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2.最推しは悪役令嬢

 


 マリエラは屋敷へと戻るとまっすぐに自室へと駆け込み、その体を思い切りよくベッドの上に投げ出した。


(ああっ、尊い!ダリア様ってなんて素敵なの。あの冷ややかな眼差しの中に浮かぶ気品が、たまらないっ)


 ごろごろとドレスのままベッドの上を転がり、悶絶する。


(それに今日のお召し物も本当に素敵で……!やはりダリア様には、ああした張りのある最上級の生地がお似合いね。フリフリしたこんなチュールなんぞ、子どもっぽ過ぎて)


 自分のドレスに大量に重ねられたチュール生地を、マリエラは冷めた目で見下ろした。そう、こんな安っぽい子供だましのチュールなんて、ダリア様の前では何の価値もない。


 まだ16歳ながら、全身から漂うあの気品。凛とした佇まいからは何事にも揺らがない強さと、それでいてその裏には厳しくも優しさが滲み出て――。


(あぁ、今日も推しが尊い……!私の最推し、ダリア様。人類の宝と言ってもいい。なんて尊いの。できることならばもっと長く見つめていたかった……)


 ダリアの姿を思い浮かべ、その美しさにうっとりと目を輝かせた。


 ダリアの輝くばかりの美しさに対して、王子のあの安いメッキのようないやらしい存在感はどうだ。あんなくだらない存在がダリア様のおそばにいるなんて、言語道断である。


(私の最推しであるダリア様にあのように声をかけてもらいながら、あの態度は一体なんなの?失礼極まりないわ)


 せっかくの最推しを間近で見られた僥倖が、あの王子のせいですっかりくすんでしまった。


 そしてふと、ドアの外に気配を感じてマリエラは深いため息をつく。仕方なくずるずるとドレスを引きずってベッドから這い上がるとドアの鍵を開けた。


「お入り」


 声をかけると、しずしずと足音も立てずにメイドのノーザが部屋に入ってきた。


 長い髪をこれでもかという位ひっつめて後頭部でまとめたその陰気な姿は、まるで修道女のようだ。情の欠片もなさそうな厳しい目と鉄仮面のような表情は、何を考えているのかまったく読み取れない。

 少なくともそこに、人間らしい情とか優しさとかいったものは、微塵も感じられないのは確かだ。


「またドレスのままベッドに乗られたのですね。皴になりますので、すぐにお脱ぎください」


 マリエラは無言でさっとドレスを脱ぎ、身に着けていたアクセサリー一式をノーザに手渡した。そして少しは動きやすい、それでも無駄に布の量と装飾が多いドレスに着替える。


「旦那様がお呼びでございます。ご用意が出来ましたら、すぐに旦那様のお部屋へ」


 そういって、にこりともせずに部屋を出ていく。


 ひとりになった部屋で、マリエラは小さく舌打ちをした。どうせ誰も聞いていないし、聞いていたところでマリエラに令嬢らしくしろなどと忠告する者もいない。

 

(せっかくいい気分だったのに。仕方ないわね……)


 言われた通り、この屋敷の執務室へと足を向けた。


「入れ」


 ノックの後、耳障りな声が中から聞こえてきた。

 できるだけ感情を表に出さないよう、いつもの外用の笑顔を貼り付ける。 


「失礼いたします。お父様」


 黒い革張りの椅子にそのずんぐりとした不格好な体を押し込めて、男爵がこちらに向く。


「お呼びでしょうか」

「おお、マリエラ。今日の首尾はどうだった?少しはお目に留まったのか?」


 慎み深い笑みを顔に貼り付けたまま、マリエラは小さく首を振った。


「いいえ、申し訳ございません。今日はダリア様が、殿下のおそばについていらっしゃいましたので」


 推しの名前を口にするだけで、マリエラの心は華やかに浮き立つ。もっともそれを気取られないように、完全なるポーカーフェイスを崩すことはないのだが。


「……そうか。やはりあの娘は邪魔だな。マリエラ、三日後王宮で開かれる庭園での茶会にお前も招かれたぞ。まずはそこで、王子の気を引くのだ。なぁに、お前ならばきっとうまくやれる」

「庭園での茶会、でございますか?……わかりました。力を尽くしますわ」


 王宮での茶会ともなれば、きっとダリアも参加するだろう。なんといっても、ダリアは王子の婚約者候補の筆頭なのだから。内心楽しみで頬が緩みそうになるのを、必死にこらえる。


「……それから、ドレスはできるだけ胸元が大きく空いているものにしろ。コルセットもな。王子とてただの男だ。しかも胸の大きい女性に目がないと聞く。お前ならば申し分ないだろう」


 そういって下卑た笑いを口元に浮かべた。視線が自分の胸元に向いているのに気が付いてはいたが、こみあげる嫌悪と吐き気を押し隠した。


「分かりました。おっしゃる通りにいたします。では失礼いたします」


 淑女らしい礼とともに、執務室を後にする。一刻も早くこの薄汚い狸から遠ざかりたい、その一心でマリエラは自室へと急ぐのだった。


 




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