第一章・出発
「おはようございます」
少し長い黒髪が靡き、額の傷がちらっと見える黒い瞳の少年は肖像画に礼をする。
飾ってある肖像画は両親だ。
広い屋敷にただ一人の住人である少年は形見の黒い鎧と家宝である黄金の柄が特徴的な剣を拵える。
「父上、母上。仇はとって参ります」
少年は再度礼をし、広い屋敷を飛び出す。森と水のロゼルト王国。
そこの貴族アシュベルト家の現当主、それが少年の今の肩書きだ。
レンド大戦があった五年前から当主を務めている。今年齢十八になり、形見の黒い鎧もぴったり着れるようにもなった。
ロゼルト王国の国境で番兵に止められる。
「バン・アシュベルトだな。同盟国であるバラル帝国から話は聞いている。レオンハルト討伐の為に我が王国からも少ないが支度金が出ている。受け取れ」
バンは番兵から金貨を受け取り礼をする。
ロゼルト王国からはバンを含め数名しか志願しなかったレオンハルト討伐。
かつてバラル帝国二大騎士軍がひとつ魔軍と称された騎士軍を率いたレオンハルト・アルテルノ。国外追放の罪に問われた彼が終戦五年目にして姿を現した。
レンド大陸各地で帝国の復興と称して攻撃を行っていると。かつての魔軍の将。
ロゼルト王国からもバラル帝国からも進んで討伐しようとするものはほとんど現れなかった。
賞金が無けれ行こうとするものもいなかったであろう。バンを除いて。
「両親の仇、レオンハルト。貴様は絶対に俺が討つ」
レオンハルトが最後に現れたのはつい数日前にナタドラ公国付近。
まだ近くにいる可能性は高い。バンはナタドラ公国を目指していた。
ロゼルト王国からナタドラ公国は近い。歩いても一日せずとも着く距離だ。
バンはナタドラ公国へと急ぐ。貴族とはいえ裕福ではない。今バンに残されているのは鎧と剣とレオンハルトへの憎しみだけだった。
休憩もしないでひたすら歩く続けて半日ほど、バンはナタドラ公国の外れに到着した。まずは番兵に説明する。
「レオンハルト討伐にて許可証は貰っている」
許可証を見せ、門を通る。外れといえど活気がある町のようだ。
ナタドラ公国の玄関口である町には高官と守備隊が住んでいる。ここなら情報が期待できそうだ。バンは宿屋近くの掲示板を見てみることにした。