追い詰められた男
俺は日本で指折りのアニメ映画の監督・・・だった。
今はかなり零落れている。
「次ダメなら、仕事なくなるよ」
会社の上層部から「最終通告」を受けた。
どうする?
何を作ればいい?
今受けるのはどんな話だ?
感動もの? 動物もの?
そんなのは二番煎じだ。
魔法もの? それもやり尽くされた気がする。
霊界もの? 知識がない。
SFもの?
ダメだ。俺にはメカデザインが全く出来ない。
ロリコンもの、BLもの、全部もう二番煎じでしかない。
あ!
誰もやっていないジャンルがある。
自分の今の境遇をアニメにする。
これだ。誰もやってない。売れないアニメ監督の悲哀。
俺は意気込んで企画書を書き、上層部に提案した。
しかし・・・。
「そんな独り善がりのアニメ、誰が観るのかね?」
その一言でボツ。
俺はまたスタートラインに戻された。
それで自棄になって書き上げたのが、
「合体魔法ロボソーサルキング 悪霊軍団との銀河系大戦」
小学生の女の子が操縦する「魔法力」で動くロボットで、現世を乗っ取ろうと企む悪霊達との三界を超える壮絶バトルを描くアニメだ。
お色気、バイオレンス、メカバトル、霊力を使った攻撃。
とにかく思いつく限りのネタを仕込んだ。
結果は「大成功」だった。
空前の大ヒット。あの監督の興行収入を上回った。
俺は完全復帰したのだ。
「今笑ったような気がした」
昏睡状態の監督の見舞いに来た動画担当の私が呟くと、
「ありえないよ。完全な昏睡状態なんだよ。笑うわけないじゃん」
と同じく動画担当のさゆりが言った。私は苦笑いをして、
「そうだね。あり得ないよね」
「そうそう」
私達は病室を出た。
「監督、頑張り過ぎたんだよね。あの企画に人生賭けてた感じだったから」
「だよね。映画が完成する前に倒れちゃって・・・」
私達はしんみりして廊下を歩いた。
「あ・・・」
廊下の向こうから一番会いたくない人が来た。
大成功した俺は、完成目前で倒れた先輩監督の見舞いに来た。
「あ・・・」
一番会いたくない奴がこちらに歩いて来る。
「どうしよう?」
「どうしようも何も、普通に挨拶してすれ違えばいいよ」
さゆりのあっさりとした返事に私は余計オドオドした。
その時だった。
「グエッ・・・」
目の前でその人が苦しみ出した。そして大量の血を吐き、倒れた。
「きゃああ!」
私達の叫び声に病院のスタッフが驚いて駆けつけた。
「どうしたんです?」
「わかりません、突然苦しみ出して倒れたんです」
病院スタッフが倒れた人に近づいた時、
「触るな。これは殺人事件だ。全員そこを動かないように!」
と叫ぶ人がいた。
「権田原監督!」
私達は同時に叫んだ。
俺は挙動不審のプロデューサーの首根っこを掴んで、現場を仕切った。
「犯人はこいつだ。さっきゲロした。動画スタッフに対する度重なるセクハラを見かねて、その作画監督を殺害したのだそうだ」
事件は俺の名推理と迅速な現場指揮で解決した。
「アニメ製作スタッフ殺人事件」
と名づけられたその事件で、俺の名はさらに有名になった。
俺は有頂天になった。
しかし現実は残酷だった。
俺が作画監督のセクハラとプロデューサーの犯行を暴いたため、会社は仕事が激減した。
そして俺は仕事がなくなった。