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朱雀と弟  作者: 村上有リ
冷泉帝
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080.幸せな新年

 その年の暮れ、朱雀(すざく)院で三宮(さんのみや)の裳着を行った。生前母が住んでいた東北の対の西面に場所を設える。(ひかる)が準備を手伝ってくれたおかげでかなり立派な式になった。腰結(こしゆい)は太政大臣さんに頼んだが、柏木(かしわぎ)くんが三宮と交際していることを知ってくれているのか快く引き受けてくれた。

 左右の大臣、納言たちまでが忙しい年末の予定をやりくりして来てくれたのはありがたかった。春宮(とうぐう)冷泉(れいぜい)さんからもたくさん御祝いが届く。六條院からも使者が何度も訪問し、禄や引き出物をくれた。


「わあ、懐かしい……」


 中宮さまは昔斎宮として伊勢へ下られる際俺が贈った御櫛の箱を、原形を留めつつより雅に作り改めて三宮へ贈って下さった。俺が帝だった時代だから十五年以上前の物だけれど、全然古く見えない。物持ちいいなあ。今まで大切に持っていて下さったことも俺には嬉しかった。


「本日はお集まり頂きありがとうございました」


 俺は皆へ丁寧に礼をして。こんな大きな行事をするのもこれが最後かなと思っていた。三宮は緊張していたが、どこか晴れやかでほっとした顔にも見えて。今十三歳かな。女の子はしっかりしているなと思った。


◇◇◇


 裳着の片付けと同時に新年を迎える準備をして、年が明けた。光四十歳、冷泉さんは二十二歳になられる。光がいよいよ四十ということは、今年はいろんな宴が目白押しなんだろうな。夕霧(ゆうぎり)くんは十九歳か。雲居雁(くもいのかり)さんと結婚して、鋭い視線は変わらないけれど物腰がとても落ち着いたように見えた。


「朱雀さん! あけましておめでとうございます」


 新年早々挨拶に来てくれたのは柏木くんだった。


「雁に子どもがうまれました!」


 ニコニコの笑顔で教えてくれる。


「おめでとう! 良かったね」


 俺も嬉しくてついニコニコした。夕霧くんもついにお父さんかあ。(あおい)さんが祖母になったなんて信じられない。


「雁さんは元気?」


「はい。ピンピンしてます」


「よかった。産養(うぶやしない)お贈りするね」


 お母さんがお元気なのが何よりだなと思った。夕霧くんも大変だろうな。今頃赤ちゃんを抱っこして一生懸命あやしているだろうか。


「今日は六條院から(ふみ)を預かってきました」


 柏木くんはそう言って、光から預かった文を俺に渡してくれた。


「ありがとう。ごめんね、柏木くんを使いにして」


「いえ」


 光からの文はやっぱりいい匂いのする紙に優美な字で書いてあった。昔からだけれど、光は事務的な連絡に関しても徹底しておしゃれだから感心する。


「一月二十三日に、玉ちゃんが極秘で俺のために若菜の宴を開いてくれます。兄貴も暇なら来てもいいよ。」


 極秘の宴の開催を知っているのも面白いなと思って俺は苦笑した。


「若菜の宴かあ。風流だけど、光の邸なら大臣たちもいっぱいくるよね」


「そうですね」


「でも夕霧くんに会えるなら行こうかな……」


 光の邸は広いので、奥の方にこっそりいればバレないかなと思いつつ俺はつぶやいた。光が院と同等に扱われているので俺も気が楽だし。


「朱雀さん、あの」


 柏木くんは俺の前に座って少し言いづらそうにしていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「三宮様から降嫁のお許しを頂けた、と思います」


「そっか……ありがとう」


 俺は柏木くんを見つめると感謝して頭を下げた。


「ごめんね、時間をかけさせて」


「いえ、こちらこそありがとうございました」


 柏木くんは照れたように笑うと、少し恥ずかしそうに顔を伏せる。


「降嫁の日取りはいつにしようか」


「俺ならいつでも……。院にもご相談頂けますか」


「うん、わかった」


 降嫁の日にも予言があるのかな。今年は良いことが続くなと思いながら俺はうなずいた。


「お酒でも飲んでいく?」


「いえ、あの……」


 柏木くんが言いよどんでいるので、今日は三宮と会うために来たんだなと鈍い俺はやっと気づいた。


「ごめん、邪魔したね。文をありがとう」


「はい」


 俺が感謝すると、柏木くんは少し急いで去っていった。三宮の対へ行くのかな。


「素敵なお誘いをありがとう。目立たない所があれば置いて下さい。夕霧くんにお子さんが生まれたそうでおめでとうございます。あと三宮が柏木くんと結婚できそうなので、日取りの相談をしてもいいかな。」


 俺は光への返信を書いて使いの人に持っていってもらった。夕霧くんにお子さんということは、光も祖父になったんだな。なんだか信じられない。でもとても嬉しかった。

朱雀:桐壺帝の子。光の3歳上。のちの朱雀帝、朱雀院。

光:桐壺帝の子。朱雀の弟。

蛍:桐壺帝の子。朱雀、光の弟。のちの蛍兵部卿宮。

冷泉:光の長男。系図上は桐壺帝の子。朱雀帝時代の春宮。後の冷泉帝、冷泉院。

夕霧:光の次男。系図上は長男。光と葵の子。冷泉の3歳下。


女三宮:朱雀の娘。薫の母。柏木に想いを寄せられる。

雲居雁:太政大臣の娘。柏木の妹。夕霧の2歳上。夕霧の妻。

柏木:太政大臣の子。雲居雁の兄。夕霧の従兄。

玉鬘:夕顔と太政大臣の娘。光が自邸に引き取り親代わりとなった。

梅壺中宮:六条御息所の娘。冷泉の9歳上。秋好中宮。

葵:光の妻。光の4歳上。夕霧を産んですぐに亡くなる。

太政大臣:葵の兄。光の従兄。夕霧の伯父。

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