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3 チートは簡単には手に入らないらしい

本日3話投稿の3話目です。

「え? ……俺を助けに?」

「そうだよ!」

「えーっと、誰かと間違ってませんか?」

「ううん。ウォード、間違いなく君だよ」

「…………」


 意味が分からない。助けられてこんな事言うのもなんだけど、俺に助ける価値があるのだろうか? 無意識のうちに怪訝な顔になっていた俺に、ネロが説明してくれる。


「突然こんな事言われても訳が分からないよね? 説明するから落ち着いて聞いてね? まずボクたちはドラグーンの部隊。ドラグーンって言うのはドラゴン、つまり竜の上位種だよ」

「りゅ、竜!?」


 俺は思わず椅子から立ち上がりかけた。父さんや村の人々が殺され、攫われて奴隷以下の扱いを受け、死にそうな目に遭ったのは人化した竜のせいだ。


(また竜に捕まったのか!? また酷い目に遭わされる?)


「ああ、安心して! 君達を傷付けるような事はしないから。とにかく座って、ね?」


 そう言われて「はい、そうですか」と信用する程お人好しじゃない。俺は椅子に浅く腰掛け、いつでも動けるように警戒した。相手が竜なら逃げるのは無理だろうけど。


 警戒して怯える俺を見て、ネロが申し訳なさそうな顔をする。そ、そんな顔をしても騙されないんだからね!


 とは言いつつも、俺はネロの言葉に耳を傾けた。美少女の困惑顔はご褒美である。それに、俺はこの世界の事をほとんど知らない。自分が住んでた村と隣村、そして例の鉱山くらいしか見た事がないのだ。そんな俺に、ネロが分かりやすく説明してくれる。


 まず、この大陸はボルスノア大陸と呼ばれ、縦に長い菱形をしている。人族が住む領域は南西の沿岸部に集中しており、大陸の30分の1程度の広さ。そこに5つの国がある。今俺達がいる場所は、一番北にある人族の国から東に300キロほど離れた所である。俺達が捕らえられていた鉱山から南に20キロくらいの場所だそうだ。


 人族の他にこの大陸に住むのは、獣人族、魚人族、蟲人族などで、それらをまとめて「人型」と呼ぶ。その他にドラグーンとドラゴンなどがいるらしい。


 ドラゴンはドラグーンの下位種だ。ドラゴンの中でも下位竜、中位竜、上位竜と分かれ、ドラグーンも同じく下位龍、中位龍、上位龍と分かれている。


 下位竜は理性に乏しく人化も出来ない。本能のままに暴れて人型に害を成すのはほとんどこの下位竜。中位竜から上は全て人化出来る。


ドラグーンとドラゴンの大きな違いは、普段は人の姿で、龍化出来るのがドラグーン。通常竜の姿で、人化出来るのがドラゴンだ。


 人化していると見分けがつかないが、龍あるいは竜の姿になったドラゴンとドラグーンは一目で違いが分かるとのこと。説明を聞いて俺がイメージしたのは、ドラゴンが西洋タイプの竜、ドラグーンが細長い東洋の龍って感じだ。


 そして、俺達を酷い目に遭わせた奴らは「デモニオ」と呼ばれる集団で、邪神を崇拝し、その復活を目論んでるヤバい奴ららしい。地球で言うカルト教団みたいなものだろうか。一人一人が冗談みたいに強いカルトって悪夢でしかないな。


「それで、なぜ俺を助けに……?」

「それはね、『神託』があったからだよ」

「神託?」

「うん。『龍属性』を持つ人族の子供を助けるように、って」

「龍属性……それを俺が持ってる?」

「そうだよ」


 ここで言う属性とは、平たく言うと種族の事らしい。人族なら人、獣人族なら獣、ドラゴンなら竜という種族属性を持つのが普通だ。

 ところが、稀に人族なのに蟲、魚人族なのに人という風に種族と異なる属性を持って生まれる人型がいる。ほとんどは生まれてすぐに死んでしまうそうだ。


「人族で種族属性が龍だと、貴重なの、ですか?」

「うん。超貴重」


 超貴重! いい響きだね! これはもしかしてチートも有りなのか?


「全属性の魔法を習得したら、最強の属性魔法が使えるようになるよ?」


 はい、キタァァアー! チート来ましたー! 俺はニヤニヤを必死で堪えたが、どうしても口がむにむにしてしまう。


「けどね……」


 へ? けど?


「かなり、いや、死ぬほど厳しい修行を積まないとダメみたい。歴史上最強に至ったのは僅か一人だけで、挑戦した他の人達は道半ばで死ぬか、途中で諦めたっていう話なんだ」

「な、なるほど……」


 ネロさんは上げて落とすタイプなのかな? こっちの世界に転生して一番テンションが上がったんだけど、下がるのも早かったよ。うんうん、そう簡単にチートは手に入らないって事だよね。ちっきしょうめ。


「まあ、ウォードが最強を目指すにしろ目指さないにしろ、ボクが君を守るから。少なくとも君が自分で自分の身を守れるようになるまではね」


 今回俺を攫った「デモニオ」は俺が超貴重な龍属性を持ってる事に気付かなかったらしい。ただ、普通より魔力が多いのを警戒して魔法封じの枷を五つも付けたみたい。でも、もっと高位のドラゴンやドラグーンだったら龍属性に気付く可能性が高いそうだ。


 最強の属性魔法は、唯一邪神に対抗できる魔法らしい。だから、邪神の信奉者にとって俺は危険因子なのである。最強に至る可能性はかなり低いが、危険な芽は潰すに越したことはない。早めに殺しておけば枕を高くして眠れるって訳だ。


 最強を目指そうがそうでなかろうが殺しに来るとか、邪神信奉者、マジで迷惑だな。


「でも、ネロさんに俺を守るメリットがあるんですか?」

「メリット? これはね、ボクの宿命……ううん、ボクにとっては恩返しだよ」


 恩返し? 過去に龍属性持ちに助けられでもしたんだろうか? 事情は分からないが、ドラグーンのネロが守ってくれるのは非常に心強い。


「ありがとうございます。ネロさんが守ってくれるなら心強いです」

「うん、任せて! さて、これからの事なんだけど――」


 ずっと後ろに立って無言を通していた青髪のメイドっぽい人が、ネロの耳に口を寄せて言葉を遮った。それで初めて天幕の外に意識が向いた。なんだか騒がしい。


「ウォード、しばらくここで待っててくれる? この中は安全だから、外に出ないようにね」


 ネロがにっこり微笑んで踵を返し、天幕から出て行く。後には俺とメイドさんだけが残された。ネロがすごくフレンドリーだったのに対し、メイドさんは俺を拒絶するような空気を発している。


 気まずい。


 前世でコミュ障だった俺だが、転生したからってコミュ力が上がった気はしない。この居たたまれない空気をどうにかする力など全くない。


 メイドさんに視線を向けないよう、俺はテーブルの木目に何らかの神秘を見出そうと集中していた。が、外で俄かに上がった爆発音にその集中が途切れる。突然の轟音に腰を浮かしかけた俺を、メイドさんが制した。その声は想像していたのと違って優しいものだった。


「大丈夫ですよ。ネロ様がいらっしゃれば万が一にも負けることなどありませんから」

「あ、あの……」

「これは申し遅れました。私はラムルネシア。ネロ様の側仕えです。ラムルとお呼びください」

「あ、ウォードです。よろしくお願いします。……あの、ネロさんは本当に大丈夫なんでしょうか」


 超がつく美少女、華奢な体、温和そうな性格。それに14~15歳の見た目。どう考えても戦闘向きとは思えない。


「まあ! あのネロ様を心配するなんて新鮮な反応ですね! 直接見てもらった方が早いでしょう」


 そう言うとラムルさんは外に繋がる布を開いてくれる。俺はその隙間から外の様子を窺った。


 天幕から100メートル程離れた場所に馬鹿デカい竜がいた。前世を含めてあんなに大きな生物を肉眼で見た事はない。6階建てのビルくらいある。二本足で立ち、体の倍以上ある翼を広げ、地面に向かって巨大な爪を振るっている。その度に地面が大きく抉れていた。


 その周りを囲むように白い鎧を来た戦士たちがいる。彼らはドラゴンの攻撃を巧みに躱し、剣や槍で攻撃を加えていた。


 そして、ドラゴンと俺の中間くらいの位置にネロが立っている。ドラゴンの方に少し右足を出し、右手を真っすぐ前に向けていた。その後ろ姿をよく見ると、極薄い靄のようなものが体から立ち昇っている。艶やかなツインテールの黒髪が踊るように舞っていた。そしてネロの前の空中に6つの魔法陣が現れ、そこから真っ赤な何かが放たれる。


 それは直径50センチはある炎の塊。真っ赤な尾を引きながら物凄い速さでドラゴンに向かって行く。周りの戦士達がさっと飛び退くと同時に、6つ全てがドラゴンに命中した。


 ドゴォォォオオオン!


 耳を塞ぎたくなる轟音と共にドラゴンが炎に包まれる。それは巨大な火柱となり、離れた俺にまで熱気が届いた。20秒ほどで火柱は消え、そこには真っ黒な巨岩のような、焦げたドラゴンの残骸が残っていた。


 周りを見渡すと、同じような黒い巨岩が他に3つある。ネロに目を戻すと、彼女はこちらを見ていた。目が合うと恥じらいと悔しさの入り混じった表情になる。


「見られちゃった……最初だけでも、ボクのこと可愛い女の子って思って欲しかったのにな……」


 ギリギリ聞こえるくらいの小さな呟きだった。それは巨大なドラゴンを一瞬で炭に変えた人物が発したとは思えない、とても可愛らしい少女の呟きに思えた。

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