打が唸りを上げる。
何て恰好付けてはいるが、現在新しい武器の作成中である。
作成中だと少し語弊があるか、聖国で手に入れた新しいスキル『神降の真打』の性能調査だ。
武器の進化…昨今のソシャゲにはよく目にする言葉だがまさかこの世界で聞く事になるとは思わなかった。
アルテマ…いやクロノスで表現しよう。あっちでの武器とは結局打たれればそれまでの物。
決められたステータスや武器の性能を引き上げる事は出来ないので大抵のプレイヤーは良い武器が出来ればすぐにそれに切り替え使用する。
ハクスラ要素の強いシステムだったのだが、何の因果か俺の手に渡ったこのスキルならもしかしたらと思い、今は『森蛇の毒小剣』を打ち直している。
今塗りこんでいるのは森蛇の毒ではなく、アズマに生息する女蝋蜘蛛なるモンスターの毒液。
ブラックモスの鱗粉でも良かったのだけど、女蝋蜘蛛は『強毒』を使用するそうなのでこっちにした。
上級鍛冶となった事とバルカンの加護で成功率は格段に上がっているはずなので、俺は俺の思うままに金槌を振るう。
思うのはただ一心にこれを受けた相手の嫌な顔。
主に最近嫌でも名前を聞く死神。
「『神降の真打』」
右腕に赤い光が集まり、やがてそれは炎となる。
…腕、燃えてるんだけど。
熱さもHP減少もないので気にせず打ち続けるが、なんだろう凄いシュール。
死神死ね…死神死ね…。
段々と、打っている内に毒小剣の見た目が変わる。最初は少し紫がかっただけの小剣だったのだが、色が毒々しく増し次第に刀身も薄くなっていく。
これ成功してるのかな。
死神死ね…死神死ね…。
耐久値が減ったら風狼のナイフみたいに調理用になる…毒だから調理用にも使えねえじゃん。
死神死ね…死神死ね…。
やってしまった物はしょうがないと作業を進めていると、甲高い金属音と共に小剣の周りが金色に輝く。
腕の炎が小さくなり消える所を見るに、これで進化は完了したのだろう。
「これで、完成か?」
「おう、良い心持ちだったぜ。
心象は最悪だったけどな」
「余計な事を…あ?」
「あん?」
気付けば後ろからバルカンが俺の毒小剣【改】を覗き込んできていた。
相も変わらず気配も何も感じない野郎だが、俺の心の中にはある一つの感情が渦巻いている。
「テメェェェェェ!
お前のせいで聖国で変なヤツと会っちまったじゃねえかぁぁぁぁ!」
「俺関係ねえだろうがよ!?」
毒小剣【改】を全力でバルカンにぶん投げるが、刀身を摘ままれ回収されてしまう。
クソ、低STRが憎い。
呆れたように俺に毒小剣を渡すバルカンだが、どこか楽し気な顔をしている。
「坊主、俺神だからな?」
「お前のせいで変な女と…!」
「だから関係ねえって…」
そりゃそうなんだけどさ、なんか聖国に入ってすぐの事だったから作為的な物を感じるじゃん。
ほら、あの女も炎の精霊とか言うの連れてたし。
実質お前のせいじゃね?
「やっぱテメェのせいじゃねえかぁぁぁぁ!」
「いや、落ち着けよ」
「それで何しに来たの?」
「なんで急に落ち着いてんだよ!?」
言葉遊びって楽しいよね。
何となくコイツなら乗ってくるだろうなと思ってやったは良いけど、随分と調子よく突っ込んでくれるもんだ。
「それより坊主、アレくれよ」
「どんだけ気に入ったんだよ…」
「もうあの供物無しじゃ生きていけねえぜ」
「お前神なんだよね?」
大分前から思ってけどバルカンって神として本当に祀られてるのだろうか。どこから見ても柄の悪い赤髪の男にしか見えないんだけど。
でも加護はくれたし、神なのか。
これが神かぁ…。
「まあ今回は忠告だけだ」
「忠告?」
「おう、聖国に姉貴の眷属を連れて行くのは止めた方が良いぜ。六聖教会だったか…あれの教義にゃ月の狩人は災いを齎すとか書かれてるからな」
知らない名前が続々と出て来たぞ。
六聖教会…聖国の信じる神がコイツ等なら、各属性通り神が居るのはまだ分かる。
でも月の狩人。
姉貴の眷属なんて呼ばれるのは白玉の事だろうけど、あれが狩人?
あのフワフワもふもふの小動物が?
「月の狩人って、白玉の事だよな?」
「あん?ああ…そうか。
あの眷属は昔、月の狩人なんて呼ばれてたんだよ。
姉貴の最初の眷属としてな。
どうにもそれを覚えてるヤツがいたらしい」
「でもおかしくないか。
ルナーティアは色災を封じる為に戦ったんだろ?」
「アイツらの与太話にゃ、俺達が人を護ったと伝えられてるんだ。神話は歪められてるんだよ」
「歪められた神話…」
「俺が言う事じゃあねえがな。
あの連中をあまり信用するんじゃねえぞ。
聖女は妄信的で自分で考える事はしない、教皇に至っては真っ黒だ」
神自ら聖国の批判とは驚きだ。
どうにもこの世界は一筋縄ではいかないらしい、シナリオのボリュームでも増量したのかな。
「まあ、坊主は好きなように動け。
俺達は世界の均衡を維持する為の装置に過ぎない。なんだったら聖国を落としても良いぜ」
「絶対やらないからな」
「好きにしな。俺達は混沌の時代が戻らなければ後はどうでもいい。坊主が色災を抑えてくれるなら尚ありがてぇしな」
食い終えた皿を俺に渡しバルカンは笑う。
神は気まぐれね、誰の言葉かは忘れたけどゲームの世界でも反映されるとはな。
溜息を吐く俺を心底面白そうに見ながらバルカンが言葉を紡ぐ。
「坊主」
「なに?」
「もうじき、王国で炎が上がるぜ。
せいぜいお前も楽しめ」
瞬きをするともういない。
あの野郎、言いたい事だけ言って消えやがった。
王国で炎…ねぇ。
良い事であるはずがないだろう。
せいぜい楽しめとは言うが何を楽しめば良い物か。
「…面倒事だろうなぁ」
毒小剣【改】を握り、近いうちに来るだろう戦火の気配をヒシヒシと感じるのだった。
『毒殺刃【苦楽】』
フォレストスネークの毒を丹念に塗り込み打たれた直剣に、女蝋蜘蛛の体液を執拗に重ねた最悪の刃。
作り手の凝縮した殺意を感じる。
:STR+50
:攻撃命中時、80%の確率で『麻痺』を付与。
:攻撃命中時、『強毒』を付与。