終わりと始まり
なんか書きたくなったから書く
深い森に包まれた館。
クロノス・オンラインにおいて、悪名名高きクランが根城とするこの場所に集まる20人の黒い影があった。
「さて皆、よく集まってくれた」
広間に置かれたロングテーブルの上座にて深く椅子に腰掛けた鋭い三白眼を持つ男の名はリク。
数多くのプレイヤーに恐れられたPKクラン《クレイジー・キラークラウン》を束ねる首領である。
一言も発さずただ首領の言葉を待つ者達に彼は言葉を続ける。
「来るXデー、このクロノス・オンラインが新生する日が遂に明日にまで迫ってきた」
『・・・・・・・・・・・・・』
大仰で芝居がかった喋り方、だがそれを聞く者達の顔は能面の如く変化がない。
明日0時よりクロノス・オンラインは大型アップデートを迎え、新しいゲーム『アルテマ・オンライン』へと切り替わる。
既存プレイヤーはコンバートというシステムが与えられ今のステータスや一部を除いたアイテムが一新され、全てが始まりの状態から始まる。
強くてニューゲームなんて物は存在しないだろう。このゲームに費やした全てが今無に帰ろうとしている。
「お前達の気持ちは痛いほど分かる。俺達はこのゲームに全てを費やし数多のプレイヤーを屠ってきた」
クラン《クレイジー・キラークラウン》はこのゲームにおいて最悪の象徴だった。
攻略組と宣う熟練プレイヤー様を軒並み狩り続け、20人足らずのクランであるにも関わらずNo1PKクランとまで呼ばれた。
掛けられた懸賞金は優に7桁を越え、懸賞稼ぎのバウンティプレイヤーなんてモノまで生み出してしまったのだから。
だからこそ、楽しかった。
たかがゲームの世界、それでも世界に名が轟くという事にある種の誇りと優越感を持ち合わせていた。
「だが、それも今日で終わりだ。俺達の不敗神話はここで終わる」
コンバートによって、名前に掛けられたレッドの枷も全て消える。恩赦というヤツだ。
きっとこの中にも普通のプレイヤーとして冒険したい者だっていただろう。リクは改めて周囲を見回す。
自分の我儘に付き合わせてしまった友人たちの顔を一つ一つ見た。
何かに堪えるような顔、常に一貫した能面のような顔、何故か目を輝かせてこちらをみる者。
「今日この日を持って、クラン《クレイジー・キラークラウン》の解散を宣言する」
腕に付けられた笑う道化の腕章を机に置く。
「誰か、異論があるヤツはいるか?」
訪れる静寂。
誰も彼もが考え、あるいは既に答えが出ているような表情で一拍の後に声が響いた。
『異議アリッ』
満場一致の異論だった。