令嬢の病気はマッドサイエンティスト(薬草学者) ロベルタは恋の罠の準備を始める
自分に欲がないというわけではない、商売を初めて結婚もした、息子もできた、まさか妻の方から別れたいと言われるとは思わなかった、いや、予感はしていたのだ、ただ、目を背けていただけなのだと今になって思うのだ。
「貴方には正直に生きて欲しいのよ」
その言葉が何を意味するのかわからなかった、ただ、後になって分かったのは妻が自分の書斎、机の中を見たということだ。
たいしたものは入っていない、仕事上の書類以外は、仲のいい友人達との手紙のやりとりぐらいだ、それを見たのだろうか。
だが、自分は愛人も浮気ほしたこともない、平凡な男だ。
息子は貴族の令嬢に見初められて婿養子に入ったのは驚きだった、妻に似ているからだろう、子供の頃は可愛かった画少年から青年へと大きくなるにつれてハンサムな顔立ちに磨きがかかってきた。
自分の子供でない事は明らかだが、そのことで妻を責める気にはなれなかった。
「ロベルターッッ」
その朝、悲鳴にも近い叫びで部屋に駆けつけた侍女は彼女の姿を見て驚いた、病気の再発だ、可憐な少女の姿は変貌していた、大人、いや、ちょっと年上のマダムといった感じにだ。
「お嬢様、気分は大丈夫ですか、目眩は、苦しくありませんか」
「だ、大丈夫、でも、こんなときに、どうして」
「お医者様も仰っていたではありませんか、変異は突然現れる事があると」
少女から大人の女に突然変わる、奇病といえば、確かに僧かもしれない、だが、これは黒髭のせいだとロベルタ、執事のクレイブも思っていた、あの頃、黒髭は魔法、薬草の研究や実験をしていたのだが、募集してやってきた薬草学者の中に一人、一見、まともそうな、だが、マッドサイエンティストがいた。
長身でガリガリの体、黒い前髪を長く垂らして顔を隠していたのだが、たまに見せる顔は吸血鬼、いや、病気なのかと思うほど血色が悪い、人付き合いも苦手で部屋に籠もって研究に没頭していたのだ。
だが、こういうタイプに限って頭が良かったりするので黒髭は、この男に色々な実験をさせ、研究費用も出していた。
「先生は病気じゃないかしら、食事も消化のいいもの、温かい薬草茶とか出してあげた方がいいんじゃないかと思うの」
離れの研究所に籠もっている、この学者を心配したのはジュスティーナだ、料理を運んだり、時折、様子を見に行ったりしていたのだ、これだけなら良かったのだが、ある日、メイドがロベルタに心配なんですと声をかけてきた。
「お嬢様が来ると引き留めたりして、この間、薬を飲ませようとしていたんです」
「く、薬、なんの」
「わかりません、でも、止めましたよ、お嬢様にも先生は忙しいから近寄らないようにと」
もしかして、お嬢様に(ごにょごにょ)とロベルタは不安になった。
あのマッドサイエンティストは三十後半から四十くらいだ、そしてお嬢様は・・・・・・。
黒髭、大旦那様に相談したほうがいいだろうか、だが、今、特別な研究の最中、それが終わったら即刻出入り禁止にしてもらおうと思った矢先のことだ、ジュスティーナが倒れたのだ。
あの男のせいだと思い、ロベルタはクレイブと結託して首にしたのはいうまでもない。
お嬢様の姿は変わっていた、落ち込むかと思ったが、ジャスティーナの人事、この姿なら、あの人とお話できないかしらと言われてロベルタは確かにと思った。
問題、一つクリアである、だが、見た目が大人になったからといってすぐにお近づきになれるわけではない、それに今のジュスティーナの姿は若い娘というより、少し年上だ。
「その男性と、お話なさりたいのですね」
「そ、そうなの、でも無理よ、会うことも難しいのに」
普通なら、ここで諦めてしまっても無理はない、だが、色々と調べて今なお、調査続行中だ(ロベルタ)。
「大丈夫です、お任せください、ですが、お嬢様にも協力して頂かなければなりません」
アンダーソン商会の店主、ヴァージルは基本的には人がいい、商売に多少、阿漕な手、いや、厳しくてもだ、だからロベルタは自ら仕込みをすることにした。
まずは、道をお尋ねしたいのですがとさりげなく偶然をを装い接触、声をかける、だが、この時の自分の服装にも気をつけた、メイドだが、両家、いわゆる上流の屋敷に勤めていること認識づけることだ。
色々と迷い、パターンを考えて、ロマンティックな設定でいく事にした。
「あなたが知っている方に、あまりにも似て、いえ、そっくりなので驚いてしまいました」
申し訳ないと深々と頭を下げる女性にヴァージルはとんでもないと首を振った、メイドというが、服や帽子、手袋まで質の良いのが一目でわかる。
「ここは田舎と聞いていましたが、人が多くて驚きました」
「ああ、以前はね、ただ黒髭と呼ばれた貴族が、亡くなる前に改革を初めてね、病院などの施設、ここ数年で賑やかになったよ」
黒髭、改革、それはお嬢様の為だとロベルタは思った、あのマッドサイエンティストの薬の弊害だ、黒髭は孫娘のジュスティーナの為に病院、ホテル、療養所などを建てたのだ。
「そうですか」
頷きながら、ロベルタは相手の顔を見ると、うるっと瞳を、そして、ふっと顔をそらした。
「申し訳ありません、お見苦しいところを」
これは、さりげなくだ。
「失礼だが、その私に似ているというのは、もしかして」
気になったのだろう、好奇心には勝てないというやつだ、ロベルタは頷いた。
「実は私のお仕えする女主人と一緒になるお方でした、ですが」
ロベルタは顔をわずかに背けた、これ以上は話せない、いや、聞かないでくれといいたげに。
「ああ、これは余計な事を、すまない」
目指していた店に着くとメイドは深々と頭を下げた、別れたヴァージルは歩き出したが、気になって振り返るとメイドは、まだ店には入っておらず、再び、頭を下げる。
なんとも不思議な出来事だと思いながら、家に向かう自分を待っていたのは息子だった。
「父さん、今度、商人達の集まるパーティに出席してほしいんだ」
苦手な集まりのお誘いを用意してだ。
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